【第1次産業を地域再生の光に】(5)“くりはら風土”の創造で地域から元気を発信!―栗原発「農商工連携」(2)

食文化「ずんだ」の全国発信で農家に希望を―(有)パレット 社長 高橋 寛氏(宮城)

栗原支部

 会員15社で民間の道の駅「くりはら直売館よさこい」を開設するなど、第1次産業を柱に地域再生に向けた取り組みを推進している宮城同友会栗原登米支部の2社((有)ゑびす・(株)ダイチと(有)パレット。2社とも「農商工等連携事業計画」認定)の実践を前回に引き続き紹介します。今回は、(有)パレット・高橋社長の全国総会第13分科会での報告です。

指針を創る会で学び、地域の食材を意識

 私は農家の長男として生まれました。県内の農業短大を卒業後、パンと洋菓子の店で修業中、友人からの「店舗を任せたい」という話を受け、農家の後継者という立場ながらも、両親を説得し、1986年、28歳のときに20坪の店で独立しました。当初は小さなパン・洋菓子屋でしたが、現在は、栗原市に隣接する大崎市に4店舗、社員数はパート・アルバイトをあわせて63名です。

 今年、創業25周年を迎え、今後は農業を基盤とした第二創業により、地域を代表する産業にまで発展させたいと考えています。

 同友会は、20年来の友人でもある(有)ゑびす((株)ダイチ)の佐藤社長に誘われたのがきっかけです。その後、「経営指針を創る会」を受講。その前から経営コンサルタントの指導で経営理念は作っていましたが、「よい経営環境をつくる」という考え方は、同友会で初めて学ぶことができました。

 それまでも“新鮮”という面から、できるだけ地元のものを原料として使っていましたが、新しい経営理念を創ってからは、それまで以上に「地域にある食材をもっと使っていこう」と考えるようになりました。

食文化「ずんだ」に着目、農商工連携へ

 宮城県は歴史的にも米作が盛んで、パンやお菓子の原料になるフルーツや野菜の種類が少なく、特色ある食材はあまりありませんでした。そこで全国に発信できる食材を見つけたい、地元の農家の人たちに少しでもお役に立ちたいと、地域での取り組みに試行錯誤する中で、イタリア製の真空加工調理ができる機械と出合います。

 真空での調理加工は、フルーツなどの素材を生かし、通常の加工よりも新鮮さを保つことができます。高価だったため、社員の多くが反対でしたが、その機械の限りない可能性に惚れ込み、社長の独断で購入を決断。その機械を生かして付加価値の高い商品を生み出すための食材を探していたとき、頭に浮かんだのが「ずんだ」でした。

 「ずんだ」とは、仙台の伊達政宗公の時代から伝わる未成熟大豆(枝豆)を加工した宮城の食文化の1つです。しかし、鮮度が落ちやすいため冷凍販売が主で、日持ちする商品がありませんでした。そこで、真空加工調理機を使うことで、色も風味もしっかり残しながら日持ちする商品開発の可能性をイメージできました。

 宮城県は、北海道に次ぐ第2の大豆生産県ですが、周りには枝豆の生産農家が少なかったため、自分で栽培することにしました。自分で「生産」しながら、「販売」までどう結びつけたらよいのか、農家にお願いするにはどうすればよいか、と考えました。

 その後、この機械の導入がきっかけとなり、県の「経営革新計画」の認定を受けることができ、商品開発にかかる費用などは低利融資(補助金)を受けることができました。さらに、地元商工会からの応援も受け、宮城県での農商工連携の認定第1号となりました。

地元農家に新しい方向性と希望を

ずんだ菓子

 昨今の厳しい経済状況や世界の食料問題などがさらに深刻化すると、資源の少ない日本ではすぐに危機的状況を迎えるのは目に見えています。栗原市は農業が主産業ということもあり、今後は地元の農家の方に新しい方向性や希望を与えられるよう、取り組んでいきたいと考えています。

 現在の農業は、「市場」ありきです。市場に出荷できない規格外商品も多く、すべて商品化されていないのが現状です。わが社が連携している(株)愛宕産土農場とは、全量買い付けで進めています。そのため、減農薬や無農薬など最新の農業技術を駆使して、質も量も良いものをつくってほしいとお願いしています。

 食の安全性の観点からもトレーサビリティがしっかりしている産品を探している業者もいます。2年目の今年は、東京の商社などからもオファーが来るようになりました。

 「こだわり」という付加価値を積み重ね、おいしいだけでなく、製品化までの「物語」がしっかりと込められた新商品「ずんだの菓子」も近日発売予定です。「ずんだ」のほか、地元のイチゴやトマトなどを使った新商品の開発も完成目前です。

「地域の産業」として雇用にも貢献できる会社に

 農商工認定後の設備投資が多額だったこともあり、まずは販路拡大が第1の課題です。そこで重要なことは「知ってもらうこと」です。自社商品だけではなく、「くりはら直売館よさこい」で一緒に取り組んでいる(株)ダイチの「くりこま漢方和牛」や地域の商品もあわせてPRしていく方向で考えています。

 できるだけ多くの人と理念を共有し、「自社」「くりはら直売館よさこい」、そして「地域」の全てが良くなる方向へ進めていきます。情報交換を密にして、お互いが自然に紹介し合うことで、以前には考えられなかったような商社や業者からオファーを頂くという新たな実績も生まれています。

 わたしは、わが社の事業を「地域の産業」とまでいわれるようにし、しっかりと地域の雇用にも貢献できる会社にしていきたい。そのためにも幹部社員を育成し、後継者を育てるなど、将来につなげていきたいと考えています。

会社概要

設立 1986年
資本金 1000万円
社員数 63名
事業内容 菓子・パンの製造販売、農産物の加工卸
所在地 栗原市築館伊豆
TEL 0228-22-8010
http://www.palette-b.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2010年 10月 5日号より