価格交渉できる環境を

 「私が入社してすぐのころに加工賃単価を大幅に引き下げられ、もう20年近く据え置きのままで、その間何度か働きかけもしてきたのですがまったく話になっていません。下請価格の問題は、『さっさと下請け脱却してこなかった』ことを責められるような風潮もあり、その部分は自分でも引け目を感じるようなところもあります。しかし下請け問題は、下請けに甘んじている中小企業の自己責任ということだけで終わらせていいものだとは思っていません。本来、公平・公正であるべき商取引の慣習において、圧倒的な力関係の格差によって引き起こされる不公正取引の温床になっています。すべてを失う覚悟が無ければモノも言えないような世界がいまだに存在します。今回の価格交渉促進月間が、少しでもその世界を変えていく力になれば。私も無力感に苛(さいな)まれる毎日ですが、頑張っていこうと思います」

 これは、今年9月に初めて設定された「価格交渉促進月間」(中小企業庁、以下「月間」)を筆者のSNSで紹介したところ、小規模の部品メーカーの社長(同友会会員)から届いたコメントです。

 昨年度は、コロナ禍で手形サイトの長期化や原材料費の値上げ分の転嫁拒否など、下請けや価格交渉力の弱い企業に矛盾がしわ寄せされており、下請法や公正取引での政府の指導件数が過去最多の8,107件に上りました。

 これらの調査結果をもとに最低賃金の引き上げのスムーズな価格転嫁もにらみ、8月25日に首相官邸で開催された「中小企業等の活力向上に関するワーキンググループ」で、9月を「月間」とすることが関係省庁間で合意され、中同協にも現状報告と告知依頼がありました。

 同庁の資料によれば、実質労働生産性は中小企業が大企業より高くなっているにも関わらず、価格転嫁力が弱いため、1人当たりの名目付加価値額が伸び悩んでいること、価格が転嫁できない事業者の5割が価格転嫁の協議すらできていないということも明らかになっています。

 10月には中小企業庁下請けGメンによる実態のヒアリング(2,000社)やアンケート調査(数万件)を実施予定で、来年2月まで、価格交渉講習セミナーも予定されています。

 また、政府は2026年に約束手形の利用を廃止する方向で、各業界団体に5年間の行動計画の自主的策定を促しています。3月に改正された手形通達では、(1)支払の現金化、(2)手形現金化のコストを下請事業者の負担としないこと、(3)下請代金の支払いに係る手形等のサイトは60日以内などを求めていますが、強制力はありません。

 中同協では新型コロナに関する国への第8次緊急要望提言で、「最低賃金の引き上げにあたっては、取引関係の適正化を進め、下請事業者等の中小企業が労務費上昇分を取引価格に円滑に転嫁できるようにすること」など求めています。

 下請け構造はサプライチェーンとして日本の製造業の動脈を担っていますが、調達構造が下請けから利益を吸い上げる仕組みになっており、「価値共創」どころか、トリクルダウンなども見込めない状況です。強制力のある政策的な取り組みが求められます。

(穂)

「中小企業家しんぶん」 2021年 10月 15日号より