ポスト・コロナに真の人間尊重の社会を

 2020年も間もなく幕を閉じようとしています。今年は文字通り「激動の年」だったと言えます。新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界の感染者数は約6700万人、死者数は約154万人に及び(12月7日現在、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学発表)、さらに増え続けています。

 経済的にも感染拡大により世界各国で都市封鎖や外出自粛などが行われ、それによって需要が激減、サプライチェーンの途絶や工場の操業停止などにより供給面でも大幅な減少をもたらしました。世界経済は記録的なマイナスを余儀なくされました。

 歴史を振り返れば、14世紀にヨーロッパで流行したペスト、1918~19年に世界を席巻したスペイン風邪などの過去のパンデミックは、新しい価値観の創造と社会の大きな変革をもたらしてきました。今回の新型コロナも社会の抱える課題を浮き彫りにするとともに、旧秩序に変革を迫り、人々の価値観や生き方、産業構造に大きな転換をもたらす可能性が指摘されています。

 14世紀のヨーロッパで流行したペストは、ヨーロッパの人口の3分の1から4分の1の人々の命を奪いました。その後、ヨーロッパはイタリアを中心にルネサンスを迎え、文化的復興を遂げていきます。「ペスト以前と以降を比較すれば、ヨーロッパ社会は、まったく異なった社会へと変貌した」(山本太郎著『感染症と文明-共生への道』岩波書店)とも言われるほどです。いわば人間中心の近代文化へ転換するきっかけの1つにペストがなったとも言えます。

 それでは今回の新型コロナウイルスは、どのような社会変化をもたらすでしょうか。中同協が今年7月に実施した「新型コロナ第3次会員企業影響調査」で「新型コロナ収束後のアフターコロナの経済・社会」について聞いたところ、「デジタル化・IT化の推進」(54・6%)などの回答が上位に挙げられた一方、「人間尊重の社会づくり」が進むとの回答は7・7%と少数でした。また、「経済格差・差別の拡大」が進むと見る人は27・3%と少なくありませんでした。

 同友会では長年、「人間尊重の企業づくり」、「人を生かす経営」の推進に取り組んできました。これまでの多くの会員企業の実践から、そのような企業づくりこそ危機を乗り越える力にもなることが確認されています。

 国際的にもSDGs(持続可能な開発目標)や国連「ビジネスと人権」指導原則など、人間尊重、人権尊重の企業や社会をめざす動きが強まっています。日本政府も10月に「ビジネスと人権」に関する行動計画を発表し、「人権尊重」の社会づくりに向けて一歩を踏み出しました。

 ポスト・コロナの社会について、今さまざまな議論が行われていますが、国が真の「人間尊重の社会づくり」を理念やビジョンの中心に据えることこそ、危機を乗り越える大きな原動力になるはずです。そしてそれに基づいた中長期的な政策、例えば医療体制の抜本的強化や中小企業政策の本格的強化などを展開することが、今まさに求められていると言えます。

 来る2021年はその第一歩が踏み出された年であったと歴史に刻まれる年としたいものです。

(KS)

「中小企業家しんぶん」 2020年 12月 15日号より