2021年1月の緊急事態宣言・新型コロナウイルスの影響

【2021年1~3月期DORオプション「2021年1月の緊急事態宣言の影響」調査結果より】

広島経済大学メディアビジネス学部 教授 中同協・企業環境研究センター委員 田浦 元

44%で業務量減少 同時にこの1年で社内外の対応進む

2021年1~3月期の同友会景況調査(DOR)では、緊急事態宣言が再発令されたことによる中小企業への影響についてオプション調査を実施しました。その結果について、中同協・企業環境研究センター委員で広島経済大学メディアビジネス学部教授の田浦元氏に分析・執筆していただきました。

わが国で2回目となる緊急事態宣言が、2021年1月に11都府県を対象に発令された。中小企業家同友会全国協議会(中同協)は、この2回目の緊急事態宣言の影響についてのアンケート調査を実施した。このアンケート調査は2021年3月に実施され、910社から有効回答を得ている。なお、回答企業の45・1%が緊急事態宣言対象地域の企業、54・9%が対象地域外の企業となっている。この調査結果の概要を見てみよう。

緊急事態宣言の業務量への影響

このアンケート調査では、「緊急事態宣言は、(2021年)1~3月期の貴社の業務量にどのような影響を与えましたか」として、業務量への影響を聞いている(図1)。その結果は次のとおりである。「業務量への影響はなかった」(44・5%)が最も高く、次いで「業務量が減少した」(31・2%)、「緊急事態宣言の影響はなかったが業務量は減少した」(13・1%)となっている。「業務量は増えた」(5・4%)、「緊急事態宣言の影響はなかったが業務量は増えた」(4・5%)と、業務量が増えたという回答はいずれも低い。

再びの緊急事態宣言発令により、緊急事態宣言の対象地域にある企業はもちろん、対象地域外の企業もその影響により、業務量が大きく減少することが懸念されていた。しかし、実際には4割を超える企業が「業務量への影響はなかった」と回答していることがわかる。

なお、「業務量への影響はなかった」と回答している割合は、対象地域企業の40・0%、対象地域外企業では48・3%となっている。対象地域外企業の方が回答割合はもちろん高いが、単純に対象地域外企業が「業務量への影響はなかった」と回答している訳ではないことがわかる。紙幅の都合上、これら詳細な分析結果を示すことは別の機会に譲り、本記事では全体的な傾向のみを示すこととするが、ほかの設問についても同様の傾向が見られる。ほかの設問についても、対象地域で悪く対象地域外では悪くないと単純に論じることができないまだら模様の結果となっている。

全体的傾向に話を戻すと、「業務量が減少した」(31・2%)と「緊急事態宣言の影響はなかったが業務量は減少した」(13・1%)を足し合わせた44・3%もの企業で、業務量が減少していることになる。緊急事態宣言発令の影響や新型コロナウイルスによる企業活動への影響は、今回も大きいと言わざるを得ない。

前回と今回の緊急事態宣言の影響の比較

次に、前回(2020年4~5月)と今回の緊急事態宣言の影響の比較について見てみたい。「昨年4~5月の1回目の緊急事態宣言と比べた今年1月以降の2回目の緊急事態宣言時の貴社の状況はいかがでしたか」として、影響の前回との比較について聞いている(図2)。

その結果を見ると、上位3項目までが、およそ同程度の割合で並んでいることがわかる。「1回目も2回目も大きな影響はなかった」(25・9%)、「1回目の影響は大きかったが、2回目は大きな影響はなかった」(25・1%)、「緊急事態宣言の影響は大きくないが、新型コロナウイルスによる景気の影響が大きい」(24・3%)の3つである。

このうち「1回目も2回目も大きな影響はなかった」と「緊急事態宣言の影響は大きくないが、新型コロナウイルスによる景気の影響が大きい」が高かったことからは、緊急事態宣言が発令されていなくとも経済活動の「自粛」等の対応を十分に行っているので、緊急事態宣言が発令されても大きな影響はなかったという企業の実態が見えてくる。また、このことと表裏一体であるが、緊急事態宣言が発令されていなくとも、新型コロナウイルスによる影響が深刻であるということがいえる。

しかし一方で、「1回目も2回目も大きな影響だった」も18・0%とこれらに次いで高い。このことから緊急事態宣言の発令が、企業経営に深刻な影響を及ぼしていることは紛れもない事実である。

なお、「1回目の影響は大きかったが、2回目は大きな影響はなかった」は25・1%であるのに対して、「1回目よりも2回目の方が影響は深刻」は5・4%にとどまっている。このことから、今回の2回目の緊急事態宣言よりも、1回目の緊急事態宣言の方が多くの企業に大きな影響を及ぼしていたことがわかる。

1年前と比べて変化したこと

また、同調査では1年前と比べて変化したことについても聞いている。この結果についても見ておきたい(図3)。

1年前と比べて変化したことは、「社内の仕事の一部がリモートになった」(35・7%)が最も高い。次いで、「顧客が変化した」(33・1%)、「営業の仕事の一部がリモートになった」(31・6%)となっている。この1年の間に、社内の業務にとどまらず、顧客や社外との取引などについても大きく変化をし、ポストコロナ、ウィズコロナ社会への対応を進めていることがわかる。

いつ戻るのか

同調査では、「貴社の経営が新型コロナウイルス前に戻る時期についてどのようにお考えですか」ということも聞いている。この結果は次のとおりである(図4)。

回答割合が最も高いのは「2022年中」(22・9%)である。これに次いで回答割合が高いのは「わからない」(20・5%)であり、第3位は「戻ることはない」(12・0%)である。

「すでに戻っている」も10・8%あるが、多くの企業はもとに戻るまでにまだ1年程度の時間がかかるのではないかと予測している。

また、「わからない」が2割を超える回答となっており、「戻ることはない」も1割を超えている。新型コロナウイルスに翻弄されたこの1年で、良くも悪くも社会は大きく変化した。ポストコロナの社会や経済は、これまでとはさまざまな点が大きく異なってくるだろう。コロナ前の社会に完全に戻ることは、おそらくはもう無いだろう。社会も企業もポストコロナ社会に向けての変化や取り組みをさらに進める必要がある。

「中小企業家しんぶん」 2021年 6月 15日号より