連載「エネルギーシフトを考える」第6回 市民の88%が家族的経営を信頼している

小さな村で「何のために」を問い続ける後継者

 これまで私たちが欧州視察で訪問してきた企業や組織は、6年間で50社ほどあります。中でも印象的なのは、山間の小さな村や町の中小企業の後継者を訪問したときでした。

 スイス東部のアルトビューロー村は人口1,000人ほどの小さな町です。スイスでは、山間の小さな村々でも、合併するところはほとんどありません。アッフェントランガー社は、そんな町の建設業を営む中小企業です。社員数85名、そのほとんどが、車で30分ほどの距離から通勤、また職業訓練生10人を育てています。建設土木全般、最近ではサッカー場の人工芝の施工なども手がけています。

 伺うとすぐに、後継者のガブリエルさんからの実践報告から始まりました。この企業では、徹底したエコロジカル、リサイクリングが行われています。同時に、そうした取り組みは、この町全体の取り組み、考え方そのものでもあります。木質や地熱を使った地域暖房・地域熱供給、太陽光はもちろん、小水力発電までてがけ、1年で200万キロワットアワーを発電しています。社内全体で使っているエネルギー量よりも、はるかに多くの電力を生み出しています。

エネルギーシフトに取り組むのは当然のこと

 その電気を使うために、最近では16トンの重量の大型ショベルカーを電気モーターで動かす研究もチューリッヒ工科大学と共同で行い、1日の充電で8時間稼働できるバッテリーを開発、丸2年かけて実用にまでこぎ着けました。通常1日200リットルの燃料を使うこの重機で、一切化石燃料を使わないことは、環境負荷の軽減という意味では大変な効果です。しかし実際には開発費用と高額なバッテリー費用の回収はかなり大きな壁となります。

 それでもこのプロジェクトを行うのは、「企業として当然のこと」と話します。スクリーンに映し出された経営理念は、思いを研ぎ澄ませた品質、エコロジー、安定性という言葉が囲んでいます。そしてその実効性を保障しているのは、家族企業という考え方です。数名の自然人が過半数の株を所有する企業の意味ですが、日本だと地域企業と言った方が近いかもしれません。

 ガブリエル氏は話します。「地域の暮らしを支える企業である以上、経済だけではなく、地域にこうしたノウハウを残していくのは当然だし、ほかの企業ではできないことだから、われわれがやっていく。しかも家族企業は経営判断が早いし、社員一人ひとりの持ち味、能力を発揮しやすいし、個人面談で取り組む目標も確認しています」

 ここまで聞くと私たちの日常の同友会での学び合いとそっくりであることに気づきます。最先端のことをやっているのに肩ひじ張らない雰囲気にまた、引き付けられます。

 ドイツ社会調査の大手forsaが行ったアンケート調査によると、88%のドイツ人が家族企業を信頼しています。ドイツ政府への信頼度30%、多数の株主に分散所有されている国際的な大企業への信頼度15%と比較して、はるかに高い数字だと言われています。(池田憲昭氏コラムより)

 欧州では、日常的に地域を支える中小企業という意識が、市民の根底にあることがわかります。

支え合い協力し合い、新たな事業を地域に生み出す

 社員が考えた現場での取り組みは、数え切れないほどありました。例えば、現場から戻ったトラックや重機を水で洗い流すときに流した砂や小石を徹底して回収、再びコンクリートの材料などに使用しています。使用後の水は3度濾した後に濁りがなくなってから排水する。

 生コン材料を残したまま帰ってきたタンクローリーから、そのまま流し込める型枠を事前に用意。砕いて壊したコンクリートの破片は、丁寧に分類して100%再利用など、すべて社員が考えたことです。まさに経営理念で会社全体が動いていることが、手に取るように感じられました。

 最後に、「人口1,000人の町で85名もの社員を抱え99%民間の仕事をしていることは、大変な競争の中での生き残りでは?」との質問に、「この地域では小さなころからみんな一緒の小学校に行って、共に暮らして生きている。みんな後継者は友人だし、企業同士でさまざまな連携をして新たな事業もいくつも生まれている。『相談事があるんだ、集まってくれ』と言えば、みんなすぐ来てくれるよ。みんながファミリー。企業内でも助け合うし、地域全体もそうだよ。特別なことではないよ」

 人口減少、少子高齢、過疎私たちが悩み、声高に叫んでいるのとは違う、優しくもあたたかく、力強い光景が見えてきます。エネルギーシフト(ヴェンデ)でめざす未来は間違いないのだと、スイスの小さな町の世界最先端の実践と若き後継者の思いに励まされます。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2020年 8月 5日号より