【黒瀬直宏が行く 魅力ある中小企業】組織革新から新事業へ フジエダ珈琲(株) 代表取締役 藤枝 一典氏(奈良)

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授が、社員がイキイキと働く、魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。第4回目となる今回は、フジエダ珈琲(株)(藤枝一典代表取締役、奈良同友会会員)に話を聞きました。

フジエダ珈琲(1975年創立、従業員165名(社員38名、パート・アルバイト127名)はコーヒーの製造(コーヒー生豆の焙煎、配合、粉砕)と喫茶店などへの卸売り(焙煎したコーヒー豆とコーヒー粉)、直営喫茶店の経営などの事業を行っています。創設時から卸売りと喫茶事業を行っていましたが、70年代は喫茶店が増え続けた時代で、同社の主力事業も喫茶店の開設支援・卸売りに置かれました。しかし、90年代以降の喫茶店数の減少とともに喫茶事業に軸足を移し、1990年まで3店だった直営店を2店新規開店し、現在の売上は卸売り40%、喫茶事業60%です。

藤枝さんの社長就任は2011年(33歳)、父親の先代社長の病気がきっかけでした。ただ、事業承継の仕方はいささか変則的で、別法人になっていた製造・卸事業部門の社長に藤枝さんが、喫茶事業部門の社長には弟さんが就き、藤枝さんは喫茶事業には口を出しませんでした。とはいえ、本社社屋は一緒でしたので、社員は「社長」に電話がかかってくると、その内容により、どちらの社長に取り次ぐか判断するなど、社員にとっては2人社長のようなものだったと言います。

また、藤枝さん自身も経営者としての自覚が不十分で、いつまでたっても入社前に勤務していた食料品商社時代の営業マンから、経営者に変われないままで、足元の業務を場当たり的に回しているだけでした。

奈良同友会には2011年に入会していましたが、2014年に奈良同友会の経営指針作成セミナーに参加、このままではいけないと気づきました。距離の取り方に困っていた弟さんをセミナーに誘わなかったら、「本気で会社をよくする気があるの」と言われたり、先輩から経営者の覚悟を聞かされました。青年部の活動を通して自己変革の必要を学び、「最大の経営課題」は自分だと気づきました。「経営理念なんているの?」と思っていた藤枝さんは理念として何を書いてよいかわかりません。1年目にようやく経営理念を完成させましたが、これで終わり。経営方針に具体化できたのは2年目、経営計画書がだんだん厚くなってきました。2017年、経営指針を発表すると同時に株式を集中し、組織的にも全社を一体化に向けた取り組みを始めました。

経営理念作成の効果は人材採用に現れました。従来の人材採用は労働条件の提示だけ、経営指針作成によりこんな会社だと説明でき、それに共感した人材を採用できるようになりました。また、大学生がアルバイトとして働いていながら応募もしてくれませんでしたが、就職先として選んでくれるようになり、即戦力として来年予定の喫茶店の新規出店も可能となりました。藤枝さんは「大卒者は中小企業には来ないと思い込んでいたが、社風をつくることで関西の有名校出身者も入社するようになった」と言います。

藤枝さんは同友会青年部会の活動で「自主・民主・連帯」を核とする組織づくりを学び、自社に取り入れました。個人の価値観を尊重し、入社式に書いてもらいます。人として尊重された上に仕事上の役割があると考えています。

社内には社員による「コアバリュー委員会」があり、価値観の整理を行っています。委員は手当をもらうわけではありませんが、組織をつくりあげる喜びを感じています。情報共有推進のため、社長が年内に来年度方針を作成、1月に店長以上の幹部社員が1泊2日の合宿で方針共有、3月までの間に店長から部門長、アルバイトに伝わります。垂直的な情報共有だけでなく委員会制度で横の情報共有も推進しています。藤枝さんは、「社員は自分が見えないものを見ており、自分1人の力での経営は無理、社員との連帯が必要」と言います。

先代社長はクリスマスケーキを社員が持って帰るようにするなど温情的でしたがトップダウン型でした。それに対し現社長がめざしているのは、経営者と社員はパートナーという関係の構築です。「トップダウンに慣らされた社員には意見を聴いてくれるなという人もいたけれど、この組織改革は成功しつつある。そこで、来年、日本の喫茶店文化を世界に発信するためインバウンド向けのKISSATENを出店、そのために全社一丸で向かう」と言います。

会社概要

設立:1975年
資本金:2,000万円
従業員数:165名(社員38人、パート・アルバイト127人)
事業内容:コーヒー豆または関連食品及び関連機器の卸し
URL:http://www.fujieda-coffee.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2019年 12月 5日号より