【報告要旨】中小企業に大打撃(2) インボイスで中小企業の負担は増加 報告者 沼田 道孝氏(中同協税制プロジェクト長)

8月18日の2021年度中同協第1回政策委員会は、拡大委員会として前半をインボイス問題にかかわる学習会と「導入撤回」に向けた国への緊急要望・提言をテーマに実施しました。10月1日から登録申請が始まる適格請求書等保存方式(インボイス方式)について、沼田道孝・中同協税制プロジェクト長の報告の2回目を紹介します。

免税事業者の割合

 当社の関与先に免税事業者はどのくらいあるか確認してみました。当社は1000社を超える法人の申告業務を行っていますが、昨年は18%が免税業者でした。さらに今年の個人の申告で事業、不動産所得がある中の70%が免税業者でした。これを国税庁の2018年の法人企業統計に当てはめて計算しても同様の傾向です。全体でも免税事業者の割合は法人の18%、個人事業者の70%という数字はおおむね正しいと考えられます。

 ただし個人事業者を事業と不動産に絞りましたが、実態では免税事業はもっと多いと考えられ、法人と個人事業を合わせて全体の43%以上が免税事業者と推測できます。

インボイスで中小企業者の負担は増加する

 中小企業は、インボイスを発行できない少額取引の分について税額の増加が考えられます。たとえば、同族家賃です。個人の家を本社にしている場合、自宅のある部分を会社に貸しているということになりますが、そこで課税業者の登録をすることはあまり考えられませんから、税額は増えます。免税事業者との取引がいろいろある中小企業は必ずと言っていいほど増額になります。

 また、取引する際に、インボイスが発行されているのか、また偽の番号でないのかなどを確認しながら業務を進めなければならないので事務負担が増えます。とりわけ経過措置の間がわずらわしいです。税務署の要望はそれぞれの帳簿の中に、80%該当なのか50%該当なのかを明らかにしなさいということです。それに基づいた会計処理をして、申告の時にはそれを明記して計算しなければなりません。

 スポット的に入る新しい取引の場合、インボイスの情報はインターネット上に公開されていますので、そこで確認しなければならなくなります。そのための新たなソフトの購入の必要性も出てくるかもしれません。

廃業増加の危険性

 インボイス導入での廃業の増加が懸念されます。実際、免税制度は有名無実になると考えています。働き方改革ということで、副業の勧め、フリーランスの働き方、ギグワーカーの存在などが注目されていますが、消費税の負担の増加で存在基盤そのものが危うくなる危険性があります。

 私たちは地域の活性化をめざしていろいろな活動をしていますが、企業・事業の多様性や新たな市場の創造など、地域にとっての「夢」の実現にとって、その入口の所で消費税という大きな障害が立ちはだかることになります。そういう点でも今回のインボイスが経済に与えるマイナスの影響は無視できません。

免税事業者との丁寧な交渉

 具体的な対策として免税事業者との丁寧な交渉が必要です。免税事業者のすべてを課税事業者にすることは難しいです。事業者の43%が免税事業者ですから、取引優位で免税事業者に無理強いすれば、混乱や社会的関係の悪化が考えられます。

 課税事業者の選択ということも免税事業者に対して提案しなければならなくなります。消費税の増加分を容認してその分は自分が払う、または増加税額の負担分を折半する、最後の選択肢として事業者の変更も考えざるを得なくなります。このように、さまざまな意味での交渉を免税事業との間でする必要が出てくるであろうと思われます。

インボイス方式撤回の要望を

 1つはインボイスの撤回を求めていくことです。現在の帳簿方式でも、複数税率といっても2つですから混乱が生まれてどうにもならないというレベルではありません。私たちも会計事務所としてそれに対応して計算も申告もしていますが、帳簿方式でできないということはまったくありません。

 インボイスは、消費税の負担の増大、免税事業者の経済の流れからの排除による混乱、廃業増加による経済全体への大きなマイナスの影響などが懸念されます。ですからインボイスは導入しないということを求めていくべきです。

免税事業者からの仕入は帳簿方式の採用を

 一方、インボイス制度そのものの存廃について問題にするのではなく、個人も含めての免税事業者からの仕入について、帳簿方式で計算して課税仕入を認めるよう求めていくことも大切です。

 複数税率制度の中でしっかり計算をしたいという国税庁の要望はあるわけですが、課税事業者を増やすという方向をかなり無理強いして、課税の範囲を大幅に広げるという考えではなく、現在の帳簿方式を免税事業者にも適用する、そういうジャンルの業種業態があるのですから、課税仕入を認めるべきであると求めていくという方向性もあるのではないかと思います。

 この報告は中同協公式YouTubeで公開しています。

https://youtu.be/YQQ6iIFZ4k0

「中小企業家しんぶん」 2021年 10月 5日号より