地域への役割を明確にし粘り強く取り組み~工場全壊乗り越え内陸に工場新設 (株)アイアン車体 社長 佐藤 忠氏

甚大被害からの事業債権とグループ補助金-その意義と課題(岩手)(上)

 東日本大震災から2年を迎えます。同友会会員企業は甚大被害に遭った中でも果敢に事業再建に取り組んできました。事業再建の支援施策の1つとしてグループ補助金※があります。岩手同友会の会員企業の事例からグループ補助金の意義と課題を2回にわたって見ていきます。

取材・中平智之(中同協事務局員)

 釜石市の工場が津波で全壊した(株)アイアン車体(佐藤忠社長、岩手同友会会員)は2012年7月から内陸の遠野市に工場を新設して事業を本格的に再開しています。震災前は釜石湾から約500メートルの位置に事業所を構えていましたが津波で全壊、佐藤社長は自宅も失いました。社員18人全員が無事だったことは不幸中の幸いでした。

 被害額は約3億円。自動車整備工場として県内屈指の最先端設備を導入していました。佐藤社長は「何もなくなったからこそ、また新しい理想の工場をつくろう」と震災から間もなく2011年3月末には再建の意思を固めました。当初は中小企業基盤整備機構による仮設企業団地に入ることを検討しましたが建設計画の遅れと、30坪の敷地では自動車工場として十分に機能しないことから工場の新設を決断。津波被害の復旧に時間がかかる上、地価が高騰している釜石ではなく、内陸の遠野市に新展開して商圏をカバーすることにしました。

 新設にあたっては震災前と同規模・同内容の設備とすることにこだわりました。自動車整備業界の競争環境が厳しくなる中、電気自動車やハイブリッドカーにも対応でき、地域からも選ばれる工場になること、そして社員の作業負担が少ない働きやすい環境をつくることが業界で生き残る上で重要と佐藤氏は考えたからです。

グループ補助金取得への課題

 短期間でこうした工場を新設するための資金繰りとして、グループ補助金の取得に注力しました。金融機関から融資を受ける上でもグループ補助金の取得は重要な課題でした。2011年6月の第1次申請、8月の第2次申請は不採択。FAX1枚で「不採択」通知が来ると、約50ページの複雑な申請書をやっとの思いで提出したのは一体何だったのかと徒労感に襲われました。「どの業種のどの企業に取らせるのか最初から決まっているのではないのか…」という思いもむくむくと頭をもたげてきました。

 どのようなグループを組んで、どのような点をアピールすればよいのか手がかりがつかめず困っていた最中、ある省庁の行政マンに相談したことが転機になりました。第3次申請書の具体的な内容についてアドバイスを受けて自動車整備振興会に関連する11社で新たにグループを組み、「基幹産業」、「サプライチェーン」、「地域コミュニティー再生」をキーワードとして提出した申請が採択されました。被災地の足としての自動車の存在と点検整備の重要性をアピールした結果でした。

 2012年7月から新工場を本格稼働しました。技術者の多くが震災前と変わらず勤務していることもあり、同社の技術力の高さは定評を得ています。佐藤氏の再建への確固とした思いと、津波から社員全員が助かったことと、支援を受けて自社の社会的役割を明確化しグループ補助金の取得が実現したことが同社の再建のカギとなりました。「これからが私たちの本当のスタートです」と佐藤氏は表情をぐっと引き締めて語りました。

会社概要

創業 1982年
資本金 2000万円
事業内容 自動車車体整備、自動車一般整備、自動車保険代理店、自動車販売、レッカーロードサービス
従業員数 18名
所在地 岩手県遠野市青笹町糠前

※グループ補助金
 正式名は中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業。震災で被災した中小企業の施設や設備の復旧と整備を支援するため、事業費の75%(国50%、県25%)を上限に補助する制度。

「中小企業家しんぶん」 2013年 3月 5日号より