業界の動きに新たな一手を

【業界ウォッチ】(特別版)

 円安や原材料の高騰、消費増税など企業に迫る経営環境は劇的に変化しています。今回は新企画「業界ウォッチ」の特集として異なる業界である3社の事例を紹介します。

【鋼材加工業界】 多種の業界に柔軟に対応

鋼材加工業界

 京浜産業(株) 代表取締役副会長 酒匂 雅隆氏(神奈川)

 当鋼材加工業界は鉄鋼/電炉メーカーや商社経由で鋼材を購入し、切断・溶断加工をする1次加工、穴あけ・曲げ加工をする2次加工、溶接・組立てをする製缶・組立加工、さらに機械加工など、業界での加工スパンは多種多様です。

 鉄は産業の米と言われるほどに消費分野が広く、造船、鉄道車両、産業・建設機械、重電、自動車、橋梁、建築などがあります。当業界は各業界の基盤となる部材を加工する業態です。円安による受注数量や受注額への影響は、造船、産業・建設機械が有利な方向となっており、受注量も増加しています。一方、鉄道車両、橋梁、建築分野などは国内のインフラ整備の分野であり、自動車、建設などは一部復興やインフラ更新・補強の分野であり円安に直接的影響を受け難い分野です。重電や自動車など不安定世界情勢がマイナス要因となっている物件もあります。

 また、当業界はエネルギー消費型の業種であり、円安により、輸入LPG、原油、その他の要因である原発停止、太陽光発電買取制度を含めた電気料金高騰による製造コストのアップは、当社でも動力費(300万Kwh/年)の大幅な増加(30%増)をもたらしています。現在、法人税率低減の代替財源の1つに外形標準課税の中小企業への適用が検討されていますが、エネルギー消費型の産業では、為替変動による影響の方が遥かに大きくなっています。省エネに関しては、2006年から、「環境に関する理念・方針」を制定し、エネルギーCO2管理の月次報告、2010年から同友エコにエントリーし2年連続地球環境委員長賞を受賞。現在もエネルギー原単位低減活動を継続しています。

 今年の鉄鋼内需は昨年に近い、6500万トンと予想されており大きな変化はありませんが、鉄鋼原料や鋼材の価格は、以前から需要と供給バランスから変動が大きく、その影響は為替変動を超えることもあります。現時点では、需要減から鉄鋼原料価格は大きく低下しており、また在庫を抱えた中国や東南アジアからの輸出攻勢で価格低下圧力がかかっています。

 現在、自社の強みを生かした分野への重点戦略を設備投資・鋼材在庫確保と共に進めています。

 「選択と集中」戦略の結果、当社の売上げトップ30の顧客が10年間で20社入れ替わっていますが、顧客情報量・質共に同業他社に勝るよう営業活動・生産性向上を継続しています。

【エレベーター保守管理業界】 メーカーに負けない提案を

エレベータ保守管理業界

京都エレベータ(株) 取締役相談役 岩島 伸二氏(京都)

 現在、日本国内では約75万台のエレベーターが稼働していると言われます。その保守はメーカー系列が90%近くのシェアを大手5社で独占的に抑えています。残り約10%を独立系の保守業者で保守をしています。

 従来から比較的景気動向には左右されず円安・消費の停滞などの直接的影響がすぐに出にくい業界ではありますが、長引くデフレによる保守料金の減額要請と同業者間での無秩序な価格競争の結果、保守料金は過去の半額以下まで下落しています。

 エレベーター業界ではメーカーが設計事務所やゼネコンに営業攻勢をかけ、俗に「半値の8掛け2割引き」からという極端な値引き競争(例えば定価2000万円として約600万円程度まで値引きする商習慣)で販売し、完成後はメーカー系列の保守会社が独占的価格(高額な保守料金)で30年間程度かけて回収するというビジネスモデルでした。この為にメーカーは一切の部品を系列以外には販売せず独占的な市場支配を長く守ってきました。

 この業界に部品販売をしないのは独占禁止法違反だとし10年間の裁判闘争を戦い勝利し、業界に競争原理を持ち込んだのが、われわれ心ある一部の独立系保守業者でした。しかし、メーカーが部品販売を行いだすと雨後の竹の子のようにあらゆる業者が参入し、後発業者や全国制覇を目指す一部の業者は大量受注をするために低価格競争を仕掛けました。結果、メーカーもダンピング競争に加わり極端な保守料金がまかり通っています。現在では月額1万円を切るというような噂話も聞こえてきます。もはや真面目に技術者を育成し、保守用部品を適正在庫し、24時間365日緊急事態に対応する社内体制を構築し、安全・安心を提供する保守業者ではこんな低価格では受注できません。

 また近年、国内のエレベーター設置台数が最盛期の年間4万台程度が半分程度まで落ち込んでおり、少子高齢化が進む中、今後建築物が増加する事はあまり望めません。そこで、メーカーは新たな市場として20年から30年程度経過したエレベーターのリニューアル工事を1つのマーケットとして創造しました。その方法は、半導体部品の製造中止や古い機種の部品製造を中止し、リニューアルしなければ維持できないと顧客に迫っています。メーカーから半分脅迫されながら顧客はわれわれ独立系業者にも相談を持ちこんできます。われわれも独自の制御盤を開発してリニューアル工事を再提案し、メーカーと競争し受注を伸ばしています。今後、新しいエレベーターの保守は低価格で受注できませんが、古い機種の保守やそのリニューアル工事は自社のマーケットとして存在しつづけます。

【建設業界】 地域の人材を育てる

建設業界

明石建設(株) 代表取締役 明石 光喜氏(香川)

 建設業界の現状は、失われた10年といわれる建設不況の出口にやっと差し掛かろうとした矢先、アベノミクスの「3本の矢」政策に翻弄され、大企業優遇としかとれない施策や地域間格差の一層の広がりにより、中小企業に対する景況感はなかなか追い風にならないのが現状です。

 そのような中、地方に生きるわれわれにとって今、何よりも悩み多き問題は人手不足による経営環境の悪化です。政府は「地方創生」という新たな方針のもと大規模な予算計上もなされているようです。「担い手3法」[改正公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)、改正公共工事入札契約適正化法(入契法)、改正建設業法の3法]が改正され工事の品質確保と若年労働者・技能労働者の継続的な育成・確保が急がれています。

 インターンシップ制度や職場体験学習を通じて、魅力ある建設業の発信を広くされることが必要だと思います。弊社では地元の中学生・高校生の職場体験学習の受け入れを継続的に行ってきました。純粋無垢な若者に建設業で働くことの楽しさ、辛さを身をもって体験してもらいながら、また受け入れる側の社員さん達も、教育の大変さを知り、共育ちの精神で取り組んでいます。

 今年の政策として中小企業庁が打ち出している「中小企業・小規模事業者人材対策事業」による進学などでいったん地域を離れた若者、育児を理由に退職した主婦、経験・知見のある高齢者の方々をターゲットにした、人材確保から定着までを一貫した支援制度や厚労省の「地域人づくり事業」「建設労働者確保育成助成金」を利用して少しでも雇用・育成をめぐるハードルを下げることができればと思います。常に人材を大切な“経営資源”と捉える意識を持ち、同友会が進める、定期採用や社員教育、経営指針の実践をさらに推進していきたいものです。

 次にわれわれの地域では発災が予想される南海トラフ巨大地震などの自然災害に対するBCP(事業継続計画)作成です。香川同友会では四国防災共同教育センター長を講師に迎え、BCP作成における現状や同友会の関わり方を考えたり、ワーキンググループ形式で各社のBCPをひな型を基に作成したりしています。香川県でも建設業BCP認定制度を推進しておりますので、ぜひともわが社でも来年度は社員さんとその家族、取引先さまと共にBCPを作成することにより、危機管理経営に取り組んでみたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2015年 2月 5日号より