【報告要旨】中小企業に大打撃(1) インボイス制度とは 報告者 沼田 道孝氏(中同協税制プロジェクト長)

8月18日の2021年度中同協第1回政策委員会は、拡大委員会として前半をインボイス問題にかかわる学習会と「導入撤回」に向けた国への緊急要望・提言をテーマに実施しました。10月1日から登録申請が始まる適格請求書等保存方式(インボイス方式)について、沼田道孝・中同協税制プロジェクト長の報告を2回にわたり紹介します。

インボイスとは

 インボイス制度の正式名称は、適格請求書等保存方式と言います。インボイスがないと仕入税額控除ができない制度です。2023年10月1日に開始の予定です。消費税の税額は、課税売上から課税仕入を引いて算出されますが、インボイス制度が実施されますと、インボイスのある取引のみが課税仕入にできます。私たちは、売上からさまざまな経費を引いた所得に対して課税するというイメージが強いですが、インボイスは、消費税の仕組みそのもの、仕入から売上という流れの中に入っている制度と理解してください。

 課税に該当しない不課税になるものとして、国外取引、輸出している企業のいわゆる「輸出戻し税」があります。事業に対しての課税ですので、個人は対象になりません。対価性がない場合も不課税となります。法律上非課税とされているものが13あります。たとえば土地の取引とか居住用の不動産賃貸、利子や保険、郵便切手、医療・介護などは政策的に非課税とされています。

 適格請求書は登録を受けた事業者のみが交付でき、一定の事項を記載し、適格請求書を交付する義務が生じます。不適格インボイス(要件を満たさないまたは偽の登録番号等)の交付は罰則がついてきます。そして仕入税額控除の適用を受けるためには適格請求書等の保存が必要になります。

 登録を受けるためには登録申請手続きが必要になります。また、公表サイトで適格請求書発行事業者の公表事項を確認できるようになります。これらが政府の考えているインボイス制度の形です。

日本は帳簿方式で計算可能

 現在、日本は帳簿方式をとっています。1989年の消費税導入時、インボイス方式では少額事業者が排除されてしまうことになり、帳簿に消費税が書かれていれば課税仕入の計算ができるという帳簿方式で30年やってきて、それなりに定着をしているという事実があります。それでもインボイス制度を導入するのは複数税率が理由とのことですが、2段階程度の複数税率であれば帳簿方式で十分カバーできると思います。

免税事業者はインボイスの発行ができない

 実際に仕入税額控除の適用を受けるには、インボイスの保存が必要であり、なおかつ登録した事業者のみがそれを交付できます。しかし課税事業者しかインボイスの登録はできません。免税事業者、つまり売上が1000万円以下の事業者は登録できません。免税事業者がインボイスを発行したければ必ず課税事業者にならなければなりません。ここが非常に大きな問題です。

企業を訪問して、インボイスについて最も理解が進んでいないと思うのは、すべての課税業者が登録を行なわなければならないという点についてです。税務署が自動的にやってくれるわけではありません。課税事業者すべてが自ら申請して登録することが求められています。登録期間は今年の2021年10月から2023年3月31日までです。これが済むと、2023年10月1日以降の取引に基づいたインボイスの発行とそれに伴う計算が可能になります。2023年10月1日以降インボイスの領収書等がないと課税仕入の計算ができなくなります。

 免税事業者はインボイスを発行できませんので、まず課税事業者になることが必要ですが、2023年10月を含む事業年度であれば、3月31日までに登録すれば、課税事業者選択届はいりません。たとえば個人で事業を営んでいる免税事業者であっても、その期間に届け出をすればインボイスを得られるようになります。

 不適格インボイスに対しては、1年以下の懲役または50万円以下の罰金という、税務調査を拒否したときと同様の重い罰則が課せられることになっています。消費税は非常に罰則が重いですが、不適格インボイスについても同様に重くなっています。

 免税事業者からの課税仕入については、経過措置があります。2023年10月1日から2026年9月30日の間は、80%の控除が可能になります。さらに2026年10月1日から2029年9月30日の間は、50%の控除が可能です。

 また、インボイスの交付が免除されるものもあります。3万円未満の公共交通機関の利用、卸売市場の生鮮食料品等の譲渡、生産者の農協などへの農林水産物の譲渡、3万円未満の自動販売機・自動サービス機の販売、郵便による郵便切手を対価とするサービスです。詳細は確認ください。

帳簿での課税仕入が認められるもの

 インボイスがなくても認められる課税仕入れがあります。

(1)適格請求書の交付義務が免除される取引。
(2)適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)を満たす入場券等が、使用の際に回収される取引。
(3)古物営業、質屋または宅地建物取引業を営む事業者が適格請求書発行事業者でない者から、古物、質物または建物を当該事業者の棚卸資産として取得する取引。
中古自動車販売で個人から仕入れた場合の消費税はどうなりますかという質問が以前ありました。帳簿方式で構わないということを確認しました。宅建業も同様です。個人の方から中古の物件を買って転売をする場合もインボイスがなくても帳簿だけで認められます。当初インボイス以外認めないと思っていましたが、実は帳簿方式も併用されるようです。
(4)適格請求書発行事業者でない者から再生資源または再生部品を棚卸資産として購入する取引。産廃業者などが個人から再生資源などを買ったとしても、相手との取引条件などが明確になっていれば、帳簿だけで認められます。
(5)従業員に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当等に係る課税仕入れ。これらは就業規則等で定められていることであり、相手は従業員ですからインボイスは必要とはされません。

(次回は10月5日号)

報告は中同協公式YouTubeで公開しています。

https://youtu.be/YQQ6iIFZ4k0

「中小企業家しんぶん」 2021年 9月 25日号より