地頭の発想の中に新しいモノが宿る

『2018年版中小企業白書』を読んで

 「中小企業白書」(以下、白書)とともに「小規模企業白書」も同時に出されましたが、今年のテーマは「深刻化する人手不足と中小企業の生産性革命」。

 労働生産性とは、労働者が一時間働いて、どれだけモノ(財およびサービス)を作れるかを測った値のことです。労働生産性の国際比較などを行う場合には、分子がGNP(国民総生産)で、それを分母の「就業者数×労働時間」で割ったものになります。

 日本生産性本部によると、「国際比較をすると、日本の労働生産性は低い」といいます。しかし、悲観的になる必要はなさそう。日本の労働生産性が低く見えるのは、いいモノを安く売っているからだという説があるからです。国際比較は単純にはいかないようです。

 さて、白書は生産性向上に取り組む中小企業の事例を豊富に紹介しています。ここでは、3例ほど会員企業の事例を紹介します。

 岐阜同友会の(株)亀井製作所は開発から製造・販売などのミニキッチンの総合メーカー。同社は受注したデータを製造工程まで一気通貫して流すシステムを2年前に導入し、それまで1日かけて人の手を介して行っていた受注データの入力から図面の設計までを30分で、誤りなく行うことができるようになりました。しかし、製造現場の生産管理におけるIT導入には慎重です。これには「IT化すべき部分とIT化すべきでない部分がある。IT化すると自らの頭で考えることがなくなり、急な受注が発生した際に現場が対応できなくなってしまう」という亀井社長の信条が背後にあるそうです。

 兵庫同友会のサワダ精密(株)は金属加工および各種自動機などの設計製作。従業員の離職が続いていたことを課題と考え、従業員の声を吸い上げ、業務改善につなげる「カイゼンカード」の仕組みを確立しました。提出されたカイゼンカードは、従業員のみで構成される「カイゼン委員会」で内容の評価を行い、経営陣はそこで決まった評価に応じて提案者に手当てを出しています。結果、生産現場での作業時間が短縮され、年間休日数も、取り組み前の90日から現在では105日まで増えました。残業時間は、取り組み前の約半分になり、従業員の定着率向上にもつながっているとのことです。

 三重同友会のハツメックグループは表面加工を総合的に手掛けますが、M&Aなどを通じて事業領域を拡大し、付加価値向上を図る企業グループ。大企業が新規事業として興した事業の中には想定した成果が得られなかったり、事業の市場規模が限られたりして中止してしまう事業が多いことに気づきました。それを譲り受け事業にしますが、自社の「企業文化」との統合を大切にするため、事業譲渡にこだわっているそうです。

 3つの事例とも、戦略がユニークであり、ヒューマンな方法と手段が同友会的な事例になっています。

 今回の白書で取り上げられた事例では68社中5社、小規模企業白書では45社中2社の会員企業が紹介されています。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2018年 5月 15日号より