企業を守ることは雇用を守ること

 「リーマンショックの2008年8月から毎月1割ずつ売上が落ち、2009年2月には売上が最盛期比3割という状態にまで陥りました。7割減という非常事態、全社員を集め、今までかなり委譲していた『責任と権限』をすべて社長である私に集中させる。絶対に首切りはしない、雇用は100%守る。その代わり私の言うことに対して、行動してほしい」と経営者の覚悟を示しました。

 これは、『企業変革支援プログラムステップ2』(中同協発行)に掲載されている実践事例の1つで、自動車部品メーカー社長(当時、現在は会長)の加藤明彦氏の報告です。

 緊急事態宣言の延長が発表される中、コロナ禍で多くの中小企業が自粛や休業などを迫られ、「取引先の需要が激減し固定費が重圧」「助成金が出るまでもたない」「(店を)開けるも地獄、閉めるも地獄」など、瀕死の状態に陥る企業もあり、かつてない危機に見舞われています。

 理想論や抽象論など、きれいごとでは済まされない現実がそこにあります。

 先の加藤氏は経営理念の研修会を開き、当時100余名の社員のほとんどが集まり、会を重ね、会社がやるべきこと、監督者がやるべきこと、自分たちでやれることの3つに課題を整理し職場改善にも取り組みました。

 また、「世間が暇な今こそチャンス」と、試作技術チームを結成して、大手に営業をかけるなど、新たな顧客・市場開拓に着手。その後注文が戻り、新たな顧客も増え、V字回復しました。

 「同友会に入ってなかったら、社員を切り、仕事も会社も失うことになっただろう」と当時を振り返ります。

 中同協では1975年に「中小企業における労使関係の見解」(労使見解、中同協発行『人を生かす経営』所収)を発表し、「経営者である以上、いかに環境がきびしくとも、時代の変化に対応して、経営を維持し発展させる責任があります」と、「経営者の責任」を明確にしました。

 「難局の克服への展開が求められるこのような時代にこそ、これまで以上に意欲を持って努力と創意工夫を重ねることに高い価値を置かなければならない。中小企業は、その大いなる担い手である」と中小企業憲章に謳(うた)われています。

 経営者の事業意欲なくして、中小企業の存続もありません。実際に会えなくても電話やSNS、ウェブ会議でコミュニケーションがとれます。緊急例会やウェブ懇親会など各同友会でさまざまな挑戦がされています。苦しい時こそ同友会。同友会で「知りあい、学びあい、援けあい」の輪を広げる時です。

(穂)

「中小企業家しんぶん」 2020年 5月 15日号より