【黒瀬直宏が迫る 中小企業を考える】第5回 情報共有の効果の実証

NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

 「中小企業を考える」をテーマにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)の新連載。第5回目は「情報共有の効果の実証」についてのレポートです。

 前回までに企業家活動(場面情報発見活動)には情報共有の有利性に基づく「中小規模の経済性」があるが、その発揮のためには経営者能力が重要なことを述べました。今回は、情報共有が経営によい効果を及ぼしているエビデンスを示します。

経営計画作成の仕方と情報共有密度

 私は中小企業へのアンケート調査で、年間の経営計画について、次の3つのどれに当てはまるかを訊ねたことがあります。

 a「年間の経営計画の作成に関し、一般従業員も参加する」、b「年間の経営計画を経営幹部層だけで決めている」、c「年間経営計画を決めるということは特にしていない」。

 aの例として私が思い出すのは、今期の経営の総括・翌期の計画はもちろん、商社からメーカーへの転換、就業規則の作成など、経営の根幹に関する方針を全従業員参加の泊まり込み会議で決めている企業です。この場合、一般従業員も経営計画の作成に参加しているから、経営計画を自分自身のものとしてよく知っています。また、一般従業員の計画作成への参加を通じて、経営幹部も一般従業員の持つ情報を共有します。従業員同士のコミュニケーションも活発に行われるから、従業員間の情報共有の密度も高まります。このように、一般従業員の経営計画作成への参加は、企業構成員間のコミュニケーションを格段に高めます。それに対し、経営計画を経営幹部だけで決めているbの情報共有の密度はaより低いでしょう。cは経営計画がないため共有のしようがなく、その他の情報についても受発信は低調と思われ、情報共有の程度は最も低いと見なせます。情報共有の密度はa>b>cです。

 表は、a、b、cといくつかの項目を組み合わせています。まず、「従業員との情報共有」の欄を見ると、経営理念の一般従業員への浸透努力を行っている企業や販売高などの経営情報を公開する企業、つまり、一般従業員の経営計画作成への参加以外によっても情報共有を推進している企業の割合もa>b>cで、情報共有の密度がa>b>cということは間違いないでしょう。

高収益・高賃金企業の割合

 そして、注目すべきは「経営実績」の欄で、「98~03年度売上伸び率20%以上」と「1人当たり平均年間給与総額400万円以上」の企業の割合もa>b>cで、情報共有密度が高いほど優れた経営実績=高収益・高賃金の企業が多くなっています。

 また、「自社の強み」として他社にない加工技術、製品開発力、販売力という要因を挙げる企業割合についても同じことが言えます。これらは、技術や需要に関する情報発見活動が活発であることを示唆し、高収益・高賃金の原動力になっています。中小企業が産業発展の主役とする、中小企業に「誇り」を持っている企業割合もa>b>cです。

 このように、a、b、cの順で経営パフォーマンスがよいですが、企業規模を見ると、cは1~19人の企業が多く、cのパフォーマンスの低さは小規模性にも由来している可能性がありますが、その場合でも人手がないので経営計画をたてる余裕がないという、情報共有に関わる要因が重要だと思います。aとbについては規模構成は同じということが確かめられています。したがって、情報共有密度が濃いほど経営パフォーマンスがよいと言えます。左の表は情報共有に基づく共同体的企業家活動の効果を示すものです。

「中小企業家しんぶん」 2021年 3月 15日号より