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承継と思い描く未来への挑戦 (株)モンテドール 代表取締役 杉田 雅之氏(広島)

父とのビジョンの違いから始まった企業づくり

はじめに

 私は広島市安佐南区で「harvest time」(ケーキ)、「Sugita bakery」(パン)、「Wonder stove」(カフェ)の3店舗を経営、それぞれ徒歩3分以内と近い位置にあります。

 祖父が1946年に洋菓子の製造・卸の杉田ベーカリーを創業。父は、全日本ホッケーの選手でしたが、祖父の一言で広島に帰り、祖父の手伝いを始めました。祖父の死後、父は卸では先が見えないとベーカリーを閉めて、現在のケーキ店の場所に、洋菓子店「モンテドール」を始めました。そして3代目の私は、大学を卒業後、4年間の修行を終え「モンテドール」に帰ってきました。

ビジョンの違い

 父は、「力を合わせて、まず1000万円ためよう」と言いましたが、私は、将来、世界展開し「多くの人に愛されるような店をつくる」という夢を持っていました。古い店舗をきっぱりと改め、「ランチのあるカフェ付きケーキ屋をつくる」と息巻いていました。「ケーキ屋を壊してケーキ屋をつくるバカがどこにおるんじゃー」と大げんか。しかし、強引に店舗を改装、「harvest time」をオープンしました。

 父は、極力ロスが出ないように、冷凍も使い、計画的に生産。私は、できたてを提供する、残ったら全部捨てる、という方針です。「ロスを出して捨てるなんて、商売人失格じゃ」と毎日けんかしていました。しかし、仕事を離れると、父とはすごく仲よしでした。

 次第に、父には下ごしらえの仕事ばかりしてもらうようになり、わずか4カ月で「もう辞める。好きにせぇ」と一切、仕事に出てこなくなりました。これが私の事業承継です。

つきすすんだ企業づくり

 新しいお店は連日満席。しかし、利益が出ません。早朝5時からケーキをつくり、ランチをこなし、夜中まで仕込みする、そんな毎日で、続いた社員は右腕として活躍していた修行時代の後輩だけでした。しかし、その彼女がクリスマスイブの午前11時、開店を待つお客様の前で、泡を吹いて倒れました。過労が原因でした。命に別状はなく、年明けには復帰してくれました。

 うまくいかないと悩んだあげく、広島の繁盛店のオーナーに相談しました。「全部間違い。ランチだけではもうからない、できたてにこだわっては利益がでない。焼き菓子、誕生日ケーキなどバランスで利益が出る。冷凍を活用し計画的生産。社員が倒れてはオーナー失格」と言われました。アドバイスどおりのお店の形は、もともと父がやっていたケーキ屋の形そのままでした。私の始めた店は僅か3年で改装、元に戻すことになったのです。

 「また改装するってどういうことじゃ?」父は大激怒です。「大丈夫」と強引に改装しました。元に戻ったお店は、売上が伸び、労働時間も改善、繁盛店となりました。

 その頃、お店から車で5分くらいのところに、イオンモールが出店。どう生き残るか悩む中、「お客様に真剣ですか?」という本に出合いました。これだ!と、お客様にはNOを言わないを方針にすすめた結果、接客がいいと評判になり、その後も業績を伸ばしました。

 そのころ、父が大腸ガンになりましたが、手術し、5年再発がなければ大丈夫です、と言われ安心しました。

 その一方、お店の雰囲気は少しずつ悪くなりました。「お客様にNOを言わない」店づくりは、お客様に接する販売スタッフは喜びましたが、個別の対応が大きな手間となった製造スタッフは大混乱。結果、製造スタッフがまとめて退社しました。

 そして、父のガンが再発します。肺がんでした。入院して抗がん剤治療をしましたが、父には合わず治療で苦しむ姿を見かね、家族と相談し、自宅療養に切り替えました。

向き合うことができないまま

 社員の退社が相次いだころ、近所にあった競合ケーキ店が撤退し喜ぶ一方、居抜きで別のケーキ屋が入るのではないかと不安でした。その時ちょうど、入社希望のパン職人に出会い採用。その空き店舗に「Sugita bakery」をオープンしました。祖父が創業した会社の名前、父も喜んでくれると考えました。しかし、父からは「そんな古い名前をつけて」と言われました。けれど、父はうれしそうで、毎日、無料コーヒーを飲みに来ていました。

 お盆に父は激しい痛みを訴え入院。ガンは全身に転移し、生きていることが奇跡だと言われました。父の鞄の中は、痛み止めの薬で一杯、それを見た私は涙が止まりませんでした。全然、「大丈夫」じゃなかったのです。実際は、辛い姿を一切見せず、父はギリギリの所で命をつないでいてくれていたのです。

 当時、新店舗「Wonder stove」(カフェ)の準備をしていました。父を毎日のように見舞い、新しい店舗の図面を見せ、メニューの相談をしました。父は新店舗を楽しみにし、喜んでいました。後に母から、息子からいろいろ相談されて、あのときの父が一番楽しそうだった、と聞かされました。

 「忙しくなる12月までには逝かないと息子に迷惑をかけてしまう」という言葉通り、父は11月4日に逝ってしまいました。

父の真の思い

 父が亡くなるとまったく仕事に身が入らなくなりました。毎日、様子を見に来ていた父の姿はありません。私は、父に褒められ認められることで、実は毎日、父に支えられていたのです。

 このころ、同友会で体験報告の機会をいただき、初めて過去を振り返ることになりました。すると4年目の忘年会、社員への父の言葉を思い出しました。「私の願いは店舗が増えることでも売上が上がることでもない。みんなが、この店で働けて良かったと思えたら、それが私は一番うれしい」と言ったのです。私はその時、なぜ、父がそんなことを言うのか分かりませんでしたが、今は分かります。父は、私が幸せになることを願っていたのです。そのためには、共に働く社員が幸せになることが一番、そう気づいていたのです。

 思い返してみると父の「まず、1000万円ためよう」「もったいない、捨てるな」「社員に幸せになってほしい」という言葉は、すべて息子の幸せを願ってのものだったのです。

 私は変りました。働く社員の幸せを第一に考え、「働く自分たちがもっともっと幸せになろう」を方針に、社員とともに、働きやすい環境をつくり、ここで働けて良かったと誇りに思える会社づくりに取り組んでいます。

事業承継、問われる覚悟

 後継者は、現状を批判するだけ、夢ばかり追っていてもダメです。さらに単に先代の思いやビジョンを受け継ぐだけでもダメです。なぜ、先代がそのビジョンを持つに至ったのかを理解し、きちんと受け止めて、自分はこんな会社にしたいというビジョンを立て、なぜ、そこをめざすのか、一人ひとりと向き合い、最後まで伝える努力をする「覚悟」が必要なのです。

 事業承継にあたって後継者にとって最も必要なことはこの「覚悟」だと思います。

(第45回青年経営者全国交流会 第15分科会より)

会社概要

設立:2005年
資本金:1,000万円
従業員数:25名(内パート・アルバイト11名)
事業内容:洋菓子・パンの製造小売および飲食
URL:http://www.montedoll.jp

「中小企業家しんぶん」 2018年 4月 5日号より

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