改革は経営者の覚悟から始まる(株)山田製作所 代表取締役 山田 茂(大阪)

【「働き方改革」の第一歩 『働く環境づくりの手引き』の活用を(7)―事例編】

 中同協は今年4月、『働く環境づくりの手引き~経営指針を全社一丸で実践するために~』を発刊しました。作成に携わったプロジェクトのメンバーが『働く環境づくりの手引き』の意義や活用事例などを連載で紹介します。

 正直に書きますね。3年前の月間残業時間は平均50時間。一部の社員たちは143時間をピークに100時間超が3カ月、そして80時間超が4カ月続く状態。そして有給休暇の取得率は4%…。

 少しは異常だと感じてはいましたが当社は町工場です。作ってなんぼ。夜遅くまでの残業や周りの工場が休んでいる中の休日出勤が忙しさの証であり優越感でもありました。「残業手当をたっぷり持って帰ろう!」っていう風土でした。そんな私が関わりだした「働く環境づくりのガイドライン」作成プロジェクト…。そこで気づかされたのが「やりがいブラック企業」。理念を語らせると経営者も社員も熱く語るが、しかし労働環境は旧態依然のまま。

 今まで残業推奨の経営者が「残業するな!」と180度態度を変えて叫びだしたのです。経営指針書に行動計画を示し実行していきました。しかし納期対応で定時終業できません。社員たちは目の前の仕事に責任を持っています。生活給稼ぎで残業している者は1人としていません。あと5分溶接すれば完成する場合でも仕事をやめさせました。社員からは「理解できない!」と猛反発です。

 昨年の春、100時間残業の原因となった仕事のお客様から同じ仕事の話が来ました。そこで「前回3台(1台700万円)でしたが、今回は1台840万円でお願いします。しかも1台しかできません」と交渉しました。その条件でも注文は来ました。残り2台は指導料をいただいて、お客様が担当しました。前回と比べると生産性と利益は断然良くなっています。

 直近の3年間で受注量は31%増加しましたが、残業時間は42時間に、そして有給休暇取得率は56%に向上しています。

 残業削減、計画年次有給休暇設定、そして選別受注など、「働く環境づくり」は経営者の覚悟から始まることを体現しました。経営者しかできない決断と顧客に対等にモノを言える力(経営指針に基づく経営)が必要です。「働く環境づくり」は生産性向上の切り口でもあります。

「中小企業家しんぶん」 2019年 8月 5日号より