【黒瀬直宏嘉悦大学教授が迫る 海外戦略】国内からグローバルニッチ市場の開拓 ミナミ産業(株) 代表取締役社長 南川 勤氏(三重)

 嘉悦大学教授の黒瀬直宏氏が海外展開する会員企業を取材し紹介する「海外戦略」。最終回となる今回は、ミナミ産業(株)(南川勤代表取締役社長、三重同友会会員)に話を聞きました。

 ミナミ産業(1951年創業、四日市市、国内従業員33人―グループ企業含む)は、豆腐製造関連機器の設計・製造・販売、食品工場の省力化設備の設計・製造、大豆の微粉砕加工などを行っています。

 豆腐製造機器のユーザーである豆腐屋さんの数(厚生労働省営業許可施設数)は、低価格の大量生産品の出回りなどのため、ピーク時1960年度5万1,596軒、2000年度2万1,859軒、2017年度6,563軒と激減しています。しかし、ミナミ産業の売り上げは、17年度は約12億円、本年度はグループ全体で20億近くと近年売上が増加しています。その理由は内外の新市場開拓の成功です。

独創性でニッチトップ企業をめざす

 南川勤さんが社長に就任したころ(1992年)の同社は組織の混乱や主要顧客の倒産などで行き詰まっていました。この危機の突破のきっかけになったのは、先代社長の父親が机の上に置いてくれていた新聞記事でした。

 東京大田区の中小企業が指の切れないプルトップ缶を開発し、評判を呼んでいる。「どうせだめになるならば、独創性を活かしたニッチトップをめざそう」と思い立ちました。大量生産品は時間をかけ遠方まで運ばれています。そこで、スーパーに出来立てのおいしい豆腐を売ってもらおうと、スーパーが自分で豆腐を作る卓上豆腐製造機(「豆クック」)を開発しました(1998年)。スーパーは面倒くさがって反応はよくなかったですが、代わりに飲食店やホテルに売れ始めました。

「萬来鍋」を開発、業務用から家庭用まで

 次に「豆クック」をさらコンパ クトにした一人前用の「萬来鍋」を開発しました(2002年)。卓上の土鍋で、ここに専用の豆乳と天然にがりと水を入れ、固形燃料で10分ほど加熱するだけで豆腐が出来上がります。旅館でお客さんの目の前で豆腐が出来上がるなど業務用から出発し、ネット販売を通じて家庭用も増えつつあります。鍋を地元の萬古焼きのメーカーと共同開発し、豆乳の原料の大豆も地元産を使ったことがマスコミにとりあげられ、ヒット製品になりました。

 製造工程から産業廃棄物となるおからのでない「丸ごと大豆」も開発しました(1999年)。大豆をパウダーにし、水に溶かせばおからと豆乳に分離する工程が省けます。

 しかし、どうしても粉っぽさが抜けず、この研究は挫折していましたが、風を起こし互いにぶつけ合って粉砕する技術を使い解決できました。気流粉砕によると熱が出ず、油分が表面に出てこないため、パウダーが溶けやすくなったためです。製造時間も劇的に減少しました。

差別化戦略で世界へ

 見逃せないのは、日本での新市場開拓が海外市場開拓にもつながったことです。「萬来鍋」が有名になるにつれ海外からも三重県にお客が来るようになり、アメリカ市場をめざすことにしました。評判の日本食レストランへ行き、お薦め料理を尋ねると出てきたのが「萬来鍋」、うれしくて泣きそうになりました。だが、よい豆乳がなくて豆腐にもムラができるということを聞き、試行錯誤の末、約2年間かけて長期保存のできる専用豆乳を開発しました。しかし、展示会に出しても興味を持ってくれません。アメリカ人には「出来立て豆腐」の良さが、十分わからなかったからです。展示会の最後の日、砂糖やメープルシロップを使って豆腐を作ったところ列ができました。豆腐ではなく、スイーツと思ったようです。

 マーケットインの重要性をつくづく思い知りました。いろいろな豆腐ができることを宣伝し、広まるにつれ、プレーン豆腐のよさもわかってくれるようになりました。販路開拓はまず有名レストランに営業をかけ、成約を勝ち取っていきました。そうするとレストランと取引している商社も「萬来鍋」を扱わざるを得ません。今、ミナミ産業は「萬来鍋」、「豆ロック」など機器や豆腐用の豆乳、大豆パウダーなどの原料を世界28カ国に輸出しています。日本で開拓したニッチ市場が世界横断的に拡大し、グローバルニッチ企業へ発展しました。中小企業得意の差別化戦略は、世界市場でも通用するのです。(完)

会社概要

設立:1968年
資本金:1,000万円
従業員数:16名
事業内容:豆腐製造関連機器の設計・製造・販売、食品関連機械の設計・製作、大豆等の微粉砕加工
URL:https://minamisangyo.com/

「中小企業家しんぶん」 2019年 4月 5日号より