「日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざす」同友会運動 その理念形成の歴史的経緯をたどる 中小企業家同友会全国協議会 顧問 国吉 昌晴

 中小企業家同友会は「3つの目的」を掲げ運動を進めています。簡略化した表現としては、第1に「よい会社をめざす」、第2に「よい経営者をめざす」、第3が「よい経営環境をめざす」です。第1と第2の目的は、主として会員経営者の自主的、主体的努力が求められますが、第3は会員個人はもちろん会組織をあげての科学的、計画的努力を求めています。

 第3の目的の全文は、「同友会は、他の中小企業団体とも提携して、中小企業をとりまく社会・経済・政治的な環境を改善し、中小企業の経営を守り安定させ、日本経済の自主的・平和的な繁栄をめざします」と謳(うた)っています。第3の目的は、個々の経営努力だけでは解決できない、時代の流れ、産業構造の変化、政治経済のしくみから生じる困難な課題に対して、私たちは、日本経済の真の担い手としての誇りと自覚を持って、経営努力が公正に報われる経営環境を実現するために、会員が結束し、他の中小企業団体とも提携し、努力していくとしたものです。

同友会の前身、全中協に見る理念の萌芽

 同友会「3つの目的」は、1973年中同協第5回総会で採択されますが、そこに至る歴史を見ておく必要があります。まず同友会の前身といわれる「全中協」の運動です。第2次世界大戦で廃墟となった日本列島。そこからたくましく立ち上がり、戦後復興の担い手となったのは中小企業でした。占領軍による民主化政策、日本国憲法に基づく新しい国づくりが進められますが、中小企業は、インフレの進行、大企業に偏重した「傾斜生産方式」による資材・資金の不足、さらには重税に苦しめられます。1947年に結成された同友会の前身となる全日本中小工業協議会(略称=全中協、1954年全日本中小企業協議会と改称)は、「中小企業こそ日本経済の主人公」との自覚と使命感を持ち、かつての戦時統制下における苦難の体験から、「中小企業は平和な社会でこそ繁栄できる」との確信のもと「自主的な中小企業運動」を提起しました。ここに、国の官僚統制によらない自らの自主的努力を主体とした日本経済の自主的・平和的発展をめざす理念の萌芽を見ることができます。

同友会運動の到達点

 全中協はその後、日本中小企業政治連盟(中政連)が提唱する「中小企業団体法」制定運動をめぐり意見が対立、「中小企業の過当競争は一片の法律で解消するものではない」「戦前の官僚統制へ道を開く危険性がある」と自主性の堅持を主張する人たちが、日本中小企業家同友会(現・東京同友会)を創立(1957年)しました。この間の経緯について、中同協顧問の田山謙堂氏は、日本中小企業家同友会創立の先輩たちは「団体法の道でなく、中小企業家の自主的な努力と団結の力で中小企業の自覚を高め、中小企業を守り、日本経済の自主的で平和的な発展をめざす」ことこそが中小企業運動の本命と考え、新しい組織・中小企業家同友会の創立に踏み切った、と述べています。(『同友会運動の歴史と理念』田山謙堂著)

 「全中協」および「日本中小企業家同友会」の創立に関わった先人たちの多くが戦時下における統制経済の下で経営の自由を奪われ、軍国主義体制への奉仕を余儀なくされました。「経済」のもつ本来の理念「経世済民」とは真逆の経営を強いられた経営者も少なくなかったでしょう。それだけに戦後の民主主義体制の下で、自らの意志と発想で自主的な企業活動のできること、そのベースには平和社会があることの大切さを心底感じとっていたと言えるでしょう。

 第3の目的の最後を「日本経済の自主的・平和的繁栄をめざします」とまとめていることは、戦後の混乱期を乗り越え、企業経営と同友会運動の両面で確信を得た先人たちの到達点と言えるのではないでしょうか。

学びあい、議論することの大切さ

 「企業経営と平和」については、同友会運動の中で戦争体験者から語り継がれてきました。1971~81年まで中同協議長(現会長)を務めた庄野慎一郎氏は機会があるたびに自身の軍隊体験を語り、「戦争を再び起こさないことが戦場で多くの戦友を失った私の使命」であると表明しています。(『中同協50年史』95頁)「中小企業家しんぶん」では毎年8月5日、15日号において「平和特集」を組み、戦争体験者の体験等を掲載、企業経営と平和の課題を考える問題提起をしてきました。

 21世紀に入ってからも、2003年イラク戦争の勃発における「イラク戦争の早期終結を願う」中同協赤石義博会長談話の発表、戦後60年となる2005年には「中小企業家しんぶん」紙上に平和への思いを伝える7名の会員の連載を企画。戦後70年(2015年)に開催された第45回全研では、平和をテーマとする分科会を設営しました。(詳細は『中同協50年史』154~6頁参照)その後も、全国総会、全研では平和を考える分科会が企画されています。時の経過とともに、戦争体験者が少なくなってきており、歴史を掘り起こし、現在と未来をしっかりと見つめながら学び、議論し合うことが大切です。2030年達成をめざす「持続可能な開発目標(SDGs)」の中にも、「16、平和と公正をすべての人に」が目標として掲げられています。私たちのめざす方向と一致します。

 各同友会におかれましても、機関紙・誌で平和を考える企画が大いに充実されますことを期待いたします。

「中小企業家しんぶん」 2021年 8月 5日号より