【シリーズ東日本大震災から8年】(2)「人間が取り扱う資格があるのか」原発事故の現状をみる(2)【福島】

 8年前の3・11は地震や津波の直接被害から原子力災害、風評被害まで多岐にわたり、中でも原子力災害で失われた国土は、広大です。前号に引き続き、福島同友会環境委員会主催の東京電力福島第1原子力発電所の視察レポートとともに、南相馬市で復興へ向けた取り組みをすすめている高橋美加子氏のエッセイを今号から3回のシリーズで掲載します。

 昨年は約1万2,000人が視察に訪れたという東京電力福島第1原子力発電所は、大熊町と双葉町にまたがる350ヘクタール、東京ドーム約75個分の広大な敷地内にあります。

 廃炉に向けて、(1)汚染水対策、(2)使用済み燃料プールからの燃料の取り出し、(3)溶けた燃料デブリの取り出しが行われています。

 汚染源に水を近づけさせないため、1~4号機を囲むように地中に凍土方式で陸側の遮水壁がつくられ、海側には汚染水が港湾内へ流出しないよう30メートルの鋼鉄製のくいが780メートルにわたり打ち込まれて遮水壁が設置されています。

 陸側にある巨大な汚染物質の除去装置とそこから排出される大量の水は巨大なタンクに溜め込まれ、敷地内は最終処理のできない廃棄物や汚染水タンクが乱立。巨大なゴミ置き場の様相です。

原発4基で3108本の使用済み核燃料

 1~4号機の使用済み燃料プールに保管蓄積されていた核燃料は合計3,108体(4号機の1,535体は取り出し完了)。冷温停止状態を維持する中で、引き続き燃料取り出しや燃料デブリの状況を調査し取り出して、廃炉へ。

 これから30~40年先の廃炉に向けた世代を超えた取り組みが行われていきます。それでも核廃棄物の最終処理はめどがたっておらず、汚染物質はたまる一方で、「トイレのないマンション」と揶揄されています。

 危険と隣りあわせで原発で働いている人には笑顔がありません。構内の線量が下がってきている区域で働く人たちは一般作業着、危険区域は防護服に着替え、ボディチェックを受け、バス等で現場に向かいます。

 構内の視察を終えて、一行は身体スクリーニングを受け、線量計で視察中に蓄積された線量では2マイクロシーベルト。その後移動し、最後に廃炉資料館で質疑応答をして終了しました。

人間が取り扱う資格があるのか

 廃炉資料館からさらに最初の集合場所に戻る車中、参加者は感想を述べあいました。

 「いわき出身者として、原発は安全でクリーンなエネルギーと教えられてきたが、報道とはまた違うリアルな現実にショックを受けた。この現実があるのに日本が原発を海外に売り込もうとしていることは胸が痛い。この状況をどう多くの人に伝えるかが課題」

 「福島を教訓にしてほしい。再生可能エネルギーなどの取り組みは、やろうと思ったら中小企業でもできる。中同協の同友エコや福島同友会の環境経営大賞などへのエントリーもそのきっかけともなる取り組み。積極的に活用したいもの」

 「広大な国土が汚染されて失われ、ふるさとを失った人たちの気持ちを思うといたたまれない。原発はこれから30年以上かかって廃炉になるが、今全国に50基以上ある原発に想定外は許されない。中同協の『中小企業家エネルギー宣言』の理念を発信し、実践を広げていきたい」

 広浜泰久・中同協会長は以下の3点にまとめて自身の思いを語りました。「(1)事故のあった1~4号機がこんなに海のそばにあり、津波がくればひとたまりもない環境にあったことに驚いた。自社にひきつけてみればリスク管理を自らの問題としても考えていきたい。(2)事故処理に毎日約4,250人の人が働いている。働きがいややりがいはどうか、しんがりを務める人がいるから仕事が進められることを自らの経営に照らして考えたい。(3)原子力の利用について、このような事故が起きること、最終処理もままならないことなどを考えると、人間が取り扱う資格があるのか、あったのか、自らの問題として考え、発信していきたい」

福島同友会で震災復興経営指針

 震災から1年後の2012年3月、福島同友会による設営で中小企業問題全国研究集会(全研、中同協主催)が開かれました。全研のテーマでもあった「強い絆のもと、われら断じて滅びず!」を掲げ、支えあい、たすけあい、励ましあいながら、福島同友会の会員数は当時の1700名から2000名へと躍進。今年は「原子力災害を伴う震災復興経営指針」を発表しました。

 「福島の未来は中小企業家自らの手でつくる」気概にあふれた取り組みを展開しています。

中同協 事務局長 平田美穂

原発事故から8年が過ぎて…

(株)北洋舎クリーニング 代表取締役 高橋美加子(福島)

 東日本大震災と原発事故から8年が過ぎましたが、相双地区の南半分に当たる双葉郡は、未だに地域としての機能は復旧していません。双葉郡にあった会員企業は、近隣の南相馬、相馬、いわきのみならず福島、郡山などの県内や県外各地で事業を続けています。

 福島第1原子力発電所の御膝元である相双地区は、原発事故という予想だにしなかった出来事で、穏やかに続いてゆくことが当たり前だった日常が一瞬にして壊され、全員が会社存続を諦めざるを得ない状況に追い込まれました。地域消滅という事態になった時、第1に考えたのは、自社が地域で果たしてきた役割と社員のことでした。会社が無くなったら、地域はどうなるか?社員の生活は?それを思うと、会社を畳むという決断はできませんでした。会員企業はそれぞれの場所で、本能的と言っていいようなスピードで事業再開に向けて動き出していました。

 その動きの中軸となったのが同友会事務局の存在でした。事務局がしっかりと会員間の情報共有を図ってくれたおかげで、会員による緊急時のタイムリーで多様なサポートが生まれ、そのおかげで、被災した企業は、助けられ励まされて生き延びたと言っても過言ではない程大きな支援を受けることができました。

 現在、相双地区の会員数は、震災前の85社から、102社に増えました。その多くは、若手経営者です。入会理由は「経営の勉強ができるのは同友会しかない」です。例会の内容も、自社と地域の活性化を関連付けてトライしている発表が多く、未来に向けての動きを語りあうという変化が表れています。

 この非常事態を共に乗り越えてきた事務局の底力に敬意を表すとともに、同友会活動に、事務局と会員企業が一体となって、「非常時において地域の生きたインフラとしての機能を果たす」という新たな視点を加える必要性を強く感じています。

「中小企業家しんぶん」 2019年 3月 15日号より