共に育つ同友会らしい共同求人・社員教育を~就職情報交換会で4社が事例報告

首都圏(東京・神奈川・埼玉・千葉)同友会主催

 就職・採用活動における中小企業と学校関係者の相互理解と協力を目的として、首都圏の4同友会(東京、神奈川、埼玉、千葉)主催による「就職情報交換会」が5月14日に開かれました。(報道記事はこちら)「中小企業における社員共育(きょういく)」をテーマとした会員企業4社による事例報告の要旨を紹介します。

新卒の定着めざし「業務日誌方式」導入

小山企業(株) 常務 小山 忠氏(埼玉)

 小山企業(株)では、新卒が定着するように、他社の教育システムから学び「業務日誌方式」を取り入れています。

 新卒が入社すると、OJTの担当者が付いて、12カ月間毎日、業務の内容や仕事の感想などを勤務時間の8時間のなかで20分使って書くようにしています。そのことによって、OJTの理解度や、新入社員の心理状態を把握しながらの対応ができます。また、新入社員の文書能力の向上や文書を書く習慣づけにもなっています。

 毎日の業務日誌には、OJT担当者がコメントを書きます。疑問の解消や、文字の添削などを行うと同時に、社会人としての考え方も伝えています。そして最後は必ず、次の日へつながるように激励を書くようにしています。時間をとって文章にすることで、口にはなかなか出せないことも伝えることができ、教える側と教えられる側の深い相互理解につながっていると思います。

 OJT担当者は「今月はこれをできるようになる」など、新入社員に対する月間の指導目標を決めるようにしています。指導目標は、職能等級が7~1等級とある中で、その7等級基準にもとづいて成長の方向と見通しをもたせつつ提起し、進捗(しんちょく)状況を明らかにして、新入社員本人が理解し納得して課題に取り組めるように、オープンなコミュニケーションを心がけています。到達状況については、達成度評価などのチェックシートを記入しており、そこには新入社員の自己評価部分も作り、本人評価と教育者側の評価にギャップがある場合は、それを埋めることを心がけています。

 OJT担当者には、将来幹部社員になってもらうことも考えて、成長をしてもらうための時間もとっています。PDCAなど、新入社員の教育を通じて計画性をもって仕事ができるような成長を図ることで、新入社員とOJT担当者の双方にメリットが生まれています。

 入って2・3年のOJT担当者には、当然不安もあります。それを担当者同士の交流を図り、VTRなどの学習やディスカッションを通じて解決するようにしており、業務日誌は最終的には必ず人事担当者が読むようにしています。

 基礎的な学力というのは確かに必要ですが、採用の中で人を選ぶことより、人を育てることがもっと大切だという考えから、入社前の研修も充実させています。教育は知っている人が知らない人に教えることが大事なのであり、「知っていて当たり前」と思わずに、丁寧に人を育てていきたいと思っています。

人が豊かに成長できる企業を

ナショナルシューズ(株) 社長 伊澤 裕一郎氏(千葉)

 ナショナルシューズ(株)は、靴と鞄(かばん)の専門店として、首都圏を中心に駅ビル、ショッピングセンター内に現在26店舗のテナントを出店しています。経営理念に「私たちはお客様の喜びをわが喜びとし、時流に合った価値ある靴と鞄を正しい商品知識を持って明るく笑顔の接客サービスを添えて提供し続け、1人1人が成長し、物心共に豊かになれる会社にして行きます」を掲げ、人が成長していける企業を目指しています。

 社員数は正社員とパートを合わせて90名で、社員教育は各種の研修、朝礼の徹底、権限の移譲を位置づけて進めています。

 同友会で行う新入社員研修、女性社員研修、幹部社員研修の各種研修などに参加しており、昨年の経営研究集会には店長以上、本部スタッフと30数名の社員で参加しました。また、同友会の研修だけでなく、社団法人倫理研究所、社団法人公開経営指導協会や金融機関の各種セミナーなども積極的に活用しています。自社には、これまでフリーターをしていて、社会人としての入り口でしっかりした教育を受けた経験のない人も入社しますが、そういう社員にとって学べることは本当にうれしいようです。

 実務研修では、幹部を講師とした接客販売技術や商品知識に関する研修のほか、講演会に参加、取引先メーカーの工場見学、商品のセレクト(買い付け)に店長やバイヤーだけでなく若いスタッフも同行するなどしています。

 朝礼の徹底も重視しています。1店舗3~4名しかいませんが、経営理念や日常実践の目標を唱和しています。また、1日のスタートを元気よくできるように「接客7大用語」といったあいさつの実習を必ず行っています。各店舗の人数が少ない中でなかなか定着しませんでしたが、私自身をはじめ、本部から毎日幹部社員が足を運んで、繰り返し一緒に朝礼を行うことで、ようやく定着しました。

 権限移譲ということでは、パートで店長の社員もおり、21歳の女性店長や、入社1年少しで店長となった社員もいます。そういう店長に仕入れも任せ、売上・仕入れ・在庫といった数値管理、そして昨年からは粗利益の管理もできるように教育を進めています。店長として、日々自分の店の利益がどうなっているか分かるシステムを導入することで、単純に売ればいいというだけでなく、仕入れや在庫をコントロールできる力の養成にもつながってきています。

 研修などさまざまな教育を導入することにより、社員は実務的なことはもとより、人間として成長できるということに喜びを感じてくれています。

採用し育てる営み通じて自らの成長を

(株)コバヤシ 専務 小林 一郎氏(神奈川)

 (株)コバヤシはインテリア資材の総合商社で、さまざまなメーカーからさまざまな商材を仕入れて内装業者に販売するのが主な業務です。東京、神奈川で同業社は約100社あるといわれています。その中で、お客様に当社を選んで継続的に買っていただくためには、販売する商品に他社に負けない付加価値をつけていくことがポイントになってきます。それには対応する社員の質の向上が大切です。人間力のある会社をつくるため、新卒採用や社員教育を重視し「人間力経営」を目指しています。

 (株)コバヤシではこの10年間で71名の新卒を採用し、そのうち現在42名が在職しています。入社3年以内の社員は7割、入社5年以内の社員は6割が在職しています。退職理由で一番多いのは女性社員の結婚です。現在社員数が62名ということから考えても、新卒採用を継続的に行ってきたことがいかに会社を支えてきているかわかっていただけると思います。

 採用活動は経営者を先頭に全社体制で臨み、内定者研修は内定後のフォローと社会人へのウォーミングアップと位置づけて、本やテープなどの課題を与え、レポートを書いてもらうようにしています。

 また、新入社員研修は入社後、東京の本社で約2週間かけて行っています。マナー研修以外はすべて自社で教育しており、会社のことを座学形式で教えるだけでなく、営業日報や売上データなどの社内資料を分析し、先輩社員にインタビューし、ディスカッションして資料を作成、プレゼンテーションするといった内容の“グループ研究”も取り入れています。この研修を通じて、新入社員一人ひとりの能力や性格を知ることもできます。

 OJTによる新入社員教育は入社3~5年程度の社員がマンツーマンで行っています。各ペアの教育内容に差が出ないよう標準化・均一化をはかるために、自社独自の“新入社員指導マニュアル”に沿った教育を行っています。新入社員には研修ノートに理解した内容を書いてもらい、指導社員がコメントを返します。OJTによる新入社員教育は教える側の先輩社員の成長の場にもなっています。

 社内研修は、毎月第4土曜を研修日に決めて行っています。営業力強化を目的とした集合研修で、グループ討議や発表、ロールプレイングなどを織り交ぜて、学んだ内容を日常業務に落し込んでいけるように配慮しています。こうした研修の準備・運営は幹部社員が担当しており、社内研修は幹部社員の成長の場にもなっています。

 毎年新卒採用することで、社員は先輩になり教える側に回りますが、教える立場を経験すると人は成長します。また、経営者が先頭に立って自らが成長する姿を見せることも社員教育の1つだと考え、今後も取り組んでいきたいと思います。

従業員と共に育ちあう教育システム

(株)文化堂 会長 後藤 せき子氏(東京)

 社員教育の出発点は、創業したお菓子屋から始まりました。初めての求人は中卒の女子生徒で、学校での成績もあまりよくない人でした。学校では100点を取った経験がないと考えて、本人が100点満点を取れるような問題を作って釣り銭テストをしました。そこで満点を取れたという自信は、仕事のバネにもつながりました。

 また、当時の女性の夢は立派にお嫁に行くということですが、兄弟一番の親孝行な娘にしようということで、結婚準備の貯金をさせました。その時の社員の頑張りを見て、夢があれば実力以上の力を発揮するのだと知り、(株)文化堂の「100点成功主義」が生まれました。これは責任の範囲を広くしないで、狭い分野でも一生懸命そのことを追求すれば、社会人として一人前になれるということです。たとえば、牛乳という商品に絞って、原価や売値、粗利の計算、販売など、新入社員に全て任せるようにしています。責任範囲を小さく決めて、100点を取れるようになったら順次範囲を拡大していくようにしています。

 お菓子屋からスーパーに業態変更した時に、生鮮食品を扱うために職人を採用することになりました。しかし、そこで採用した人たちは、数字が全くわかりませんでした。どうやっていくか考え、新卒採用を重視しました。新入社員にも仕事を担ってもらえるように、一人ひとりの職人が何をやっているかを聞きとって、肉や野菜、魚それぞれのマニュアルを作ったのです。

 現在はそのマニュアルにもとづいて、新入社員にはマンツーマンのコーチャーを付けて、6カ月間徹底してそれぞれの分野について教育しています。このマニュアルを身につけると、「実習」のバッヂがはずせる仕組みになっています。

 スーパー業界はマーケットが縮小しています。勝ち残るためには、消費者に信頼してもらえる商売をする必要があります。活力のある組織は、理念にもとづいた責任体制の明確化と、その刷新によって成長できます。これまで、厳しい経営環境の中でも、従業員と共に育ちあってどうにかやってきました。「小さくてもやりようがある」ということだと思います。

「中小企業家しんぶん」 2008年 6月 15日号より