【新連載】強靭な組織をつくる! 第1回 BCPに対する誤解

一般財団法人危機管理教育&演習センター 理事長 細坪 信二

 今号より新連載「強靭な組織をつくる!」がスタートします。第1回目のテーマは、細坪信二氏(一般財団法人危機管理教育&演習センター理事長)による「BCPに対する誤解」です。

コロナ禍で使えない「残念なBCP」が社会に広がっている

 「災害に見舞われた時にいち早く復旧することがBCP」と勘違いされる例が多く、まずは「事業継続(BC)」の概念の誤解を正さなくてはならない。ビジネス継続とは、事象を特定せず、企業・組織が、いかなる状況に見舞われても、優先順位に基づき重要業務を事業継続戦略を用いて目標復旧時間内に再開し、事業を継続することだが、地震を想定したBCPが圧倒的に多く、BCPは、地震対策だと誤解している方が多い。それゆえに、「BCPがコロナ禍で使えない」すなわち「残念なBCP」が社会に広がっているという状況である。地震型だろうが、感染症型だろうが、作ったBCPが現場で使えなければ「残念なBCP」となるのである。しかしながら、専門家と言われている方々ですら、地震型BCPと感染症型BCPでは違うという方も少なくない。最近は、「新型コロナBCP」という言葉が巷で飛び交い始めているのは嘆かわしいことである。「新型コロナ」のみを対象とした「新型コロナBCP」を作成したとしても、ウイルスが変異しただけで、たちまち使えなくなる。さらに申し上げれば、現在感染している「COVID―19」をベースに策定するBCPは、次の「COVID―21」なのか「COVID―25」には使えない可能性があり、結果として「残念なBCP」が社会に広まってしまうのだ。感染症は、必ず「変異」が起こるものであり、BCPを検討する上で「今」ではなく、「将来」「未来」を見据えなければならない。

本来のBCPは万能品でなければいけない

 「COVID―19」をベースに策定するBCPは、他の感染症で使えない可能性があるのだが、何か事象が発生するたびにBCPを策定しなくてはならないという呪縛に陥ってしまうと、事象ごとにBCPを準備しなければならなくなる。経営者の立場から考えると、いつ来るかわからない事象ごとにBCPを作り、事象ごとに対策を講じることができるだろうか。資金的に余裕がある大企業であれば個別に対策を講じることも可能だろうが、むしろ中小企業は、個別事象ごとに事前対策を実施して、「守り固める」という視点から、事象は何であれ、組織自体を柔軟に変化し、「生き残り続ける」という視点が必要である。本来のBCPは、複数の事象を網羅する万能品でなければならないのだ。また、組織が生き残り続けるためには、現在のビジネスを維持するだけでは難しいということは、すべての経営者が認識している。

 これからの経営環境の変化の激しい状況下において災害・危機に見舞われると、事業の中断、顧客の減少、売上の減少などにより、必ず「損失」が発生する。その「損失」は、事前対策を講じたことにより軽減することができたとしても、結果として「機会損失」というマイナスが残る。バランスシートの視点からいければ、「マイナス」があれば、いかに儲けて「プラス」にするのかというBCPが経営者として求められる。

〈プロフィール〉

細坪信二(ほそつぼしんじ)氏
・一般財団法人危機管理教育&演習センター 理事長
・特定非営利活動法人事業継続推進機構 理事
・(株)Team HOSOTSUBO 代表取締役

「中小企業家しんぶん」 2021年 3月 5日号より