今の課題を先送りするな!本気でつくってお客様とつながる農業へ~日本初の電子レンジポップコーン開発 前田農産食品(株) 代表取締役 前田 茂雄氏

【あっ!こんな会社あったんだ】 農業・6次化

 「あっこんな会社あったんだ」ではさまざまなテーマで企業の実践事例を紹介しています。今回は「農業・6次化」をテーマに日本初の電子レンジポップコーンを生産・製造・販売する前田農産食品(株)・前田茂雄代表取締役を紹介します。

農閑期をどう生かすか?

 北海道の畑作、野菜、稲作農業は冬に雪が積もるため、通常12~3月の売上がありません。また、農業は天気商売なところも多々あり、自然災害などで4~11月の管理、収穫ができなくなると年間の売上も大きく変動します。前田氏は夏場の天候リスクよりも、冬の雪や寒さによる農閑期を付加価値創造期間とし、シーズンを終える11~12月はトラクターや機械などのメンテナンス、1月~3月に乾燥や選別ラインの自家製造をし、のちのポップコーン製造ライン施設と通年出荷できる付加価値づくりを目標に掲げて商品開発をしてきました。北海道農業積年の課題である農閑期の雇用維持や仕事の創造に立ち向かったのです。

 2008年には小麦を生産するだけでなく、乾燥と粒をそろえる調整作業まで一気通貫で行える体制を整備し、8月の収穫後の選別は朝7時から夜12時まで2交代制で行っています。製粉会社との直接契約をし、1年を通して出荷できる自社製小麦100%使用の小麦粉が誕生しました。

 その後、2015年には農業生産管理工程の国際認証であるグローバルGAP認証、2018年ポップコーン製造施設は北海道HACCPを取得しています。目的は人材育成と農場内部の仕組み化です。オリジナルの「未来予測ノート」と名づけた日報を一人ひとりが手書きで残し、肥料農薬の量だけでなく作業の手順を記し、社員全体で農業技術や反省点や次回はどうすべきか?を考える癖をつけています。

 また、農機工具や農薬品などの規定位置を決め、薬品についても適正な使用時期が分かる見える化を進めました。「誰が入社してもイラストで分かるようにしたい」と前田氏は言います。また社内フェイスブックページで、写真でビフォー・アフターや作業手順、危険個所のアラートやどう対処したかなどを共有する仕組みをつくり、また種まき、収穫時期に社員一斉に動く際は業務用無線で連絡を密にする工夫も実施しています。

日本初の電子レンジポップコーンつくりの七転八起

 小麦粉の通年出荷が可能になっても、農閑期の売上はまかないきれていません。高額なコンバインを購入し他作物への転用を探します。とうもろこし収穫も可能なのを発見し、アメリカに留学した経験からポップコーン(とうもろこしの品種)の栽培を思いつき、2012年に生産開始、2016年に商品化しています。

 しかし、その間4年、アメリカと北海道本別町の気候の違いが分析不十分で、1年目は14トンを全量廃棄し涙しました。これまでで一番の悔しさと畑に申し訳なさを感じた前田氏はすぐにアメリカの研修に赴き、適切な品種を探し、栽培方法を模索します。わかったのはポップコーンはかなりデリケートな作物だということ。規格外小麦とコーンを一緒に乾燥させ水分吸収と機械損傷を軽減させる特殊な乾燥法を導入し、おいしくはじけるポップコーンを実現しました。

 製造を行う施設から機械輸入、設置、オペレーションにいたるまで手探りと手づくり。農閑期の冬に効率的なラインのための修理・変更を行える柔軟な技術力を社員とともに高めています。そうして、2016年に日本初の電子レンジでつくる「十勝ポップコーン~黄金のとうもろこし畑」を商品化。“北海道十勝の畑から弾けるおいしさと楽しさをお客様と共にシェアしたい”。日本初の製品は独自の生産技術、柔軟な発想、農業の課題解決にむけた挑戦です。

 同商品は北海道加工コンクール2017で最高位の道知事賞を受賞。北海道内のお土産店やキオスク、カルディコーヒーファーム、 アマゾン、 自社サイトなどで販売を行っています。

地域農業を未来のファンとシェアする

 「農業は食でしか伝わらない」と思い、地域を農業と食で盛り上げるイベントの開催にも力を入れています。生産者とパンや製菓などの加工業者を集める「北海道小麦キャンプ」、日本一の記録である本別町開町記念の111メートルのピザづくり、ギネスブック登録された1万6500枚の十勝産小麦でつくったトーストアート、ほんべつ肉まつり、北海道の8月末の収穫感謝祭など、地域の人たちを巻き込み関係人口をつくろうと実施しています。来年からは、本別町巨大ひまわり迷路を実施し、多くの人を観光として呼びこみたいと夢を描いています。また、来年2019年はとかち支部農業経営部会の30周年であり、その事業として、十勝毎日新聞社で農業コンテンツ特集を組み、十勝の点が面に展開できるWEBページ、「TOKACHI HARVESTERS」を発信しています。

 「農業のファンを1人でもつくることが持続可能な人の交流をつくり、地域づくりにもなります。農業者同士の連携を進め、海外との連携による技術力の向上も図っています。当社の一番の営業方法は畑を見てもらうことです。ぜひ一度北海道本別町に来てほしい」と前田氏は胸をはって話します。

経営理念

私たちは、お客様と共に種をまき、共に育つワクワク感動農業を実践します

会社概要

設立:1951年
資本金:200万円
営業品目:小麦5品種、小麦粉、北海道十勝ポップコーン生産、加工販売、甜菜、ひまわり
URL:https://www.co-mugi.jp/

「中小企業家しんぶん」 2018年 12月 5日号より