岩手同友会エネルギーシフト研究会 第5回欧州視察連載(4)「持続可能な社会づくりへ向けての挑戦」 地域経済のコントロールは地域で 宮崎県プロフェッショナル人材戦略拠点マネージャー 永山 英也

 10月6~15日に岩手同友会エネルギーシフト研究会が主催した第5回欧州視察について紹介する連載第4回。参加した永山英也氏の感想レポートを紹介します。

 今回の旅を通じて心に刻んだことが2つあります。1つは、エネルギー政策で明らかであるように、国家として明確な理念・目標・具体的方法論を定めることがまず重要であること。さらにその際には単なる社会的正義としての理念ではなく経済合理性を明確にすることが実践されています。そのことにより企業・市民それぞれの立場で、イノベーションや新しいシステムの構築など主体的な取り組みが加速しています。

 2つ目はヨーロッパにおける中小企業の存在感の大きさです。私はヨーロッパの「小企業憲章」の存在は知っていました。しかし、今回各地域の現場で学ぶ中で、「小企業はヨーロッパ経済の背骨である。小企業は雇用の主要な源泉であり、ビジネス・アイデアを産み育てる大地である」という憲章の意味が実感を伴って理解できました。

 学んだこととして、キーワードで紹介します。

エネルギーシフト(ヴェンデ)の意味

 エネルギーシフト(ヴェンデ)については多くの現場を見ました。その中で明確に認識できたことは「エネルギーシフト(ヴェンデ)とは単に化石燃料や原子力から再生可能エネルギーへ転換する」ことではなく、取り組みを通じて「分散型の投資や地域内の金の循環を作り出す」、「市民社会の新しい形を生み出す」という、技術的・社会的な改革をめざすものということです。

 スイスのヴィール市のフィットネス会社インセル社では、サウナや運動機器の関係で大きなエネルギーを必要とするフィットネスクラブにおいて、ゼロエネルギーを実現しています。地中熱の活用のほかに、利用者が運動中に発する廃棄熱もエネルギー源としていました。エネルギーを地産し徹底的に省エネすることで、効率的な経営を行い、経済面がしっかりと認識されています。

 シンゲン市のソーラーコンプレックス社では、地域住民20名が出資して設立したエネルギー会社で、ボーデン湖周辺の48万人の電力の全てを自然エネルギーで供給することをめざしています。株主は市民を中心に700人となり、太陽光発電、太陽熱、バイオガスなどこれまでに約130億円の投資を行っています。まさにエネルギーシフト(ヴェンデ)の「地域経済」「新しい市民参加」を具現化するソーシャル・ビジネスです。

中小企業の人材育成

 日本では国内の大半を占める中小企業にとって厳しい状況が続いており、後継者や技術者の不足も深刻です。そのような中で、ドイツの職業訓練施設でマイスター・マット氏の話を聞くことができました。

 ドイツでは中小企業の人材を育成するための「トリプルシステム」が機能しています。職業系の学校で理論を学びながら企業に在籍して実務を経験する、加えて最新の機械や高い技術を学べる実務職業訓練施設で専門的な技術を学ぶ、この3つの機関が有機的に連携して人材を育成しています。マット氏に対する学生が示す敬意を含め、州・企業・学校・商工団体が連携した人材の育成がドイツの高い生産性と地域中小企業を支えているのだということを実感しました。

これからにどう活かすか

 人口減少など厳しい情勢の中で、「持続可能な地域社会」を築いていくためには、私たち一人ひとりがこれまでのやり方や慣習にとらわれることなく、明確な目標を共有して前進することが必要です。

 宮崎同友会の参加者の皆さんと、これからの目標は「地域経済のコントロールを地域に取り戻すことだ」という認識で一致しました。そのための方策がエネルギー・食・環境ではないかと考えます。地域経済を取り戻すための中核は地域の中小企業です。これからも意見交換を行い、宮崎の新しいシステムを構築していきたいと思います。

*永山氏は元県庁の職員・商工観光労働部部長として宮崎同友会の活動に深くかかわっていました。

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 5日号より