人材育成と市場創造

黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る

エイベックス(株) 代表取締役会長 加藤 明彦氏(愛知)

加藤明彦氏・エイベックス(株)代表取締役会長

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が全国の製造業を取材し紹介する「業界ウォッチ」特別版。第3回はエイベックス(株)(加藤明彦代表取締役会長、愛知同友会会員)を紹介します。

経営体質の転換

エイベックス(株)はアイシン・エィ・ダブリュ(株)などトヨタ自動車系列の大手部品企業を主たる取引先にしています。トヨタ自動車はこの3年間過去最高益を更新し続けていますが、国内減産のためその2次、3次サプライヤーの業績は低迷しています。それなのにエイベックス(株)の年商は2007年度(2008年5月期)26億円に対し2015年度51億円と2倍に伸びています。急成長の原動力になったのが経営体質の転換です。

1949年創業のエイベックス(株)は新たな事業分野への転換で発展してきましたが、社史によると、2000年頃までは顧客の要求に愚直に取り組む顧客依存型の市場開拓であり、下請体質を脱していませんでした。売上も1990年代は年商10億円の壁を突破することができませんでした。転機になったのは、1999年の中同協第31回定時総会(東京)で「市場創造と人材育成」の重要性を学んだことでした。

市場創造

完成車メーカーや大手部品企業による強いコントロールが貫かれているのが自動車部品業界です。その中にあって、エイベックス(株)は「今ある仕事はなくなる」を前提に積極的な営業活動を行っています。

トヨタ自動車の2次サプライヤーながら完成車メーカーダイハツ工業との取引の開拓、米自動車部品大手ボルグワーナーの日本法人との取引開拓から米本社への輸出契約も獲得、直接輸出の道も切り開きました。また、営業活動は顧客の調達部門だけでなく、技術者と一緒に設計部門にもアタック、相手の技術課題などの情報収集、試作だけでも受注、設計図面からその場で納期を示し、引き受けるなど、単なる注文取りの枠を超えた営業活動を展開しました。自動車部品で使われている技術が自販機にも応用可能と知り、産業横断的な市場開拓にも乗り出しています。

市場創造を進める上で得意の切削加工の深化も重要です。当社は与えられた設備、刃具で加工するのを良しとしていません。中古設備を復活させ、低コスト生産により新たな市場を開く、素材を機械に供給するフィーダーはすべて自社設計、バイトも自ら研いでいます。精度の引き上げも高価な機械を使わず、工夫によって数分の1の費用での実現をめざしています。これらによって、同じ部品でも中国よりコストが1割低く(「中小企業家しんぶん」2010年3月15日付)、日本から世界市場をめざす戦略が可能になっています。

人材重視

エイベックス(株)は、人をコストではなく資本と考えています。会社の発展は社員の成長とイコールであり、社員一人ひとりが成長した分、会社は発展するとし、人材育成に力を入れています。ワーカーを「技能員」と呼び、技能士資格の取得をはじめ一人ひとりの能力に合わせた目標を設定しています。

人材重視は全員参加型の経営にも現れています。その力が発揮されたのがリーマンショック後の大不況の時です。全員参加の改善活動を集中的に実施し、30%の生産減ならば利益の出る収益構造をつくり出しました。この当時加藤明彦社長(現会長)は「コストダウンや新分野開拓にはどうしても人材が必要で、人を切ることはできない。どんなに苦しくても人は採用する」とし、2009年4月、7人もの新卒者を採用していました。リーマンショック後の企業の明暗を分けたのは人を費用と考え切ったか、自己資本と考え蓄積したかだ、という加藤氏の言葉が印象的です。

「中小企業家しんぶん」 2017年 1月 5日号より