【黒瀬直宏が迫る 中小企業を考える】第13回 半企業家的中小企業 NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

 「中小企業を考える」をテーマにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)の連載。第13回目は「半企業家的中小企業」についてのレポートです。

一部にとどまる企業家活動

 本連載第11、12回では「企業家的中小企業」に必要な条件を述べました。今回は「半企業家的中小企業」についてです。このタイプは、企業家活動の成果が一部にとどまっているため、発展性も問題性も抱えている中小企業で最も多いタイプです。

 企業家活動の成果が一部にとどまるとは、第1に、企業家活動の成果が技術情報発見活動に偏る場合、第2に、需要情報発見活動も技術情報発見活動もほどほどの成果しかあげていない場合、第3に、企業家活動の成果が需要情報発見活動に偏る場合です。

下請型の「半起業家型中小企業」

 日本で最も多いのが第1です。これは下請中小企業によく見られます。需要情報発見活動には困難があるため、一般市場における需要情報発見活動を諦め、特定大企業の外注に依存する中小企業が現れます。発注者に対し受注中小企業は多数ですから中小企業間の競争は激しく、大企業が優越的な地位に立つ「対等ならざる外注関係」が形成されます。これが下請関係と呼ばれるものです。下請中小企業は親企業から価格引き下げを強いられ、景気のバッファーとしても利用されるなど「販売の不確実性」は高いですが、販路がまったく閉ざされるよりはましなため、親企業への従属と引き換えに、販売市場を一定程度確保する道を選択します。

 このような下請企業でも、生産技術面では企業家活動を活発に展開し、専有度の高い技術を蓄積している企業があります。その技術は親企業の内製部門より高度で、親企業が解決できない課題を解決できる技術力を持っているため、親企業にとって重要な下請企業となり、ほかの下請企業より「販売の不確実性」を低めています。1970年代半ば以降、このような下請企業が増えてきました。ただ、優れた技術力を持っていても、特定企業に販売の多くを依存しているため、対等な取引関係を構築できず、価格形成力を持つには至っていません。このような企業が下請型の「半企業家的中小企業」です。

「企業家的中小企業」への成長

 この「半企業家的中小企業」が「企業家的中小企業」へ成長するには、次のように、経営者の戦略構築能力が重要です。

 この企業は複数の大手エレクトロニクス・メーカーを顧客とする下請企業でした。精密加工技術を武器に売上は伸ばしていましたが、「独自市場」の形成には至らない「半企業家的中小企業」で、1990年代に経済が長期停滞に陥るとともに一時的に売上は急減しました。

 売上が一時的にとどまったのは、同社再発展の種がまかれていたからです。すでに70年代後半から特殊金型を開発するなど開発活動を活発化、80年代初めには社長が「独立企業体質の確立(自立型企業)」という戦略を掲げ、経営計画として具体化、計画策定に参加した全社員がそれを共有化しました。この計画にしたがってME技術の専門家を獲得、顧客の要請をもとに、カメラ電子シャッター関連のプリント基板相互をハンダでつなぐ熱圧着装置を開発しました。90年代に入り、不況を突破するため製品開発を模索する中、展示会での来場者との会話から、ニーズはデバイス間でより多量の情報を伝える方向に向かっていることを察知、熱圧着の原理を使ってフィルム素材で液晶ディスプレイとプリント基板をつなぐ新製品を開発しました。これが日経優秀製品・サービス賞の優秀賞を獲得するヒット製品となり、同社は世界市場を相手に活躍する「企業家的中小企業」に発展しました。

 開発のきっかけになった需要情報を得るまで熱圧着装置の開発から7年間かかったとのことで、的確な需要情報は簡単には入手できないことがわかります。しかし、それは単なる幸運ではなく、社長が掲げた「独立企業体質の確立(自立型企業)」という戦略を全従業員が共有化していたことが、この需要情報の発見につながりました。

 企業は「半企業家的中小企業」でも、経営者自身は一段上の「企業家的中小企業」の経営者と同等の能力を持つことが、「半企業家的中小企業」を「企業家的中小企業」に引き上げるのです。

「中小企業家しんぶん」 2021年 8月 15日号より