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連載「エネルギーシフトを考える」第2回 エネルギーシフト(ヴェンデ)の原点は、まず声をかけ、とことん一緒に考えること

危機にこそ小さな声に耳を傾ける

 この9年の間に震災ボランティアなどで陸前高田の街を訪れ、その魅力に取りつかれた若者は、大学を卒業後関東圏はじめ全国各地から移住し、震災の体験を現地で伝える長期インターンシップを仲介するNPOなどを立ち上げていきました。そして地元の中小企業の多くが学生などを数週間から数カ月受け入れ、その体験に心揺さぶられた若者がまた移住するという、連関ができています。

 しかし新型コロナの影響は震災後全国から移り住んだ、そうした20代の若者の暮らしを直撃しています。2月以降、修学旅行や長期インターンなどの申し込みは完全にストップ。収入が途絶えてしまいました。そこで彼らを救済しようと岩手同友会の気仙支部で立ち上げたのが、地元企業による合同面接会です。

「じゃあ今日はおまえの話を聴こう」

 気仙支部では創立当初から当時支部長であった田村滿氏が、ゼロ歳から100歳までの人口動態グラフを実際に示しながら「このままでは町を出た若者が戻ってこない。地域の中小企業が連携して新たな仕事を生み出して『1社、1人』でもいいから雇用をつくろう」と毎回の例会で発信していました。そのために、小グループで企業変革支援プログラムの勉強会を毎週のように自主開催していました。

 「さて、今日は社員との信頼関係の構築がテーマ…」と読みはじめたばかりなのに、白い油まみれのつなぎ服で駆けつけた自動車整備工場の後継者が、「田村さん、俺ここちょっとひっかかります」と言った瞬間、「じゃ今日はおまえの話を聴こう」と方向転換。そんな勉強会が続いていました。

 「醤油味噌を贈答で贈る時の化粧箱を気仙スギでつくってみたら付加価値がかなり高くなるのでは」「昔からあった自根(じこん)きゅうりで新商品を考えたい」など、毎日毎晩話題が尽きないほどのかかわりあいが続いていました。

 80名ほどの支部ながら毎回の例会には50名もの参加者が押し寄せ、会員100名まで間もなく、という時期に襲った大震災でした。

どんな状況でも思考停止にならない

 地域で困った顔をした若者がいれば、まず声をかける。そしてとことん一緒に考える。私たちのエネルギーシフト(ヴェンデ)の原点は、ここにあります。途方に暮れて落ち込んでいる人がいれば「思考停止になっちゃだめだ」と本気で励ます。会社が大変な状況で社員をどうしようかと悩んでいる経営者がいれば、誰でも構わず「大丈夫だ。必ず会社も雇用も守れるから。こんな制度が使えるぞ」と呼びかける。まさに今の新型ウイルスの見えない行方の中で、こうして合同面接会を開催するのも「地域の企業を1社もつぶさない、つぶさせない」が私たちの運動の原点であることを確認してきたからです。

運動を前進させる原動力に

 3月19日に陸前高田コミュニティホールで開催された合同面接会に参加いただいた企業は6社。口々に「気仙地域のことを思って移住してきたこの若者たちを、私たちはできる限りのことをして守りたい」と話します。迎えた若者は「この街、そしてこの街に住む人々が大好きで、自分の人生をかけようと移住してきた。こんなに熱い人たちはどこにもいない」と話します。

 あの自主学習会に来ていた自動車整備会社の後継者も、高田の商店街を毎月の例会案内チラシを持って「このままじゃ商店街がなくなる。地域を救うために一緒に学びに来ませんか」と泥臭く、自分よりも50年も長く経験するベテラン経営者を1軒1軒声をかけてまわっていた事務機販売業の後継者も、今では太平洋のはるか彼方に行ってしまった、私たちの仲間だった20代の若者でした。

 陸前高田が大好きで、自分のことよりも人のこと、地域のためになることを考えていた、そんな思いがそのまま全国から移住してきた彼らに重なります。

 地域の中で新たな仕事と雇用をつくるエネルギーシフト(ヴェンデ)の実践は、私たちの生き方、考え方を根本から見直す機会につなげることができます。それは現在のような危機にこそ、むしろ運動を大きく前進させる原動力になるのかもしれません。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2020年 4月 5日号より

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