社員とともに成長する会社をめざす (株)ブンカ巧芸社 代表取締役社長 峯元 信明氏(鹿児島)

【黒瀬直宏が行く 魅力ある中小企業】

 黒瀬直宏・嘉悦大学元教授が、社員がイキイキと働く、魅力ある中小企業を取材し、紹介する本連載。第6回目となる今回は、(株)ブンカ巧芸社(峯元信明代表取締役社長、鹿児島同友会会員)に話を聞きました。

 (株)ブンカ巧芸社(1953年創業、従業員78名)の主力事業は各種看板の企画・製作・施工と保守メンテナンスです。

 峯元信明社長は三代目、2004年に入社、2012年35歳で父親から社長を継承しました。戦争から帰って創業した祖父の時代の看板は、手書きによる文字と絵で製作されました。現代の看板は大型化し、小さな建物をつくるのと同じで、基礎工事、板金、塗装、電気工事など各種工程が必要です。

 看板製作業者はどれかの工程に特化しているのが普通ですが、2代目父が1992年に看板を一貫製作する自社工場を建設、さらに現社長が工場を移転・拡大、大型機械の分業による一貫製作能力を強化しました。協力企業が40~50社で、主に現地設置を依頼していますが、同社工場で部分工程を担当してもらうこともあります。顧客がブンカ巧芸社に発注すれば工事のすべてとメンテナンスをやってもらえることが、同社の最大の強みになっています。

 2011年の売上7億円、2018年9億円、2016~2018年は9億円台で横ばいですが長期的には着実に売上を伸ばし、鹿児島県ではトップ企業です。

 しかし、苦しい時もありました。以前から離職率は高かったのですが、2008年のリーマンショックにより25%の従業員が辞めました。峯元社長は当時専務でしたが、「リストラをするような会社にはいられない。経営者を信頼できない」と言われたのがショックでした。そこで、社長になって大切にしている考えが、「社員とともに成長する会社」です。そのため、第1に手帳型の経営指針を作成、全社員に持ってもらうことにしました。ここには企業の未来ビジョン、事業方針、売上目標、設備投資計画、各社員の達成目標など、企業のすべてが詰まっており、全社員が社長と同じ経営情報を持ち、納得しながら同じ方向をめざすことができます。

 第2に社員要望の共有を行いました。社員が長く勤められるよう、年1回の社員満足度調査、月1回の社長との座談会、年3回の個人面接などで社員の声を聞く仕組みを構築しました。社員満足度調査では、仕事の手ごたえや経営姿勢への信頼感、職場のコミュニケーション、給与や人事処遇にどのようなことを考えているかを把握します。

 第3に行ったのが「委員会活動」です。その目的は(1)社員参加で自分たちの会社を自分たちでよくする、(2)委員長には管理職以外の社員が就き、役割で人を育てる、(3)部門横断的なコミュニケーションのツールをつくる、です。と言っても、社員はすぐには参加してくれませんでした。けん引役になったのは「環境整備委員会」でした。大阪の同友会会員企業に社長とメンバー4、5人で3S(整理、整頓、清掃)活動を学びに行きました。社長は5回も行ったそうです。まず捨てることから始め、何年間も置きっぱなしの物がなくなり、空間が広がると蜘蛛の巣も目立ち、清掃が進む。きれいになると汚す人もいなくなる。みんながうれしくなり活動が進み、プライドを持てる工場になりました。「ふれあい委員会」も効果をあげました。「気持ちよく働けるような朝礼にしよう」を目標にし、従来、社長中心であったものを社員中心に変えました。社員が交代で毎回1分間スピーチを行います。話は日常生活で経験したことなどさまざまですが、「これを話してやろう」という気構えで準備してきます。話す人の人間性もわかります。朝礼は次第に活性化し、以前は経営理念の唱和もぼそぼそ声だったのが、いつの間にか元気な声になりました。委員会は7つあり、全委員会が年2回成果を発表し、全社員の投票で1位を表彰します。委員会活動は社員の横のつながりを強め、人間関係もよくなりました。

 第1と第2が縦の情報共有ループ、第3は横の情報共有ループと言えます。ブンカ巧芸社は縦、横の情報共有ループで「社員とともに成長する会社」をめざしているのです。高かった離職率も2018年度はゼロにできました。仕事柄、年度末には土日出勤もあり、年間休日数は十分でないという課題も抱えていますが、峯元社長は「不景気になってもリストラしないような業界でめざされる看板屋になりたい」と言っています。

会社概要

創業:1953年
資本金:2,000万円
従業員数:78名
事業内容:各種看板の企画・製作・施工、各種イベントの企画・製作・施工、店舗内外装の企画・製作・施工。
URL:https://bunkakougeisya.co.jp

「中小企業家しんぶん」 2020年 2月 5日号より