大田堯先生を偲んで~学びと実践~ (株)ヒロハマ代表取締役会長 中同協会長 広浜 泰久

 「人間はその気になった」と答えたのですという先生のお話が大好きでした。人間はなぜ2足歩行になったのですか?という生徒さんからの質問に対してのこと。学術的には異論はあるのかもしれませんが、人間の本質というものを見事に言い表していると思うのです。

 人は「育てる」ものではなくて「育つ」もの。「生かす」ものではなくて「生きる」もの。その課程において「その気になる」と言うことが人間としての真骨頂。すべてにつながってきます。

 同友会がここまで発展してきている大きな理由のひとつも、創設の時から「自助努力」を大切にしてきたから。一人ひとりの「その気」を原動力としてきたからだと思うのです。

 先生には、合わせて人間としての特性を「いのち」の特徴である「自ら変わる・違う・関わる」という観点からご説明いただいたこともありました。

 初めてそのお話を伺ったとき、修業先から自社に戻った私を待っていた「ほとんどが中学卒の社員」を前に、「自分と彼らは『違う』のだから、何でも自分がやらなくては…」と感じていた自分を思い出していました。大いなる間違いです。「違う」けれども「関わる」ことで、それぞれが「自ら変わる」のだということをまったく理解していなかった。まったく恥ずかしい限りです。

 自分にはできない地味な仕事をコツコツと、それも誇りを持って取り組んでくれている彼らがいるからこそ、自社もお客さまに高い次元で応えていくことができるのです。

 人間誰しも、立場が上になってきたり、それなりの実績も上げてきたりすると「増上慢」になりがち。自分もそうです。そんな時、あれだけ素晴らしい功績を残しても、そして100歳になられても、あくまでも謙虚な姿勢を貫かれてきた大田先生。今は天国から見守って下さっている先生に、一切恥じることのない自分でありたいと切に願うものであります。合掌

【訃報】教育研究者 大田 堯氏

同友会運動と30年余にわたり深くかかわりのあった教育学者大田堯先生が、昨年12月23日自宅で逝去されました。100歳でした。大田先生は、中同協第1回社員教育活動全国研修・交流会(1985年)で講演され、その内容は中同協発行『共に育つ(新版)1』に掲載されています。大田先生は、(1)職場における共に育つ環境づくり、(2)現在の若者の生育環境(家庭、学校、社会)の問題点、(3)同友会が行う社員教育活動の社会的意義について提起しました。その後も、千葉、埼玉同友会会員有志との自宅での学習会をはじめ、全国行事、各同友会で講演。同友会のめざす「人間中心の経営」への示唆と激励を重ねてきました。心からのご冥福を祈ります。

1918年広島県生まれ。教育研究者(教育史・教育哲学)。東京帝国大学文学部卒業。東京大学教育学部教授、日本子どもを守る会会長、日本教育学会会長、都留文科大学学長などを歴任。東京大学名誉教授、都留文科大学名誉教授。

著書に、『教育とは何か』、『大田堯自撰集成』(全4巻)、『100歳の遺言』など多数。

「中小企業家しんぶん」 2019年 2月 5日号より