【第1次産業を地域再生の光に】(9)「結いの田」「結いの畑」にはじける笑顔

みんなで育て、みんなで食べる無農薬の米・野菜―「安心・安全な食べ物は人を幸せにできる」と確信~サハラ・ファーム・宇治 代表 佐原 勤氏(京都)

 京都府宇治市で農家の5代目として農業に従事するサハラ・ファーム・宇治の佐原勤代表(京都同友会会員)。同ファームでは、水稲が5ヘクタール、万願寺とうがらしを1反、伏見甘長とうがらしを3反、カリフラワーを2反の畑で栽培しています。6年前から始めた無農薬で米や野菜をみんなで作る「結いの田」「結いの畑」の取り組みを紹介します。

農家の5代目としてわき上がった疑問から

 サハラ・ファーム・宇治の佐原勤代表は、父親の指導のもと、1982年から農業に従事し、篤農家として実力をつけてきましたが、いつしか農業に対する自分の考え方は果たして正しいのだろうかとの疑問がわき上がってきました。

 農薬をふんだんに使用し、害虫を駆除し、病気を抑える…。化成肥料を使って見てくれの良い野菜を作ることに抵抗感が出てきたと振り返ります。子どもが誕生し、せめてわが子には農薬に頼らずに作ったお米を食べさせたい…。そんな思いが強くなり、農薬を一切使わずお米を作ろうと決意し、まず10年前から始めたのが、不耕起米栽培(全く田んぼの土を耕さないで苗を植え付ける農法)でした。

 通常、秋に稲刈りをし、翌年の田植えまでに4~5回トラクターで土を反転させ、田植え直前にはどろどろに土をこねて田植えを行いますが、「不耕起」は字の如く、いっさい土を反転させません。耕さない硬い土に根を張れば、丈夫でたくましい稲になり、殺菌剤殺虫剤の要らない無農薬で作られたお米を実らせることができるというものです。

 時を同じくして周りからも「無農薬で作られたお米を食べたい」、そんな要望を佐原さんにぶつけてくる人が増えてきたと当時を振り返ります。

「結いの田うじ」は小さなコミュニティー

 「『自ら口にするものは自らの手で作りなさい』。これが食の安心・安全の極みです。どうですか? 私と一緒にお米を作りませんか?」。

 そんな旗を6年前に掲げた佐原さんのもとに、主婦、サラリーマン、学生、教職員などいろんな方が集まってきました。6月に田植え、7月、8月は毎週日曜日の朝7時に集まって、草取りやジャンボタニシの駆除を行います。

 田んぼという土俵に皆が一緒に集い、農作業を行い、そこに会話が生まれ、コミュニティーが生まれ、共に汗を流すことで同胞心、パートナーシップが生まれ、そこにはみんながみんなを助け合う気持ちが生まれ…。ひとつの小さな社会のモデルができ上がってきました。その田んぼは、「結いの田うじ」と名付けられました。

 3年前から、お米だけでは食を十分にカバーできないと、野菜も無農薬で作ろうと挑戦が始まりました。

 みんなで種をまき、みんなで苗を育て、みんなで苗を植える、みんなで草刈りをし、みんなで野菜を育て、みんなで収穫する。ガラス張りの田んぼと畑が現実に存在することになりました。

 畑作業は、夏の間は田んぼ作業の後に行います。田んぼ作業が必要なくなる秋から冬は、毎週日曜日の朝8時に集合がかかります。特別なことがないかぎり、毎週行われますが、参加は無理のない範囲で、ということになっています。「できる人ができるときに」が基本です。

「みんなが喜んでくれる」―そんな気持ちが自然に表せる社会に

 車で来る人、バイクで来る人、自転車で来る人など、いろいろな人たちがいろいろな手段で畑に集まってきます。そして畑のテーブルには、おにぎりが、味噌汁が、お茶が、沢庵が、ぜんざいが、お菓子が…。そうやって腹ごしらえをしてから作業が始まります。

 誰が決めたわけでもなく、誰かが要求したわけでもなく、朝ご飯が必要でしょう、おにぎりが必要でしょう、暑いから冷たいお茶があればみんな喜ぶでしょうと、自主性が生きる畑になっていきました。誰かがみんなのために自発的に用意する。

 「いつの間にかそんな気持ちが自然に表せる、そんな社会になっていきました」(佐原さん)。その畑は「結いの畑」と名付けられました。

 みな、畑で採れたものに愛情を持っています。大切な人に、自分以外の誰かに食べさせてあげたいという思いも芽生えてきました。

「結いの畑」でとれた無農薬野菜を地域の高齢者に届けたい

 「畑作業をするには体力的に厳しいというお年寄りも、結いの田、結いの畑を応援してくださるようになりました。だから畑で獲れた野菜を1人暮らしのお年寄りの元に届ける。そんな思いを実現させたい」と、昨年は2世帯だけですが、「お届け便」を試みました。

「お届け便」とは、地域商店街活性化と買い物に不自由をされている1人暮らしのお年寄りに商品を届けるシステムで、畑のメンバーの1人が中心となって始めました。

 これは、地域貢献を目指す「温かな御用聞きねっと たんぽぽ」(2009年度「京のチカラ・明日のチカラコンクール」で京都新聞賞を受賞した企画)で、無農薬野菜を地域の高齢者に届けられないかと模索検討されたもので、いよいよ実現に向けて取り組みが始まっています。

 定期的な需要に応えられるようにするには、規模は? 労働力の確保は? など、いろいろ検討していかねばならない課題が出てきました。

 佐原さんは、「ここ数年の取り組みの中で安心、安全な食べ物は人を幸せにできることを確信しました。そして、農業という職業に誇りとやりがいを持って働けることに感謝します。いつも集まって下さる皆さんが一番の宝物であると感じています」と話します。

 サハラ・ファーム・宇治のホームページには、結いの田、結いの畑に集うたくさんの笑顔と笑い声が掲載されています。

会社概要

作付け面積 水稲(5ヘクタール)、京都伝統野菜の伏見トウガラシ(3反)、万願寺トウガラシ(1反)、カリフラワー(2反)
所在地 宇治市槙島町一ノ坪
TEL 0774-21-2750
http://www.wao.or.jp/sahara/

「中小企業家しんぶん」 2011年 3月 5日号より