中同協欧州視察参加者レポート(2)

中同協では欧州視察として9月21~29日までデンマーク、ベルギー、ドイツを訪問しました。視察に参加した北西祥子氏(大阪同友会事務局員)、加藤洪太郎氏(名古屋第一法律事務所弁護士)のレポートを紹介します。

欧州視察から抱いた同友会の展望

大阪同友会事務局員 北西 祥子(大阪)

SDGsがめざす“誰一人取り残さない”社会の実現に向けて、世界はどう取り組んでいるのか。SDGsというレンズから欧州社会の取り組みを見ることで、今後の同友会の展望を考えた。

「『豊かな地域』づくりには、市場原理に負けないように、目の前の利益だけにとらわれず、どんな未来でありたいか『ビジョン』を描き、国民・国全体で共有されていることの意義が大きい」そう感じたきっかけは、巨額の赤字と高い失業率に苦しむ自治体から、電力自給率800%で都市を支える存在へと変化を遂げたデンマーク・ロラン島だった。単に「風力発電で地方が豊かになった」という事例ではなく、私たちが実現していきたい「豊かな地域とは」を捉えなおす最初の訪問先であった。地方の地域資源を活かすことができたのは、食料やエネルギーを他から与えられないと自立できない大都市を地方が支えていること、その役割が尊重されていることが背景にある。「自分たちが選んだ政治家を自分たちが育てる」と政治への関心も高く、インフラを扱う公共事業体との信頼関係を築き、民主主義に対する考え方も日本と違うという。

また、人口約20万人の都市ドイツ・フライブルグでは、3800人もの役場で働く人がそれぞれの専門性をもって行政の役割を果たしている。利便性を重視して店舗開発する日本と違い、長期的な視点に立った街づくり、移民も低所得層も地域に偏らないよう、多様性を重視したマスタープランが作られている。両国とも、さまざまな産業の民営化を進め、規制緩和を行うことで市場を活性化させようとしてきた日本と大きく違う地域づくりがそこにあった。

EUでは中小企業を取り巻く新たな潮流として、「イノベーション」「産業デジタル化」「循環型経済」がキーワードであるとご報告があった(ジェトロブリュッセル事務局)。特に原料・商品を可能な限り長期循環させ、再生産する「循環型経済」においては、その「循環・再生産」に産業価値をつけて「収益化」しようという新しいイノベーションが生まれており、「SDGsをビジネスチャンスに」と発信されている。またSDGsの目標8で掲げられている「ディーセントワーク」において、社員の働きがいを考えるうえで、同友会が大事にしてきた「労使見解」は訪問先でも共感いただき、人権規約など国際基準に基づいて内容をより国際的に発展させていく必要性を認識した。欧州の中小企業団体連合であるSME Unitedでは、「中小企業を代表している」社会的なパートナーとして認めてもらうよう、欧州2400万企業のうち1100万社の企業が所属し、デンマーク工業連盟と同様、会員の声を国や社会に届けることに力を入れている。同友会が進めてきた「人を生かす経営」の実践、仲間づくり、政策提言の意義を再確認した。

資源が乏しくなっていく中で「持続可能性」が重要となると、「とにかく安いところから買う」という価格競争のあり方に変化が起こる事例も学んだ。一人ひとりが安全に生き、安定した生活ができ、安心して暮らせる社会をつくる同友会運動を誇りに思うと同時に、SDGsに取り組む世界を見て、創造性を発揮する中小「輝」業の時代だと感じた。

豊かな地域経済づくりの一翼を担う地域企業家に

名古屋第一法律事務所 弁護士 加藤 洪太郎(愛知)

エネルギーシフトは地域企業の手で

 デンマークのロラン島。風力発電で電力自給率800%。都会への電力移出で地域経済を豊かに。発電風車のタワーは愛知の渥美半島でも林立。何が違う?渥美のそれはJパワー社や中電など域外の大手企業の経営。そのために収益は渥美の外に。ロラン島は地元農家や地元組合の経営で収益が地元を富ます。

肝心要は地元企業家

 島の農家といってもかの国では学び学ぶ経営者。同じ再生可能資源による事業でも、要はそれを起こす主体が地域の企業家であるかどうかではないか。

地元市民企業は成功する

 農民ばかりではない。交流したソーラコンプレックス社はドイツ南部の地域企業。西暦2000年、20人の市民の出資で始めたエネルギーシフト目的の企業。2018年には出資者1200件強に。総資産83億円で配当率4%を維持し地域を富ませる。ヤレル!

使命の羅針盤ある中小企業

 「中小企業は…」「暮らしに根ざす仕事を生み出し、…地域…の力強い発展に貢献する。」「先人の知恵に学び、互いに結び励ましあい、…」「…人類と地球の持続可能な未来に貢献し、…安定した暮らしを実現する。」これらは日本国民から期待されるべき中小企業の使命(2010年・同友会中小企業憲章草案)。これを羅針盤に自身と自社の自己変革を重ねるならば、デキル、ヤレル。

だが、政策環境は?

 輸入化石燃料や原子力による大手企業の大規模集中型発電から、地域の再生可能資源による地域企業の分散型発電へのシフトには、デンマークでもドイツでも国や地方政府の政策の転換が背景に。では、翻ってわが国では…

政策の転換は国民主権の充実度次第

 その国策を動かしたのは国民的大議論の結果だと、交流先の誰彼も指摘し報告する。では、わが国では? わが地域では? 主権者つまり国民のありようは?

 ロラン島に嫁して暮らすニールセン北村朋子さんいわく「デンマークの選挙投票率は85%を超える」「カギとなるのは教育。社会のことを自分ごととして理解できる教育が行われてます」「日本では長く受験制度が続いたことで、ものごとの成り立ちを深く考えることよりも、結果だけを覚える事が重視されてきました」

憲章は少数派?
憲章の本質は?

 国会決議に容易には至らないわが中小企業憲章。同友会運動は少数派? 「たとえあなたが少数派であろうと、真実は真実なのです」はある先人の名言。

 真実の核心をふり返る。それは憲章の大目的。いわく「私たち日本国民は、国民一人ひとりを大切にする豊かな国づくりのために、…」。そしてその歴史的な根源である同友会の「労使見解(1975年発表)」に核心が。

 本質はまさに個人の尊厳すなわち基本的人権。

世界に吹く追い風

 「企業は人権を尊重すべきである」。2011年に国連人権理事会で決議された“国連・ビジネスと人権に関する指導原則”の1文である。そして「誰も置き去りにしない世界をめざす」のSDGs(2015年国連サミット)の本質も基本的人権なのだ。

 こうなると1975年に独り帆を揚げたわれわれの船団は、今や世界の追い風を受ける存在。進路に確信。

世界の追い風と実際に連帯する

 訪れ交流した、デンマーク人権研究所、デンマーク工業連盟、EU委員会域内市場・産業・起業&中小企業総局、欧州中小企業連盟など、いずれも人を生かす人権経営とその環境づくりに注力。100年の盟友に出会えた実感。すでに、欧州連合加盟国ばかりでなく米・韓・中・イスラエル・スイスなどとも毎年の定期交流が始まっていて、「来ないのは日本だけ!」と知る。同友会、いよいよ国際連帯へ。

展望 見ゆ!

 新自由主義に走って「金だけ」「今だけ」「自分・自国だけ」の巨大企業がもたらす逆流に抗し、今や国連加盟世界一96カ国が決議して連帯する人権の順風を帆にはらみ、10年の歳月と拡げ広がる連携力そして国民主権の力の実体の充実を背景に、地域をこそ豊かにする企業家の一員としての使命を果たし、豊かな互いの人生を築きたい。その展望を確信した視察であった。

※レポートの原文をできるだけ忠実に表現するため、他の文章構成・文体とは異なります。

「中小企業家しんぶん」 2019年 12月 15日号より