ビジネスと人権の時代~「指導原則」を企業と同友会運動の力に~

SDGs(持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組みが世界で大きな潮流となっています。このSDGsのベースになるものとして国際的にも注目を集め、各国で具体化が進みつつあるのが、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下「指導原則」)です。日本でも来年には政府が行動計画を発表し、具体化を進める予定です。中同協も計画づくりを行う政府の作業部会に参画し、中小企業の立場から提言を行っています。

経済のグローバル化と多国籍企業の影響力の増大を背景に、特に途上国や新興国での過酷な労働などの人権侵害が顕在化してきています。「指導原則」は、国家の義務や企業の人権尊重責任などを定めたものとして、2011年に国連人権理事会において全会一致で承認されました。

中同協では2014年から「日本経済ビジョン(討議資料)改定版」(案)や中同協定時総会議案で「指導原則」について触れ、「新たな動きとして注目される」と紹介してきました。中同協として「指導原則」に注目した理由は以下の3点があげられます。

第1に、途上国などでの人権侵害は、低賃金でつくられた安価な製品が先進国に流入することで過度な低価格競争をもたらし、中小企業の経営にも大きな影響を与えること。

第2に、日本国内での不公正取引は、中小企業の労働環境悪化などの要因になっており、まさにこれは中小企業で働く経営者や社員の人権問題にもつながるものであること。

第3に、「労使見解」を掲げ、「人間尊重の経営」を長年実践してきた同友会にとって、「人権尊重」の流れは、共通性があり歓迎すべきものであること。

「指導原則」は全ての企業に、その規模などに関係なく適用されるものです。今後、日本国内でも人権尊重の流れが強まり、中小企業にも多くの影響をもたらすことが予想されます。

「指導原則」では、「企業による人権尊重の責任」が謳われており、各企業は(1)人権尊重の企業方針の公表、(2)人権デューデリジェンス(人権尊重に注意を払うためのマネジメントの仕組み)、(3)苦情処理メカニズムの整備、などが求められます。

中小企業は、サプライチェーンの中で取引先からも人権尊重の取り組みが求められるようになり、それに対応できない企業は、取引から排除される可能性も考えられます。一方で人権尊重に取り組む企業では、社員の働く意欲や社会的評価が高まり、企業価値や競争力の向上が期待できます。

今後の同友会運動でも、経営指針づくりや社員教育活動などさまざまな分野で「人権」を意識した取り組みが重要になります。「指導原則」を積極的に自らの力にして、人間尊重経営を一層推進して企業基盤を強め、さらには公正な取引関係を求める運動や、中小企業憲章・振興条例運動の深化、グローバル時代に対応した中小企業憲章の国際化などを展望していきましょう。

(S)

「中小企業家しんぶん」 2019年 12月 15日号より