【連載】役に立つ新民法~知らないと身を守れない改正のポイント 第3回

弁護士法人千代田オーク法律事務所 代表弁護士 児玉 隆晴 (東京)

 2020年4月に民法が改正されました。120年ぶりの大幅な改正となり、契約などに関する基本ルールについて約200の改正があります。企業経営に与える影響も大きく、知らなかったでは済まされません。3回目の今回は、前回に引き続き保証契約締結時の情報提供義務と定型約款について説明します。

保証人に対する情報提供義務(その2)

 新民法は、保証人保護のために、前回述べた情報提供義務のほかに、さらに「債権者の情報提供義務」に関する2つの規定を設けました。

 1つ目は、債務の履行状況についての情報提供義務です。これは、保証人から請求があったときは、債務者の返済状況や債務残額などの情報を、債権者が提供しなければならないとするものです(458条の2)。

 この情報は、本来は債務者の機密情報ですが、債務者が延滞していれば債務者に支払いを督促したい(さらには遅延損害金が発生・増大する前に元本等の返済をしたい)とする保証人のために、その開示を義務づけたものです。なお、法人の保証人でも同じく請求できます。

 2つ目は、債務者が分割返済金の支払いを怠るなどして期限の利益を失った場合に、債権者が個人保証人に対し2カ月以内にその旨を通知すべきとしたものです(458条の3)。

 債務者が期限の利益を失うと、保証人にも残債務額と遅延損害金の一括返済の義務が生じ、その後も遅延損害金が雪だるま式に増えるため、保証人としても早期にこれを知る必要があるからです。債権者がこの通知を怠った場合は、債権者は、その後に実際に通知が到達するまでの間の遅延損害金を保証人に請求できません。これは、重要な保証人保護の規定です。

定型約款

 従来から、宿泊約款、保険約款や運送約款などにおいて画一的な規約集がよく見られました。また、近時は、コンピュータ・ソフトウエアについても、インターネット上で画一的な利用規約集が散見されます。

 これら画一的な規約集は約款と呼ばれ、従来からユーザーである相手方が中身を確認しない場合でも効力が認められて来ました。大量消費社会の今日では、このような画一的な規約集を使って迅速に契約ができるようにする必要があるからです。

 しかし、約款では、相手方が中身を確認しないことが通常であるため、この条項の中に「信義則に反する不当条項」が挿入されるおそれがあります。

 そこで、新民法は、約款のうち典型的なものを「定型約款」と定義し、その中にこの不当条項があった場合は、その条項は効力を有しないとしました(548条の2)。

 これは、定型約款の相手方である国民や中小事業者を保護する規定であり、重要です。

 そして、たとえばソフトのダウンロードにおいて画一的な利用規約に「同意」するなど、相手方が定型約款を利用して契約することを承諾した場合でも、信義則に反する不当条項は当然ながら効力が否定されます。

 今後、不当条項については、その効力を争うことにより、身を守っていただきたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2020年 7月 5日号より