コロナ世界大不況と闘う中小企業(2) NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

【黒瀬直宏(クロちゃん先生)が迫る 魅力ある中小企業】番外編

 新型コロナウイルス感染拡大による世界的大不況で中小企業はこれまでにない事態に直面しています。この未曽有の経営危機に中小企業はいかに対処するかをテーマに中同協の調査をもとにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)のレポートの第2回目を掲載します。

前回の5月25日号では、コロナ世界大不況下の経営のあり方として、経営体質の改革、人材の保全・雇調金の活用について述べました。

新市場開拓

 図表の「経営上の力点」で一番多いのは「新規受注確保」「付加価値増大」です。この大不況はじっと耐えているだけでは乗り切れず、この方針はますます重要となります。足下で行うべきは、コロナ危機による新需要に今ある経営資源を適用した新市場開拓です。外出自粛の直撃を受けた飲食店によるテイクアウト製品の開発やドライブスルー方式の導入、タクシー会社による弁当などの宅配もその一環です。

 中小製造業では次の動きが見られます。在庫払底が世界で懸念される人工呼吸器の増産((株)三幸製作所:従業員80名・さいたま市、(株)メトラン:従業員数38名・川口市)、医師たちが飛沫(ひまつ)から身を守るフェイス・シールドやゴーグルの増産(山本光学(株):従業員数232名・東大阪市)、医療機関でも消毒液として代用可能なアルコール濃度77%の泡盛の販売開始(請福酒造(有):従業員数31名・石垣市)などのほか、目立つのは手洗い可能な布製マスク生産への参入です。転倒予防靴下製造に必要な細かな編み込みのできる縫製設備を転用((株)コーポレーションパルスター:従業員数36名・東広島市)、ネクタイ縫製技術の活用((株)笏本(しゃくもと)縫製:従業員数15名・津山市)、ジーンズ用デニム生地の端切れなどの活用((株)ベティスミス:従業員数45名・倉敷市)、靴の内側に使う柔らかいナイロン素材の使用(ケミカル靴メーカー3社:神戸市)という取り組みがあります。安倍首相が記者会見(4月17日)でアベノマスクという批判に関する所感を尋ねた記者に反論しました。そのネタにされた泉大津市のマスクは、市長の音頭による「泉大津マスクプロジェクト」に手をあげた地域の繊維メーカー8社(当初6社)による毛布生産などの技術を生かした、各社それぞれの手作り製品です。マスク生産ではなく、家庭で手持ちのTシャツで作るマスク手作りキット「ミナノマスク」を開発した企業もあります(デザイン、シール印刷の(株)マエダ特殊印刷:従業員数5名・東京都江東区とナノファイバーシート製造の(株)エフ・ピー・エス:従業員数30名・岐阜県大垣市との連携)。

 以上は4月末までの新聞記事、ウェブサイトを基にしていますが、各社のホームページからは「私たちにも何かできることがあれば」、「沈滞した地域を元気づけたい」との思いが伝わってきます。「大きな成果は無理だ、しかし、ちょっとやってみるか」という中小企業家魂に期待したいです。

アメリカの中小企業家魂

 アメリカでも中小企業家魂が発揮されています。ニューヨーク州バッファロー市は戦後、大企業の流出で地域を支えるのは残された中小企業でした。

 その1社、イーストマン・マシーン社(創業132年)は素材切断機を製作する同族会社で、現社長は4代目のスティーブンソン氏(68歳)。3月半ば、全米で企業の休止が続く中、社長は社員を集め、食堂のテーブルに乗り、第1次世界大戦、スペイン風邪、大恐慌、第2次世界大戦を生き残ってきた132年間の歴史を順を追って話し、「今回も生き残る。われわれは家族だ、どの社員も大事にする」と語りかけました。

それから1カ月ちょっと、同社は生き残っていましたが、傷も残していました。同社が作る切断機の需要は50%に落ち、57名の製造部門のワーカーのうち40名がレイオフ。ですが、社長は40名のために医療給付を払い続けました。だから、社員を大事にするという約束は守ったと思っています。17名(まもなく5名が復帰)の雇用が維持できるのは、新需要を開拓しているからです。

 顧客にはさまざまな素材を扱う企業があり、同社の機械はSpaceXロケットの部品、ボートの船体、スキーの表面を削って仕上げることなどに使われています。多数の顧客が最近、医療用マスク、フェース・シールドに生産をシフトし、イーストマンはそれに対応するためコンピュータ化されている機械のプログラムを直しています。顧客もまた「フェース・シールド生産なしにはレイオフは避けられなかっただろう」と言っており、地域の中小企業が連携し新需要を開拓し、雇用を守っています。

 スティーブンソン氏は「私の一族はコミュニティーを支えるのが、企業を所有する最も重要な理由だと常に感じてきた。私はこの哲学で育てられた」と言い、この危機を乗り切る自分の力を確信しています。

「中小企業家しんぶん」 2020年 6月 15日号より