持続可能な社会に向けて SDGsについて学ぶ~中同協欧州視察

 中同協は、持続可能な社会をめざす欧州での取り組みを学ぶために、9月21日から29日までデンマーク、ベルギー、ドイツの3国を視察団(団長・広浜泰久中同協会長)14名が訪問しました(10月15日号既報)本号では、経済団体や欧州委員会との懇談および地球環境問題、まちづくり、エネルギーシフトの課題への取り組み現場を視察した概要とともに、中同協第2回幹事会での視察報告要旨を掲載します。

国連の指標でSDGsトップのデンマーク

 視察初日の9月22日は、デンマーク・コペンハーゲンからバスで2時間ほどのロラン島にあるヴィジュアル気候センターを見学しました。出迎えていただいたのは、レオ・クリステンセン市議とジャーナリストのニールセン・北村朋子さんのお2人です。

 ロラン島では、自然エネルギーが100%で自給率は800%と高く、余剰電力はコペンハーゲンなどと提携するなどして島外に送り出しています。特に風力発電は隣接する島を含めて約500基を数えます。

 この地域は、かつては造船や農業を主な産業としていましたが、造船所の廃業などで衰退してきました。その中で、風力発電メーカーの誘致などとともに、教育によって地域や自然環境などへの考え方を伝えることよって、地域のあり方を変えてきました。今では、都市部から若者が移住して人口が増加するほどになっています。

 気候センターには、直径2メートルほどある「科学の地球儀」があり、気候や社会動向などの世界のさまざまなデータを解析したものが投影されます。この地球儀は世界に151あり、日本では宮城県東松島市と東京大学の2カ所にあります。

 内容は、気候変動にかかわるもののほか、伝染病罹患者の増加の動き、東京電力福島第1原発事故後の放射性物質の世界への拡散状況など幅広いものです。参加者が驚いたことは、今年の台風15号のような大型台風が、「今後は普通に発生するであろう」との説明で、帰国後には、台風19号の災禍を目の当たりにすることになりました。

団体訪問で「ビジネスと人権」を学ぶ

 翌23日の最初の訪問先は、デンマーク人権研究所です。同研究所は法律に基づいて設置され、政府の資金によって運営される独立機関として、国内外において人権と平等の促進と保護を目的としています。

 応対者は、ビジネスと人権を担当する、キャサリン・ブロック・ヴァイパーグ氏とダーク・ホフマン氏のお2人で、冒頭に、団長である広浜氏より視察の目的を含むあいさつを英語で行いました。

 懇談では、企業が国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいて、事業活動が人権に対して負の影響を与えないようにするために、すべての過程を見渡せるようにすることが必要であることが強調されました。特に、自社がかかわるサプライチェーンや、国によって異なるリスクなども考慮されねばならないと指摘されました。自社だけでなく、取引関係も含めて留意することが重要だということです。

 また、「労使見解(中小企業における労使関係の見解)」の英訳版を持参して紹介したところ、重要な内容であり1975年に発表されたことは素晴らしいとの評価を得ました。あわせて、現在の国際人権規約に照らして見直してみることがよいとの提言がありました。

 なお、ここから始まる各団体訪問では、専門家として同行いただいたジェトロ・アジア経済研究所の山田美和氏に通訳およびファシリテーターとして尽力いただきました。

 続いての訪問先は、デンマーク工業連盟です。同連盟では、国際部門でCSRなどを主に担当するカトリン・ルビー・ボディカー氏と、マリー・レーマン氏のお2人のレクチャーから始まりました。

 同連盟は、同国内における最大の使用者団体であり、会員は約1万1000社。その88%を従業員100名未満の企業が占めています。国内外でデンマーク企業の活動を支援することを目的とし、また、労働組合との団体交渉や会員企業に対する助言も行います。

 国際的な枠組みとして重視しているものは、国連のグローバルコンパクトおよびビジネスと人権に関する指導原則、そしてOECDの多国籍企業行動指針の3つです。中でも、ビジネスと人権に関する指導原則に関しては、「人権デューディリジェンス」と言われる、ビジネスが人権に及ぼす悪影響を予見してカバーすべきであるという点が強調されました。

 視察3日目の24日、ベルギー・ブリュッセルで最初の訪問は在欧日系ビジネス協議会です。同協議会は1999年の設立、会員数85社。日本とEUの架け橋としてEUの政策形成に貢献し、ビジネス環境を促進するという使命のもとで活動しています。

 同協議会では、木下由香子CSR委員長と長宗豊和事務局長から、組織と活動の説明を受けました。CSR委員会は、2003年「CSR元年」に設置され、失業対策、ソーシャル・インクルージョンの活動から始まりました。現在は、競争力に寄与するCSRとして、2015年のパリ協定やSDGsも踏まえた活動に取り組んでいます。

 質疑応答では、視察団から「人権デューディリジェンス」について、中小企業の自助努力だけで進めることができない場合の救済措置について質問が出されました。これについては、企業行動をチェックする視点から「現代奴隷法」(英国・2015年など)が生まれたことなどが紹介されました。

 続いて、同じビルに所在する日本貿易振興機構(ジェトロ)ブリュッセル事務所で、前田篤穂次長から「EU中小企業政策と産業動向」をテーマに丁寧な説明を受けました。

 EUの中小企業政策の主軸は、「欧州小企業憲章」の具体化を急ぐ観点から、(1)財務・金融支援、(2)行政手続きの簡素化、政策立案上の配慮、(3)イノベーション、国際化支援、(4)スタートアップ、スケールアップ支援、の4点が示されています。

 中でも、「中小企業テスト」(SMEテスト)が位置づけられており、政策導入に伴う中小企業への利益と損失を点検し、影響を評価することで政策の調整・修正も行うことが想定されています。

 そのほかにも、EUと加盟国の中小企業利益代表者をつなぐ「中小企業特使ネットワーク」が組織され、「中小企業の視点で考える原則」が反映されるよう関係機関に働きかけることも行っていることなど、多岐にわたる情報を提供いただきました。

日本の中小企業憲章に歓迎の声

 24日の訪問先、3カ所目は欧州委員会の域内市場・産業・企業・中小企業総局です。欧州委員会は、欧州連合(EU)にある主要機関の1つで、立法の準備と施行、遵守をすすめる役割があります。

 同局では、中小企業の国際化ユニットの責任者であるジャコモ・マッティーノ氏と、ジャン・マリー・アベゾウ氏が懇談に応じていただきました。

 冒頭に、この11月から新しい欧州委員会の体制となって動き始める時であり、政策的にもタイミングのよい訪問であると歓迎の言葉がありました。取り組みの説明の中では、若い起業家たちをサポートするシステムを進めていることが紹介されましたが、自らの域内で経営者が学ぶ仕組みではない点が、同友会の取り組みとは違うと、後に参加者から感想が聞かれました。

 一方、中小企業政策を各加盟国と結び付けていく役割が重要であるとの説明の中で、ジェトロでも説明を受けた「中小企業テスト」(SMEテスト)を活用しようとしているとの話題も出され、共通課題となっている点が理解できました。

 中小企業総局では、日本の経済団体とは懇談などの機会が極めて少ないので、ぜひ政府にも働きかけて、意見交換を進めたいとの助言もありました。

 25日は、以前の視察でも訪問した欧州中小企業連盟との懇談です。前回訪問時と同じ、政策と対外関係担当役員のルーク・ヘンドリックス氏から、「皆さんの前回視察以降、欧州小企業憲章は小企業議定書(SBA、Small Business Act)として発展しています。日本でも中小企業憲章ができたことは、たいへん喜ばしいことです」との言葉から始まりました。

 同連盟は、欧州全体の組織として資金は会員企業によるもので、中小企業の利益を守ることを目的として、欧州委員会の行政・議会・評議会の3つの組織を対象に政策活動を行っています。

 同連盟は、欧州の中小企業の約50%を組織し、ヨーロピアン・ソーシャル・パートナーとして、中小企業を代表して労働組合や公的組織、国営銀行などと同じテーブルにつきます。ここでは、働く環境についての合意形成なども行われ、合意されたものは各国で実施されなければならない仕組みとなっています。

 ヘンドリックス氏からは、中同協も日本の中小企業を代表する立場になってほしいとエールを送っていただき、次の訪問国ドイツに向かいました。

まちづくりとエネルギーシフトの実践例

 26日、フライブルクでは、以前から交流のある環境ジャーナリストの村上敦氏に同行いただいて、中心市街地と近郊の住宅地を徒歩とトラムで移動しながらの視察です。

 午前中は、市街地中心部のまちづくりについて歩きながらレクチャーを受けました。街の中心は、歴史的にフライブルク大聖堂であり、近年に整備された周囲の街並みも、素人目には昔ながらの風情が十分維持されるように工夫されています。

 続いて、トラムに乗車して近郊のヴァインガルテン住宅地に行き、団地再生について数棟を歩きながら見学。午後は、ヴォーバン住宅地を訪問し住宅地を歩きながら都市計画・交通計画の現状について説明を受け、省エネ建築や外観に配慮した立体駐車場なども見学し1日を終えました。

 最終日は、フライブルクから一時間半ほどのジンゲン市で、再生エネルギー事業に取り組むソーラーコンプレックス社を訪問しました。

 べネ・ミュラー社長から取り組みの説明を受け、環境コーディネーターの滝川薫氏に通訳・解説をしていただきました。

 同社は、地域エネルギー供給を転換していくことを目的として2000年に20人の市民によって創立され、現在では1,200以上の出資者を得るまでになりました。また、再生可能エネルギーを増産する中心的な存在として、「再エネ専門シュタットヴェルケ」(公社のような役割)ともいえるまでになりました。

 これまでの主な事業は、3万キロワットの太陽光発電、水力発電、風力発電、バイオマス発電、そして最重点である100キロメートル以上に及ぶ地域熱供給網です。これら全プロジェクトへの総投資額は1.5億ユーロ(約170億円)に至っています。

 詳細な説明の後に、広報担当者の案内によって省エネ改修された同社社屋と、自然調和型野立てソーラー施設などを見学しました。

中同協専務幹事 萩原 靖

「中小企業家しんぶん」 2019年 11月 5日号より