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連載「エネルギーシフトを考える」第10回 私たちがエネルギーシフト(ヴェンデ)で実現したいことは何か

どうやって持続可能な地域を守っていくか

 エネルギーシフトをテーマにした連載は、残すところ3回となりました。今回は私たちが研究に取り組む源泉となったエネルギー研究所をご紹介します。

 エネルギーシフト(ヴェンデ)研究会の岩手同友会での学習会はこの4月で100回を超えました。欧州での6回の視察日数を加えると、7年で重ねてきた時間は数えきれません。しかしながら地球環境の危機がこれだけ迫った中でも、いまだ「エネルギーシフト」は「電気や燃料のこと、自分とは遠い話」、と捉えられがちです。それでも愚直に発信し続けることができたのは、実際に欧州の50カ所を超える山あいの小さな村々の役場や企業を訪れ五感で体感し、「岩手でのエネルギーと食料の100%域内循環をわれわれの手で実現したい」との思いが募ったからでした。

 オーストリアの、とある人口1,000人に満たない小さな山村では、人口減少、少子高齢化現象が急激に進む中で、日本と同じく次代を担う20代の若手後継者たちが、地域に残る同世代の仲間と資源とエネルギーの循環を通してどうやって新たな事業を地域に創出し暮らしを守っていくかを、夜な夜な車座で真剣に語り合う姿がありました。

掲げる目標は壮大に、住民には寄り添い続ける

 そんな私たちの取り組みの支えとなってきたのが、何度も訪れているオーストリア、フォーアールベルク州のエネルギー研究所です。設立から30年が経つこの研究所は、州内の建設資材の性能登録制度を生み、全建築関連事業所の登録の実質義務化、各自治体の環境エネルギー分野の取り組みへの評価を公表するなどシンクタンクとしての役割と、同時に住民にはエネルギー家計簿の記入の仕方や補助金申請の書き方などをアドバイスするなど、住民に寄り添い一緒に考えてくれるパートナーとしての役割も担っています。

 その根幹にあるのが、2050年までに域内で消費するエネルギーと同量の再生可能エネルギーを生産する「エネルギー自立2050」というビジョンです。フォーアールベルク州議会に議員を輩出するすべての議員が賛同。すでに20年以上も前から「持続可能な建物」をめざし、施主、設計者、施工業者、職人、役所すべてが協力と協働で取り組むことが日常になっています。こうした目標設定のなかには、地元住民参加のプロセスも組み込まれ、中小企業も研究ワーキンググループに分かれ、地域全体で包括的に取り組んでいくプログラムが作られています。

具合的な数値化で見える行動のあり方

 「孫に通じる対策(次世代への配慮)」とも呼ばれる、こうしたエネルギー自立フォーアールベルク・プログラムは、自治体の単なるエネルギーの施策ではありません。地域の日常生活のほぼすべてが、行政や企業、住民の枠を越えてつながっています。目標は2050年のエネルギー自立。そこから逆算して、2030年にはどんな具体的な目標設定をするかバックキャストでめざす数値が示され、今どんな行動が必要かを提起しています。

 「建物の省エネ改修率を○○%上げる」、「企業の生産能力の○○%の高効率化する」、「電気自動車の割合を○○パーセントにする」…など建築、空間計画・交通、産業・手工業、再生可能エネルギーと日常生活に関わるすべての目標が数値化されているのです。

 そしてその基準の背景に、4つの未来プロジェクトの考え方があります。1.エネルギー節約、2.高効率化、3.再生可能エネルギー、4.研究、開発、教育。これを岩手同友会では後に、1.省エネ、2.小エネ、3.生エネ(創エネ)、4.商エネ、そしてその根幹を支える実践の学び合い(共育)と訳し岩手に持ち帰りました。今では私たち中小企業にとって、その取り組む順番も重要であることを掲げています。まさに私たちのバイブルともなっている考え方です。

エネルギーと食料の域内循環は可能か

 2017年の第3回視察の最終日。この研究所で私たちのために時間をいただき、8時間連続でのワークショップを行いました。研究所の所長は、30年前にたった2人で立ち上げた時の話から、共鳴者がまったくいないなかで積み上げてきたその歴史を、訥々とお話いただきました。まさに日常の同友会での体験報告そのものです。岩手同友会の視察は、普段の例会とまったく変わりません。その後も観光もせず全体討論で自分たちの日常に落とし込んでいきました。

 当時、このワークショップで描いた、岩手で実現したい思いを、大きな模造紙8枚に掲げました。全員から止めどなくあふれ出てくるさまざまな意見やアイデア。訪れたその場所の空気の中でこそ描けた内容に、自分たちも驚いたほどでした。

 岩手同友会は、この研究所の歴史と同じく、今年創立30周年を迎えます。そこで8枚の模造紙に描いた未来展望が、今年度の岩手同友会のメインスローガン「岩手に人を育む大地を創造しよう」に生きています。

 7年前の2014年、エネルギーシフト(ヴェンデ)研究会の創立時に掲げた目標は、「2050年の岩手の温室効果ガスゼロとエネルギー、食料の100%域内自給」でした。声高に叫んでいた当時は誰もそんな時代が来ることを予見もしなかったでしょう。

 なぜ中小企業憲章と密接なのか。ここまで愚直にエネルギーシフト(ヴェンデ)を掲げ続ける目的は何か、続くパンデミックの中でようやく少し伝わり始めたのかもしれません。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2021年 6月 5日号より

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