無利子・無担保融資(ゼロ・ゼロ融資)利用企業は6割強~半数は4000万円以上、建設業・製造業で利用率高い 立教大学経済学部准教授 飯島 寛之氏

【2021年7~9月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査より】無利子・無担保融資の利用状況

 2021年7~9月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査では「無利子・無担保融資の利用状況」に関する調査を行いました(回答数962件)。その結果について、中同協・企業環境研究センター委員で立教大学経済学部准教授の飯島寛之氏に分析・執筆していただきました。

 コロナ禍の急拡大がみられた昨春以降、多くの中小企業が金融機関からの借入を増やしました。2020年7~9月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査でも「緊急事態宣言前後に行った資金対策」を尋ね、回答企業の6割が手元資金の充実を図り、そのほとんどが1年以内を期限とする資金積み増しであったことが明らかになっています。それから1年が経った現在、会員企業の一部からは「返済が始まった」、「借換えが難しい」といった声も聞こえてきますが、金融環境に深刻な影響がみられないのは、無利子・無担保融資を利用した企業も多かったことが1つの理由として考えられます。

 では、無利子・無担保融資を利用した企業はどれくらいで、どれほどの金額・期間で借入したのでしょうか。2021年7~9月期のオプション調査では、「無利子・無担保融資の利用状況」について聞きました。

制度を利用した企業は6割強

 図1は、「無利子・無担保融資の利用状況」を示しています。ここからは、6割強の企業がこの制度を利用したこと、それら企業の半数以上(回答全体の36%)が4,000万円以上の借入を行ったことが確認できます。民間金融機関での実質無利子・無担保の融資上限額が6,000万円ですから、借入を実施した企業の多くが上限に近い借入を行ったことが推測されます。

 その一方で、無利子・無担保融資を利用しなかった企業も4割弱あります。20年7~9月期のオプション調査でも、資金積み増しをしなかった企業の割合が同程度でしたから、無利子・無担保融資を利用しなかったとする企業は、その他の借入も含めて資金の積み増しをしなかったものと考えられます。

制度の利用は建設業・製造業で多い

 図2で業種別の状況をみてみましょう。建設業と製造業では3,000万円以上の借入を行った企業が半数を超える一方、利用しなかった企業が3割でした。他方で、流通・商業とサービス業は、3,000万円以上の借入を行った企業が約4割、利用しなかった企業が4割強となっており、この2業種の「利用しなかった」割合が高くなっています。この結果もまた、昨年の調査結果と同様です。

 ただし、政府系金融機関・信用保証協会による融資・保証実績をみると、飲食・宿泊業やサービス業等コロナ禍で大きな打撃を受けた業種の割合が増加しています。よって、今回の結果は、当該2業種全体で資金が不要だったことを意味するのではなく、DORの調査対象企業の構成を反映したものであることを考慮に入れる必要があると思われます。

 次に企業規模別では2つの特徴をみることができます(図3)。ひとつは、5人以上の規模においては、規模が大きくなるにつれて今回の制度を利用しなかったとする回答が増え、100人以上では半数以上の企業が利用していないという点です。これとは対照的に、いまひとつは、5人未満の企業では利用しなかったとする回答が過半数を超えている点が特徴的です。

短期の借入は「減らしていく」が4割、「未定」も2割

 では、このような借入残高の管理を会員企業はどのように考えているのでしょうか。今後1年間の方針を尋ねたところ、短期資金(運転資金)も長期資金(設備資金)も「減らしていく」という回答がもっとも多くなりました。このことは、今回のDOR(2021年7~9月期)で、「借入あり」企業の借入金が長・短資金とも減少に転じるという変化があったこととも整合的です。

 短期資金の場合、「減らしていく」(45%)がもっとも多くなりましたが、その割合も後述の長期資金ほど圧倒的なものではなく、「現在の残高を維持する」、「未定」も各3割、2割を占めています。これらの回答が合計して半数を占めたということは、先行きの不透明さが残る中で、急な資金繰り悪化に対する懸念が払しょくされていないことの表れとみることができるでしょう。特に、企業規模が小さな企業ほど「未定」の回答割合が高い点、また5人未満の企業は「(短期資金を)増やしていく」(9%)という回答が突出して高いことから、その懸念が強いと考えられます。

長期の借入は今後1年で「減らしていく」が6割

 対照的に、長期資金については「減らしていく」が約6割となり、次いで多い「現在の残高程度を維持する」(23%)をかなり上回っています。

 しかし、わずか6%ですが、増やしていくという回答があったことも見逃せません。この回答は企業規模が大きいほど増えており、50人以上の企業で8%になっています。その理由をみると、20人規模の企業で「設備投資を行うため」という回答が多くなっており、ポスト・コロナへの新しい取り組みの芽が出ていることがうかがわれます。

返済時期のピークは2~3年後に

 さて、今回の無利子・無担保融資は、当初3年間無利子で、据置期間が5年以内という要件でした。ここまでの結果から、すでに返済局面に入っていることはわかりましたが、返済が本格化する時期はいつごろなのでしょうか。

 図4をみると、返済時期として想定されているのは、2~3年以内(借入を行った企業の28%)がもっとも多いことがわかります。このことは実質無利子期間と関係しているものと考えられます。他方で、すでにみたように今後1年で返済を進めていくことを織り込んでか、据置期間の最長である5年近くに返済を想定している企業は少なく、借入を実施した企業の1割ほどでした。これらを合わせると、借入を実施した企業の半数は、返済が本格化するまでに今しばらく余裕があるようです。

 とはいえ、猶予期間や返済時期が半年以内あるいは1年以内であるとの回答を合計すると、借入を実施した企業の2割になります。すなわち、5社に1社は、本年末から来夏に返済の本格化を迎えるわけです。緊急事態宣言が解除されて経済活動が再起動するという好材料がある一方で、金融機関の貸出態度がこれまでよりは厳しく、安易な借換えができなくなりつつありますので、これらの企業は金融環境と自社の資金管理にいっそうの注意を払う必要があります。

「中小企業家しんぶん」 2021年 11月 15日号より