東日本大震災から10年~試練を教訓に どんな時も希望の光を掲げ続けて【岩手】

絶望の淵で決めた覚悟

「壊滅」と、ラジオから流れる声の先に掲げられた、岩手同友会の緑の会旗。津波被害で生活のすべてが失われた被災地で、いち早く風になびいたその光景は、絶望の状況下で希望を失いかけた人々の心を励まし、激甚被災地の気仙支部では「1社もつぶさない、つぶさせない」のスローガンに、決して諦めない、再興への覚悟を示しました。同友会運動60年の歴史から生まれたその言葉に、雇用を必死で守り、自らを鼓舞し立ち上がった経営者が数多くありました。

緊急下でこそ発揮された情報創造・発信力

「さあ涙を拭いて、灯明を掲げよう」と、一筋の光さえ見えない暗闇から声をあげる中小企業のたくましい姿。メディアでは決して放映されない映像を文字にし、ありのままに、つぶさに、発災直後からホームページやe.doyuで、全国へ発信し続けました。

まだ1カ月も経たない4月6日の陸前高田。社員全員で落ちた天井を直し迎えた当日、眼下におびただしいがれきの広がる高台のドライビングスクールで行われた合同入社式の映像は、押しかけた30社を超えるメディアで、一斉に放映されました。どの画面にも一杯に広がるグリーン。全国が悲嘆に暮れる中で「わが地域に同友会あり」と、津々浦々にその存在を示しました。

この10年で、岩手同友会の地域での立ち位置が大きく変化したのは、言うまでもありません。緊急下でこそ発揮された、同友会の情報創造・発信力。その底力を発揮した瞬間でもありました。

エネルギーシフト(ヴェンデ)の新たな展開へ

しかし必死の奮闘も遅々として復興が進まない状況に、先行きの閉塞感に苛(さいな)まれます。そんな中、2013年の中同協のドイツ・オーストリア視察が、私たちの新たな未来への道筋を示してくれました。その後開催した岩手同友会のエネルギーシフト(ヴェンデ)欧州視察は6回を数え、延べ85名の渡欧を実現。エネルギーの地域内循環により、大震災で急激に進んだ地域の人口減少、少子高齢現象を克服する、新たな仕事づくりへのヒントを提起し続けています。

描いた未来は必ず実現する

そして昨年の12月17日、陸前高田で工場も事務所もすべて失った200年続く味噌醤油醸造元、八木澤商店の跡地に、地元企業8社で発酵パークCAMOCY(カモシー)をオープンさせました。あのときの「1社もつぶさない、つぶさせない」の決意。全国の連帯の力を得て、10年の時を経て描いた夢が叶いました。

CAMOCYの社長でもある田村満氏(岩手同友会代表理事)は話します。「地域の役に立つためならどんなことでもする。だってそうでしょう。震災から10年、こうしてここまでこれたのも、地域の皆さんの支えがあってのことです。ここが希望の光となって、地域を牽引する中小企業の姿が全国に花開いていくことを願っています」。

「中小企業家しんぶん」 2021年 3月 15日号より