【強靭な組織をつくる!】第3回 コロナ禍をうけて 一般財団法人危機管理教育&演習センター 理事長 細坪 信二

 連載「強靭な組織をつくる!」。第3回目は、前回までに引き続き細坪信二氏(一般財団法人危機管理教育&演習センター理事長)より、「コロナ禍をうけて」をテーマに考えます。

自分たちの生活において何が変わったか?

 マスクをつけることが常識となり、感染防止の観点から外食や飲み会が減り、自宅で食事する機会が増え、むしろ家族団らんの時間が増えた。一方で旅行などは減り、帰省自体も自粛するようになった。このように生活レベルにおいてさまざまな変化をもたらした中、一番の影響は、働き方の変化によって残業が減りそのため収入が減少、業種によっては失業に見舞われる方々が増加傾向にあるという「経済的影響」である。

 働き方や業務環境が大きく変化し、感染症対策の視点から出勤することを避け、在宅勤務やテレワークが推奨され、従来、セキュリティー上、在宅では難しいといわれていた、システムのクラウド化が進んでいる。その一方で気になるのは、出社できないことにより「コロナうつ」という状況に見舞われている社員が少なくないという点である。従来の対面営業や接待営業ができず、足で稼ぐ「営業スタイル」をどうしたらよいかという営業マンの苦悩や、テレワークにより1日中誰とも会うことがなく会話や笑顔が減り、外出を控え運動不足になり、心身の不調につながってしまう方が多いのである。

 対面式販売や店頭販売からのネット販売へのシフトや、打ち合わせや営業、大都市圏への出張、セミナーなどもWEBを活用した形式にシフトしている。経費の面からいえば、残業は減少し、出張費や接待費などの経費も減少したことで支出は減ったが、売上も減少している企業が多く、新型コロナウイルスの影響で売上が減少した中小企業への業態転換や新分野への展開を支援する国の事業再構築補助金の申請が始まっている。その一方で、まったく影響を受けていない企業や、逆にコロナ特需のように売上を伸ばしている企業もあり、業種・業界によって格差が拡大している。

コロナ後を見据えた「ビジネス継続」

 ここでしっかり認識しておかなければならないのが、新型コロナの影響で売上が減少した企業が、コロナ以前の売上の状態に一気に戻ることは無いということである。仮に戻ったとしても7割から8割で100%元の状態に戻るには相当の時間を要する。

 そう考えると、現在の新型コロナのまん延が拡大している状況下を、既存事業を見直し新たなビジネスモデルへ転換する充電期と認識し、社員教育、特にITに関する能力向上をしておくことが必須である。ITリテラシーを高めることにより、今後のトレンドである非接触型のビジネススタイルへの変換も可能となり、積極的に業態変更していく伸びしろとなる。

 一方、飲食業界、宿泊・旅行業界は、「需要蒸発」という壊滅的な状況が続いている。既存事業を現状維持して生き残り続けるのが難しい業界だ。業界自体がこれだけの落ち込みをみせるのは、戦後初めての危機と言える。何らかの形で業態を変更するか、廃業するか、はたまた従来の事業を維持しつつ新規事業に取り組むのか、ビジネスを継続するために思い切った決断をしなければならない。

 まだまだ感染拡大が続いて長期化するのか、ワクチン接種が広まることにより徐々に終息に向かっていくのか、2つのシナリオを設定した上で既存事業をどう見極めるかの判断が必要となる。

 いずれにしろ、コロナ前の過去の視点に戻るのではなく、将来の視点で、今後の経済動向、事業環境の変化に対してどのように「ビジネス継続」していくのかが経営者に求められているのだ。

「中小企業家しんぶん」 2021年 5月 15日号より