【シリーズ 東日本大震災から8年】「東北コットンプロジェクト」に参加して (株)新藤(天衣無縫)代表取締役 藤澤 徹(神奈川)

 2月21~22日に開催された第49回中小企業問題全国研究集会での藤澤徹氏((株)新藤(天衣無縫)代表取締役、神奈川同友会会員)の「東北コットンプロジェクト」の取り組みを紹介します。

「東北コットンプロジェクト」とは?

 「東北コットンプロジェクト」とは、2011年の東日本大震災の津波被害で稲作等が困難になった宮城県臨海部の農地で、被災農家が塩害に強い綿花を生産し、参加企業が農作業を支援するとともに、収穫された綿花で製品を作って販売するという、農業から震災復興をめざす農工商連携の全国的プロジェクトです。

 私たち((株)新藤/天衣無縫)はこのプロジェクトに2011年7月に参加して以降、活動を継続しています。

 東北コットンプロジェクトは8年目に入って、参加企業も大小合わせて88社に拡大し、今年度は綿花生産の国際水準の収穫量を達成しました。以下に8年間の年度収穫量を記します。

東北コットンプロジェクトが成し遂げたこと

 これまで東北地方では綿花栽培は不向きと言われてきました。

 その主な理由としては、東北のような寒冷地では綿花栽培に必要な気温と、収穫までの十分な栽培時間が得られないことが挙げられていました。さらに名取や荒浜のような沿岸部では強い浜風により生育がさまたげられるとも考えられていました。

 東北コットンプロジェクトがその「常識」を覆したのは、未経験の作物に挑戦した生産農家さんの工夫や自助努力とともに、全国から結集した繊維メーカー、アパレル、百貨店、各種専門家等による支援活動と連帯によるところが大きかったと思います。

(1)低気温により不足する栽培期間を補うため、ビニールハウスによる初期育成を行ったこと。
(2)摘心を行うことで枝数を増やし、花数を増やしたことが、収穫量の増加を結果したこと。また枝を短くしたことにより浜風の影響を受けにくくし、それが倒錯防止にもつながったこと。

 その結果、東北コットンプロジェクトは今年初めて国際水準の綿花収穫を実現しました。

今後の展望と課題

 東北コットンプロジェクトの当初の目的は次の3点でした。

(1)東日本大震災の津波被害で稲作が出来なくなっている農地にコットンを植え、農業を再開してもらうこと。
(2)アパレルや生活雑貨関連企業とともに東北コットンを使った農業~工業~商業連携の新事業を生み出し東北に雇用を生み出すこと。
(3)全国の消費者の普段の暮らしと被災地をつなぎ、継続的に農家を応援できる仕組みをつくること。

 「継続は力なり」と言われるように、今年8年目を迎えた東北コットンプロジェクトの活動は次の点で被災地に資金や物資を送る従来型の支援活動と一線を画することになりました。

 それは第1に被災地農家と全国の繊維メーカー、アパレル、百貨店、量販店などが双方を事業パートナーと位置づけて多種多様な新製品を企画製造し、持続的な新たな市場をつくりつつあること。

 第2に国民の誰もが必要とする綿製品原料の99%以上を海外生産に依存している現状を見直し、綿製品原料の国内自給率を高めるきっかけをつくりつつあること。

 今日の世界全体の綿花生産は約2,500万トンですが、日本での綿花生産は東北コットンを含めて10トンに満たない状況です。つまり約1億2,700万人の日本国民全員が使う綿製品の原料である綿花の生産量は世界全体の0・0000004%であり、限りなくゼロに近い状態です。

 私たちは東北コットンの活動を通じて綿花生産の国内自給率を高め、とりわけオーガニックコットンの生産量を拡大することをプロジェクトの前方に開ける長期の共通の課題としたいと考えています。

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 5日号より