健康で美しく。免疫ライフ創造パートナー  健康経営優良法人 ホワイト500認定 水戸ヤクルト販売(株) 代表取締役社長 内藤 学氏(茨城)

【あっ!こんな会社あったんだ】 健康経営

 企画「あっこんな会社あったんだ」では、企業経営にかかわるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介。今回は「健康経営」をテーマに、水戸ヤクルト販売(株)の実践について紹介します。

 乳酸菌飲料として広く知られているヤクルト。茨城県水戸市を中心に県の約半分を販売エリアとする水戸ヤクルト販売(株)は1965年に創業し、2010年に6代目の社長として内藤学氏が就任しました。就任と同時に、企業ビジョン「健康で美しく。免疫ライフ創造パートナー」を打ち出します。免疫ライフは内藤氏の発案した造語で「ヤクルト独自の乳酸菌の力で病気に負けない健康で笑顔あふれる生活」を表しています。

 ヤクルトは、(株)ヤクルト本社がメーカーとして製品を開発・製造し、販売会社がディーラーとして地域ごとに販売をしています。特徴的なのが訪問販売をするヤクルトスタッフです。個人事業主として、販売会社ごとに取り引きを行います。内藤氏はこのヤクルトスタッフを含めて社員と捉え、総勢730名が同社で働いています。

 地域の人たちに製品を届けるのはスタッフです。社長就任当初、「お宅はどんな教育をしているの? 買ってくれとしつこいのよ!」というクレームを受け、宅配力の根本は人間力であり、企業ビジョンはお客さまにまで伝えて初めて意味があることに気づきました。

 ビジョンの浸透に向けて、幹部と社員による「ビジョン・理念の対話会」を毎月行い、社員の参加を義務づけました。また、社員それぞれの思いや信念を明確にする「セルフコンセプト」を作成するようにしました。個人の価値観と企業ビジョンが重なりあって働くことをめざしたこの取り組みは、販売会社の中で主力乳製品の伸長率5年連続1位の達成に結びついています。

社員の健康管理は当たり前

 経済産業省では企業での健康経営の推進に向けて、「健康経営優良法人」の認定を行っています。中小規模法人では5つの大項目((1)経営理念、(2)組織体制、(3)制度、施策実行、(4)評価・改善、(5)法令順守・リスクマネジメント)に基づき、23の評価項目のうち必須項目を含む11項目の実施で認定されます。水戸ヤクルト販売(株)は大規模法人部門(ホワイト500)に挑戦し、認定を得ました。

 「健康で美しく。免疫ライフ創造パートナー」を掲げる同社では、健康について考えることは当然でした。お客さまの健康に寄り添うためには、社員それぞれが健康でなければいけません。朝礼前のラジオ体操はもちろん、すべての女性従事者に乳ガン検診を実施しています。ヤクルトスタッフは個人事業主ですが、彼女たちの健康診断の受診も促進し、インフルエンザの予防接種の推奨やヤクルト保育所児童の健康診断の補助など多彩な実践を認定以前から実施していました。

 2017年6月1日に改めて「健康宣言」を発表、認定に向けて健康管理方針を示しました。

健康経営推進で働き方も変化―担当者の声

 認定に向けて企業内での推進を担当した今井一道氏と折口圭吾氏は「健康を提供する企業として、社員が企業ビジョン・理念を共有し、実践しているため、健康経営を推進することに抵抗はありませんでした」と振り返ります。

 関係会社である(株)トレンディ茨城が取得していたこともあり、認定のノウハウはわかっていたものの、卸売業で従業員数十1人以上では大規模法人部門(ホワイト500)の認定をめざさなければなりません。大規模法人部門は中小規模法人部門よりも認定基準や申請要件が細かく、評価項目は2倍以上になります。

 縦割りではなく横つなぎの組織づくりを心掛け、健康経営推進室を立ち上げて部署を横断しての協力体制を構築するなど、社内の環境づくりに取り組みました。

 まず、担当者が健康診断の再受診者を一人ひとりチェックし、声をかけていきました。再受診をして大きな病気が見つかった社員もいたと言います。これまでの実践について、申請要件に合致するものがないかを洗い出す作業に一番時間を要しました。

 水戸ヤクルト販売(株)には管理栄養士が4名在籍し、社員とともにお客さまへ生活リズムや食生活の指導のほかに、学校への出前授業も行っています。企業向けの健康セミナーも展開し、健康の意識づけに貢献。また、部署ごとに責任者が連携することで、残業の一番多かった部署が少ない部署へ変化するなど社内の長時間労働の是正にも効果が表れました。

 今井氏と折口氏は「まずは自企業ですでに実施していることをしっかり把握し、それぞれの企業の実態が認定基準にどのように適合するかをチェックし、合うように工夫することが大切です。より多くの企業で健康経営に向きあってほしいです」とこれから取り組む企業に向けて期待を述べました。

心の健康を共に創る

 ホワイト500の認定企業には、自社だけでなく、取引先や一般顧客にも健康経営を普及していく役割が求められています。新たな取り組みとして、お客さまの特技を生かせる場を提供することで、より生きがいを感じてもらう「生きがい配達プロジェクト」を2017年に開始しました。

 幼稚園における遊具は高額でなかなか手が出せないという地域の困りごとに応え、手芸の得意なお客さまにフェルトの遊具を製作してもらいました。子どもたちに渡すと大喜びで、製作してくれた人たちの前で歌と踊りを披露し、製作者の皆さんは涙を流して感動していました。

 「お客さまの体調だけでなく、心の健康にまで貢献できるという確信を得ました。経営の観点だけで考えるのではなく、健康は生きるうえでの基本。地域の方と新しい価値を共に創りだすことがもっとできるはず」と内藤氏は意気込みます。

 厚生労働省では、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことを「健康寿命」としています。水戸ヤクルト販売(株)は水戸市の「健康寿命第1位」をめざして、多方面に広がる健康経営の推進で企業を発展させています。

会社概要

設立:1965年
資本金:3,000万円
年商:46億円
社員数:730名(パート50名、ヤクルトスタッフ550名)
営業品目:乳酸菌飲料および乳製品乳酸菌飲料・発酵乳・健康機能性食品・ジュース清涼飲料・麺類・化粧品の販売
URL:https://mito-yakult.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2019年 6月 25日号より