【第1次産業を地域再生の光に】(8) 経営者の視点とリーダーシップで、地域の活性化めざす

異業種13人の強み生かし、ブルーベリーの生産・販売~有限責任事業組合(LLP)水保ブルーベリー倶楽部 代表 高橋利幸氏(福島)

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 福島市は、桃・りんご・梨などの果物の生産が盛んです。福島駅から西へ行くと、果樹園が広がり、直売所が並ぶ全長14kmの「フルーツライン」があります。その一角に旧水保村(現・福島市庄野近辺)はあります。この辺りの土地は、吾妻山の噴火後に火山灰が積もった酸性の土地です。

 今回は、この土地を生かしブルーベリーの生産・販売をする有限責任事業組合(LLP)水保ブルーベリー倶楽部の活動を通し、地域再生について考えたいと思います。そこには、異業種ながらも志を同じくする同友会の仲間の姿がありました。

地域の元気と、つながりを守りたい

 代表の高橋さんの両親は水保村の兼業農家でした。高橋さんは1度自動車関連の企業に勤めますが、農業の大切さに気づき、岩手県で研修の後、福島に戻り専業農家となりました。

 5年前に有限責任事業組合(LLP)水保ブルーベリー倶楽部を立ち上げ、現在では13名のさまざまな業種の経営者やサラリーマンが集まり共同経営をし、土地を借り、皆でブルーベリーを生産し、販売しています。

 メンバーの共通点は、水保で育ったということ。高橋さんを含めて4名が同友会の会員経営者です。

 今回は、鮮魚仕出し弁当等・食品加工販売会社経営の(有)マルト一平代表取締役の阿部亨さん、自動車販売店経営の小島自動車(株)代表取締役 鬼島裕さん、飲食店経営のリュー企画・パブリュウ代表の佐々木リューさんにもお話を聞きました。

 「農業が不調な年は、他の業種にも影響が出ます。やはり農業を大事にする方法を考えないといけない」。

 4人共通の意見でした。経営に携わる立場だからこそ、その危機は肌で感じることができるということです。

農業は経済の要

 人々の食をはじめ、さまざまな分野で根底を支えている農業は、経済の要であるということは言うまでもありません。しかし、その農業は社会構造の変化の中で浸食され厳しくなっています。

 農家の高齢化が進み、農地は管理者がいなくなり、荒廃してきています。高齢者が元気に、そして若者が残りたくなる環境をつくって、地域を活性化させたいと模索した結果、ブルーベリーの生産にたどり着きました。

 酸性の土地はブルーベリーに適しています。また、ブルーベリーは健康志向の日本人に需要があり、女性や力の弱い人でも栽培・摘み取りができるという利点があります。

 現在は、所有している農地のほかに、農家とも契約。「農業従事者の方には収入と働きがいになり、土地も元気になり、地域全体が元気になるという循環を広げていきたい」と話します。

異業種の強み生かしブルーベリー生産

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 さまざまな業種が集まることは、資金だけでなく、技術や情報、人脈などの多様な連携ができます。

 ジャム作りは阿部さんが、ブルーベリーを使った新メニューの開発は佐々木さんが、また店頭にブルーベリーの木を置くなどして鬼島さんがPRするなどを行っています。このほか、土地の開拓は土木建築関連の方が、というように、皆で従来の設備でできることを行いました。

 本来の仕事を生かしていろんなことにチャレンジできるのは、異業種の集まりならではのメリットです。

 地域のためにと始めた活動でしたが、ベテラン農家の中には、これまでの桃やりんごの農地が新しいモノに変わっていくことに伝統が壊される、と焦りを感じた人もいたとのことです。また、農家が経営的な考えを持つことに対する偏見のような逆風もありました。しかし最近は、むしろ周囲が積極的になり、応援してくれるベテラン農家も増え、水保ブルーベリー倶楽部に対する期待も高まっています。

 活動がテレビでも紹介され、注目を浴びています。福島市からの依頼で東京へジャムなどを販売に行ったり、地域の小中学校の生徒や都会からの希望者などの農業体験も受け入れています。需要アップや認知度アップが期待できます。

 県内各地で講習会も行っており、講習会に参加した方々がPRにつなげてくれたり、栽培を始めたりと、良い効果が生まれています。

将来の生産者がいない

 近年、全国各地で農商工連携が注目を浴びていますが、農業問題は連携の機会の有無や、活動の支援金では決定的な解決にはならないと高橋さんは言います。

 大きな問題は、将来の生産者がいないということ。地元の若い人は、農業をしている親の苦労を知っているので、外へ出て行き、親もわざわざ農業を勧めません。一方、都会では、農業へのあこがれが募っていますが、たとえば補助金で5年間の育成事業をしても、補助が終わり、さあいよいよ独り立ち、という時期にきっぱりとやめてしまいます。都会から来る人は、現実を知って諦める人がほとんどだとのことです。

 農業は収入が少ない、将来不透明、地味で魅力が少ないなどの問題を抱えています。海外からの農産物の流入、天候の不順、値段が高いと消費者がすぐに牽制してしまいます。ましてや生産者がいなければ、連携すらできないと危機感を強めています。

 複雑な経済事情が重なり合う中で、何を大事にするか、地域全体で考えていかなければなりません。

農業の魅力を伝える

 今後の展開としては、賛同者を増やし、元気な若い人や女性などのキーマンを育成していきたいといいます。「キーマンの皆さんが頑張っている姿を見せ、農業の魅力をどんどん発信していけば、自分もやってみよう、という気持ちになる人が出てくるはず」です。年配者は新しいことへのチャレンジにリスクを感じてしまいがちですが、倶楽部がコーディネーターとなり、生産物を買い上げる保証を用意したいと考えています。

 農業への融資はたくさんありますが、受身ではなく、より効果的なものにするため、生産現場に立ち、より良い制度を考え、地域や行政に対しても提案していきます。中小企業憲章にもあるように、中小企業は地域を牽引していく原動力です。

 地域と密接に関わっている中小企業経営者だからこそ持てる視点やリーダーシップで生産現場を考えていくこと、これこそが地域再生の糸口となるのではないでしょうか。

会社概要

設立 2007年
資本金 100万円
組合員数 13名
業務内容 ブルーベリー生産販売、関連商品販売
所在地 福島県福島市庄野
TEL 024-593-2638

「中小企業家しんぶん」 2011年 2月 5日号より