環境経営で企業革新を 同友エコ受賞企業の実践事例を紹介

 中同協では、同友エコ2019として、全国に「環境経営・エネルギーシフト・SDGs」に関するアンケートを実施。638社からのエントリーがあり、29社が同友エコ大賞などを受賞しました。今回は、環境経営委員長賞受賞企業3社の実践を紹介します。

【環境経営委員長賞】 ハチドリの一滴(ひとしずく)

(株)中元建築設計事務所代表取締役中元 伸夫氏(石川)

 同社は伝統と革新が調和する古都金沢に根ざし、「建築」と「補償」の技術力を生かした地域社会に信頼される設計事務所をめざしています。

 10数年前にエネルギー枯渇の講演を聞き、今を楽しむのではなく、未来の子孫に残せる地球のために、今できることをしようと考えるようになりました。このころは、環境に関する知識は学んでいても経営には結びついていませんでした。

 石川同友会では23年前に環境ビジネス研究会を設立し、石川県が取り組んでいる「いしかわ事業者版環境ISO」取得セミナーを実施していました。約10年前に同セミナーに参加する中で、経営でも環境問題に取り組めることに気づき、自社の環境理念、環境行動指針も作成しました。個人ではわずかでも、会社でやればもう少しは大きくできます。「ハチドリの一滴(ひとしずく)」をモットーに、背伸びせずできることからやっていこうと考えました。

 一滴となる取り組みは、太陽光発電システム、雨水を濾過してトイレや散水に利用する雨水利用システム、透水性アスファルト、グリーンカーテン、低燃費車の導入など、多岐に渡ります。

 さらに事務所内では、待機電力の節電、ゴミの分別・資源ゴミの計量等を行い、消費エネルギーをノートに記録しています。

 当初、エコドライブの講習へ参加した社員から「自分の車でもやらなくてはいけないのですか」と言われたこともありましたが、今では自分の車もハイブリットにするほど意識は浸透しており、土曜の出勤日に行う公園の美化活動などは社員からの提案です。

 これらの取り組みは業種や大小に関係なく、どんな企業でもできることです。よい会社、よい経営者、よい経営環境をめざすなら、人として知ったからにはやるのは当たり前のこと。環境経営は倫理観の問題であり、CSR(企業の社会的責任)ですが、結果として経費節減など経済的メリットがあり、求人の効果など企業のイメージアップにもつながります。

 「まずは行動!ハチドリの一滴として、小さなことから始めよう」と多方面で環境経営を勧めています。

【環境経営委員長賞】 人も土も地域で循環する仕組みで「持続可能な有機農業」を

(有)山口農園 代表取締役社長 山口 貴義氏(奈良)

 山口農園は、現会長で山口氏の義父である武氏が環境を保全しながら安心な野菜を提供する有機農業をしたいという思いで始めました。山口氏もその考えに共感し、脱サラして手伝うなかで「環境保全につながる有機農業が、大変、儲からない、ではなくもっと若い人も楽しくできて持続可能なものにしたい」と考えました。生産・収穫・営業など作業の完全分業化、土の劣化を防ぐ輪作品種の選定、飲食店への直卸でなく川上の卸業への販路開拓、着値の価格制からの脱却など、自分たち自身も縛られていた「農業は家族でするもの、苦労するもの」という価値観を変革しながら取り組んでいきました。

 経営面での改善だけでなく、山口農園では「人も土も循環する仕組み」が回ることで持続可能な有機農業が実現されています。

 仕組みの柱は「増加する遊休地対応」と「農業学校」の2つ。山口農園が所在する宇陀市は、高齢化が進む中山間地で離農が進行しています。山口氏は地域の遊休地の管理を請け負うと同時に、それを新規就農をめざす人を対象に自社で開校している農業学校で、研修圃場や卒業生の就農用地として活用しています。 有機JAS認定取得には2年間の土づくりが必要で、採算は見込めないその期間を研修圃場として利用できるほか、卒業生の就農時に認定農地を提供することができます。また離農農家のハウス解体と自社圃場での建設を研修にすることで、実践的な研修と離農コスト減の両得を実現しています。

 「農業の苦しい現状を悲観することなく、その時の状況や材料を工夫したり組みあわせることで今の形になった」と語る山口氏。原点は、土地も水も必要な農業は、自然環境や地域コミュニティの上にはじめて成り立つという信念です。

 地域の役を担ったり、社員や受講生とともに地域行事に積極的に参加したりするなかで、気づけば「人と地域資源の循環」をエンジンにして、めざしてきた“魅力ある有機農業”が力強く進んでいます。

 その実績が認められ2019年には「全国優良経営体表彰 農林水産大臣賞〈担い手づくり部門〉」を受賞。さらに増える遊休地への対応や、加工食品販売、アジア展開など今後の展望を語る上でも、人づくり・土づくりの信念は変わりません。

【環境経営委員長賞】 一歩一歩、地道に環境経営に取り組む

(株)マスナガ 取締役専務江上 勇次郎(熊本)

 弊社が環境経営に取組み始めたきっかけは2004年に大口取引先から提示された、取引を継続するための条件として「環境マネジメントシステムの構築」を求められたことです。

 ISO14000の認証取得はかなりのコスト負担になるとの危惧を持ち、当時お世話になっていたコンサルタントの方に相談したところ、中小企業向けに国内で立ち上がっていた認証システム「エコアクション21(EA21)」を勧められ、無事認証を取得して取引を継続することができました。そこから紙・ごみ・電気の削減に始まり、空調の入替(補助金活用)や照明のLED化、社用車のエコカーへの乗り換え、エコドライブ診断、快適職場環境診断、情報の電子化(ペーパーレス)など地道に取り組んできました。

 継続するうちに熊本同友会とかかわり始め、地球環境委員会に所属し毎月行なっている委員会で活動を続ける中で、大分同友会中津支部の例会にて環境経営の報告をする機会を得ました。10年間の取り組みデータをまとめて、あらためて電気やガソリンの使用量を意外なほど削減できていたことに気づきました。もちろん経費の削減にも貢献できています。

 社内の環境負荷削減に下げ止まりを感じだしたころ、2009年にEA21のガイドラインが改定され、本業の中での負荷削減が推奨されました。現在の主要な取り組みとしては、取引先の設備や資材の切替検討の際にコスト削減とともに環境負荷側面での価値も絡めて提案し、省エネ診断や製品デモなどを営業担当者が積極的に展開して、水銀灯のLED化や空調、コンプレッサーの置き換えなど実績を積み上げています。

 日本が2030年までに二酸化炭素排出量を2005年比で25・4%の削減を目標としている中で弊社1社での削減量は微々たるものですが、現在値で30・5%削減を達成しています。同友エコの取り組みが同友会全体に広がるならその効果が5万倍、中小企業全体に広がるならもしかすると300万倍になるかも知れないと考えると中小企業家が環境経営に取り組む重要性と可能性を強く感じます。

「中小企業家しんぶん」 2020年 3月 5日号より