変わり続ける印刷企業 (株)プロネート 代表取締役 狩野 征次氏(東京)

黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る 最終回

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が全国の製造業を取材し紹介する「業界ウォッチ」特別版は今回で最終回となります。最終回では(株)プロネート(狩野征次代表取締役、東京同友会会員)を紹介します。

厳しい印刷業界を新事業進出で立ち向かう

 (株)プロネート(従業員44人、東京都板橋区)は製版業として1973年に創業しました。印刷・同関連産業の事業所数はピーク時の54%に激減しています。同社の経営も課題を抱えていますが、このような業界にあって存続してきたのは、常に一歩先を読み、新事業への進出を続けたからです。

 同社は海外雑誌向けの企業広告を印刷するためのフィルムの作成を経営の柱としました。印刷は各国で行うが、各国の技術水準にあわせてフィルムを作るノウハウを持っていました。そのおかげで順調に発展し、この分野では日本企業の中で55%のシェアを占めました。

 しかし、転機が来ます。1984年、社長がニューヨークで日本製品の広告があふれているのを見、日米貿易摩擦はますます激化し、日本製品の広告への反感が強まり、海外雑誌向け広告需要も減るに違いないと一瞬にして感じ取りました。内需への転換を宣言(国内の商業カタログなどへ)、1985年のプラザ合意による円高でこの仕事は減り続けましたが、準備をしていたため売り上げを1円も落とさずに内需転換に成功しました。

 海外雑誌用の仕事に代わり、競争力のある事業をカラーカタログなど販促ツールのデジタル印刷に求めました。国内でデジタル化を最初に始めた印刷会社10社のうちに入ると言います。デジタル化により大幅にコストダウンしただけでなく、顧客の多様な注文への対応が容易になり、小ロット・スピード印刷するオンデマンド印刷、広告対象の特性に合わせ印刷内容を変えるイメージ・パーソナライズ印刷などに進出しました。

「複合メディア印刷業」をめざす

 また、転機が訪れます。きっかけは1997年10月にサンフランシスコで開かれた印刷機の展示会でした。ここに講師としてビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズが登場、印刷物だけでなく、インターネットなども販促ツールにする時代が来ていることを察知、創業25周年の1998年に「複合メディア印刷業」を方針として打ち出しました。販促ツールとしてのモバイルサイト用ウェブの開発など、IT・デジタルを販促ツールとする事業を拡大します。

 さらに、2002年には顧客の販促活動そのものを企画し、運営する事業も始めました。その準備として大手広告代理店に社員を出向させ、ノウハウを吸収しました。中心となっている仕事は大手スーパーと提携し、冷凍食品のキャンペーンを行うこと。企画から会場運営まで行います。

 以上のように、(株)プロネートは変化への敏感な対応により新分野の開拓を続け、現在の売り上げ構成は、印刷が6割、販促の企画運営が3割、IT・デジタルが1割となり、1998年に打ち出した「複合メディア印刷業」という目標を実現しつつあります。

 しかし、印刷業の経営環境は厳しく、(株)プロネートの売上はリーマンショックとスマートフォンの普及による人々の「紙離れ」で売り上げが大きく落ち込み、数年赤字に陥りました。現在赤字を脱しましたが、会長兼社長の狩野征次氏によると、「生き残るにはもっと変わらなくてはならない。今や消費者はスマートフォンを使い、欲しい商品をどこでも手軽に購入する時代であり、非印刷部門をさらに拡大する」と言っています。

(終)

「中小企業家しんぶん」 2017年 7月 5日号より