【新春座談会】中小企業は地域活性化の主役―新しい歴史をつくる醍醐味を

学んで実践したことを伝える文化が出発点

 2011年がスタートしました。昨年は中小企業憲章が閣議決定され、各地で中小企業振興基本条例制定も進むなど、中小企業や同友会への期待が高まっています。企業づくり、地域づくり、同友会づくりをどう進めていくか、新春座談会を行いました。

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出席者

中同協会長 鋤柄 修氏((株)エステム会長)
中同協幹事長 広浜 泰久氏((株)ヒロハマ会長)
中同協副会長(三重同友会相談役)宮崎 由至氏((株)宮崎本店社長)
司会/中同協事務局長 松井 清充氏

Ⅰ 閉塞感を打ち破る企業づくり、同友会づくり

司会 新年あけましておめでとうございます。

 昨年は円高の影響もあり、閉塞感のあった年でした。みなさんが感じている今の時代の状況と、閉塞感を打ち破っていくような企業づくり、同友会づくりについてお話をお願いします。特に広浜さんには同友会づくり、宮崎さんには仕事づくり、鋤柄さんには憲章・条例運動を中心にお願いします。

「真の豊さを求める時代」に(広浜)

広浜 産業構造の変化の中で「真の豊さを求める時代」になってきていると感じます。昨年の青全交で記念講演をした佐藤繊維(株)の佐藤社長のところは、特殊な糸を使ったセーターを世界のビップに提供しています。駒澤大学の吉田敬一先生が言われる「文化型産業」の最たるものです。

 一方で大企業が行っているような一品大量生産の「文明型産業」があります。その間にはいろいろな仕事があるはずで、自社はどこを選ぶのか、もっと考えていいはずだと思います。その中にまだまだチャンスはあるはずです。

 企業づくりの方向として求められるのは、一言で言うと自立型企業づくりです。

 「労使見解」(「中小企業における労使関係の見解」)をベースにした経営指針をつくり、つくるだけではなくいかに実践につなげていくかが必要です。社員一人ひとりが、「今日の自分の課題は何か」計画を立てて、PDCAを回していく。いわゆる経営指針に基づいた経営をしていかないと、本物ではないと思います。

 そのような企業づくりができる同友会をつくっていくために、組織強化の点で3つの重点を提案したいと思います。

 1つ目は「顔の見える活動」です。同友会の醍醐味をできるだけ多く感じとってもらえる機会を増やすには、一人ひとりの目線に合った背中の押し方が必要です。それは「顔が見えている」状態でないとできません。

 2つ目は組織強化そのものを体系的に行っていかなければ、会員増強は進まないということです。例えば役員研修や広報・情報化、事務局の強化などの組織的課題に体系的に取り組むことです。

 3つ目として、同友会のテリトリーは例会のみならず、各専門委員会、そして憲章や条例など、近年大きく広がっています。その全てを有機的、総合的に展開しようということです。同時に全ての活動を会員増強につなげて考えるということです。同友会会員が増えることは、社会的にも意義があると信念をもって、これからも取り組んでいきたいと思います。

強みを明確に新たな仕事づくりを(宮崎)

宮崎 円高が進行し、企業が海外に出ていき、空洞化は避けられない状況になっています。大手企業がごそっと行ってしまうと、行政や地域にとっては由々しき問題です。

 地域を支えている企業集団が中小企業です。私たちが地域にしっかり根をはって仕事をしていくことが、私たち中小企業にとっても、地域にとっても大事なことになっています。

 円高やデフレが続き、今までと同じ商品、同じやり方では、必ず値段が下がります。新商品や新市場、新連携に取り組むしかありませんが、新連携は、官ではあまり成功事例がありません。初めて会った人同士では、強みも弱みもわからないのですから当然です。同友会の会員は、お互いをよく知っていますから、同友会会員同士が連携をするのがベストです。

 ただ残念ながら、中小企業の経営者は、自社の強みや弱みを知らないのです。私も知りませんでした。その点、同友会の仲間はよく知っています。お互いの強みを生かしながら連携していくには、同友会が最もいいと思っています。

 地域貢献と言いますが、地域の中でおカネがまわる一員に自社がなっているかが問われています。当社は酒造メーカーですが、米も段ボールも地元産に替えました。そうしないと地域を守っていけないし、地域から信頼もされません。

 日本酒は国内では本当に売れなくなりましたが、当社では今、お客様を選んできた結果がしっかりでてきています。以前は誰でもいいからと、日本中に値段を安くして売っていました。今は、お客様に合う商品を特定して営業をしています。それがお客様に届き始めています。

 私たちの商品やサービスをどこに届けたいかを明確にしていく必要があります。明確にすると競争相手も替わります。

 今、当社では高品質で値段も高い日本酒を海外で売ることに力を入れています。一方、焼酎は、低価格のものを国内の飲食店などに広く営業しています。以前とは営業のしかたが全く変わりました。

 営業担当の社員も値引きのストレスから解放されました。新しい需要を創(つく)っていくことは大変ですが、明日につながっていきます。値引きは明日につながりません。

 社員は、今がターニングポイントだとわかっていますので、大変だけど、「胸が躍る」と言っています。歴史を創っているのですから、まさに「龍馬伝」の世界です。

 私の息子が会社に入社して、社員数名と新商品開発プロジェクトに取り組んでいます。日本酒は、「もろみ」を発酵させ、最後に火を入れるという過程をたどるわけですが、そのプロジェクトから、発酵途中のもので、しかも火を入れないものを商品にできないかという提案がありました。それは5日で腐るお酒です。私は「せめて2週間くらいは大丈夫なようにできないのか」と言ったのですが、プロジェクトの若いメンバーは逆に「それが売りになる」と言うのです。 5日で飲んでもらう方法を考えて、それにふさわしいお客を探せば、「5日で腐る」という弱みが強みに変わるのです。

憲章草案を自社に置き換えて(鋤柄)

鋤柄 中小企業憲章は、正直もう少し時間がかかると思っていましたが、「よくできたな」というのが実感です。まだ私たちが求めている国会決議ではありませんが、閣議決定でも価値のあるものだと思います。条例運動に取り組む時に、国に憲章があることは、非常に大きな力になっています。県や市町村も「つくらないといけないな」と、雰囲気が変わってきています。

 現在の日本は、「第二次空洞化」の時代と言えます。当社は愛知県に本社があります。ご存知のように愛知県は自動車産業の集積地ですが、大きな変化が起ころうとしています。自動車産業の工場立地が大きく変わるのです。

 これまでの日本の産業構造は、大企業が中心で、大企業から中小企業に仕事が流れ、地域の経済循環がおこるという形でした。それは1つの成功モデルでしたが、今、それが崩れつつあります。

 そのような中、「何をすればいいの?」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。私は憲章をもう1度読み直すことをお勧めします。特に同友会がつくった「中小企業憲章草案」は、企業の課題が総合的に整理されています。それを自社に置き換えて考えれば、何をやるべきか見えてきます。

 条例をつくるということは、地域に経営指針をつくるということです。また企業で「経営者と社員が共に」ということが重要なように、地域でも首長・行政とさまざまな団体、地域の人々が「地域をどうするか」を一緒に考えることが非常に重要です。

 当社は水処理プラントなどの設計・施工・メンテナンス・調査分析の会社です。昨年、設立40周年を迎えましたが、お陰様で赤字は1度もありません。

 20年目の年に「第二創業をしよう」と会社の大改革を行いました。1990年から1年半かけて、同友会流に全社あげて改革に取り組みました。

大改革の時、私は同友会に入会して10年くらいたっていましたが、本当に学んだことを実践したのは、その時でした。社内に13の委員会をつくりましたが、その中の1つは「理念を見直そう」ということがテーマでした。そして論議の結果、理念に「水を中心とする環境文化」という言葉を入れたのです。それから20年経ちますが、先見性があったと思います。

 その過程では、社員を巻き込んで1泊2日の会議を毎週のように繰り返しましたが、それが良かったと思います。企業づくりは、つくるプロセスが大事です。社員が経営陣と一緒につくりあげ、「こういうものがつくりたかったんだ」というものができれば、理念は社風として根づくはずです。

Ⅱ 同友会での学びと実践 継続が大きな成果を生む

司会 同友会で学んだことをどう実践してきたかをお話しください。

学んだことを愚直に実践

宮崎 当社には、かつては経営理念もありませんでした。同友会に入会後、同友会の示すロードマップに従って、本当に愚直にやってきて、多くのことを学んだと実感しています。

 当社の経営理念は「当社は酒類・食品の製造販売を通じて社会に貢献できる企業を目指します」というものです。よく「理念が共有されない」と聞きますが、社員が理念を共有するということは、その人の生き方が問われてくるということです。そのことは、同友会で学ばないと気づかないのです。

 また、私が同友会に入ってから、会社に社員持ち株会をつくりました。今では私は33・3%の株しか持っていません。株主である社員は当然会社の決算書を見ています。当社は労働組合もありますが、情報が社員にも公開されていますので、変な意味での駆け引きが全くありません。ですから組合交渉のストレスや、社員との軋轢(あつれき)によるストレスなどがありません。これは本当に楽です。

経営者の生き様を学ぶ

鋤柄 同友会で学んだことを会社で実践してみると、うまくいかないこともありますし、自分はうまくいかなかったのに、同じように取り組んだほかの会員はうまくいったりする場合もあります。私は、それが生きた経営だと思います。同友会で学んだことを1年に1つでも実践していけば、10年で10個になり、会社は相当変わってくるはずです。

 愛知同友会の正副代表理事会は、それぞれの会社を持ち回りで会場にして開催しています。会社に行くと、同友会で学んだことを本当に実践しているかどうかがわかります。同友会は経営者の生き様を学ぶ会です。会社を訪問すると、経営者の生き様がわかるんです。そのくらい突っ込んでお互い学び合う必要があると思います。

 同友会で学ぶ上では、「あの人は自分にない優れた点があるな」という人を見つけることが大事です。「この点を学ぼう」という目的意識があるから、それを引き出すような会話をします。ヒントも得られます。

同友会に卒業はない

広浜 同友会で学ぶ場の基本は例会です。そこで身近な先輩経営者が後輩に、自分が学び実践してきたことを伝えていく文化があるかどうかが大事で、それが出発点ではないでしょうか。

 私も「同友会で学んだことを実践する」ということにはこだわりました。せっかく時間をかけて同友会に参加し、いい話を聞いたのに、使わない手はないと思います。ただ、聞いたことをそっくりそのままやっても駄目です。自社に置き換えることが必要です。

 当社も学んだことを実践してきた結果、会社が大きく変わりました。特に、理念をつくった時に会社が変わりました。当社では、塗料缶のふたなど、缶の部品をつくっています。理念に「缶の社会貢献を全面的に支援しよう」と大きく出たのですが、今はそれができてきていると感じます。

 典型的な例として、かつては納期遅れが年間約3600件あったのが、昨年は年間1件になりました。

 最近思ったのは、ずっと実践を繰り返してくると、いろいろなことが有機的につながってくるということです。実践していると、それが今までの経験と重なり、掛け算のように大きくなり、かつ有機的につながってくるのです。「同友会に卒業はない」と言われますが、本当にそう思います。

Ⅲ 人材戦略と国際化への対応 地域と「あてにしあてにされる」関係を

長期的な人材戦略を

司会 若者の就職難が言われていますが、採用についてどう考えていますか。

宮崎 長期計画に基づいた採用活動を行わないと、会社は駄目になります。人の採用では、本当に戦略的に行えているかどうかが大切です。誰かが辞めたから中途採用をするということを何年も続けていると、組織がパッチワークのようにつぎあてだらけになってしまいます。当社では同友会の共同求人にお世話になっています。戦略的、長期的に採用することが大事だと考えているからです。

 また地域で採用を続けていると、学校や地域からの信頼感が抜群になります。そういうことを地道にやっていくことが、地域に根ざす企業への第一歩です。

鋤柄 人が辞めたから採用するというのでは、スポーツでけが人が出てから、慌てて補欠を探すのと同じです。大手が縮こまっている今が人材採用のチャンスです。

広浜 当社では、部門別・年齢別に社員の構成表をつくっています。それをつくると、どこが足りないかすぐわかりますので、それに基づいて計画的に採用し、育成をしています。

国際化への対応

司会 国際化への対応について、どう考えていますか。

宮崎 ヨーロッパやアメリカに進出する場合、どれだけ儲かったかよりも、「なぜ進出するのか」ということを明確にすべきです。当社では日本酒でワインと勝負することをねらっていますので、「ミシュランガイド」に掲載されているようなお店と取引をしています。

 当社では、三重同友会の仲間とコラボレートして輸出しています。先日もシンガポールで見本市がありました。1ブースが大きすぎるし、高すぎるので、同友会の仲間に声をかけて数社で出展しました。これも同友会ならではです。

 一方、新しい仕事づくりは、地域を離れてはあり得ないと思います。地域の中でどう生きていくかを考える必要があります。そういう企業を地域が応援する仕組みをつくってほしいと思います。

鋤柄 当社でも昨年海外部担当を置き、海外にも動き出しました。ただ「海外でも、金儲けのためではなく、理念を大切にしよう。当社の技術、サービスを求めるお客様に出会ったら取引をしよう」と言っています。

広浜 当社では10年以上前から中国に工場をつくり、現地でつくったものを現地で販売しています。

 インドでは、日本人を対象にした不動産業をしています。はじめは工場をつくろうと考えて市場調査をしたのですが、まだそれほど市場がないことがわかりました。そして進出している日本企業の人たちが、住むところがなくて困っているということがわかりました。そこで、日本人向けにアパートをリニューアルし、食事も提供するというビジネスをしています。これが非常に好調です。

歴史を創る誇りと責任を

司会 最後に、同友会会員へのメッセージをお願いします。

広浜 同友会の醍醐味をできるだけ多くの人に享受してほしいと思います。1つは企業づくりの醍醐味。2つ目は役員として同友会をつくっていく醍醐味。そして3つめは、今同友会は、地域に影響力のある会になっています。地域をつくる醍醐味もぜひ味わってほしいと思います。

宮崎 今の経済状況は、相当大きな変革期にあります。「今、われわれは新しい歴史を創っている」という認識が必要だと思います。キーワードは「あてにし、あてにされる」ということ。大手が地域からいなくなる中、中小企業が地域をあてにし、地域も中小企業をあてにするという、新しい歴史を創っていく醍醐味を感じながら進んでいきましょう。

鋤柄 今、同友会は地域経済の活性化の主役になったという自覚と責任をもって同友会運動に取り組んでいただければと思います。国の政治も不安定性がある中、条例をつくり、地方から変えていくことが大事になるのではないでしょうか。

司会 ありがとうございました。時代の大きな転換の中、歴史を創るという誇りと責任をもって今年も企業活動に、同友会運動に取り組んでいきましょう。

「中小企業家しんぶん」 2011年 1月 5日号より