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連載「エネルギーシフトを考える」最終回 欧州から岩手へ。岩手から地球環境へ(2) 中小企業のエネルギーヴェンデと農業・食の大転換、そして持続可能な社会づくりへ

 岩手同友会のエネルギーシフト(ヴェンデ)研究会では、この8年間に6回の欧州視察を行ってきましたが、私たちが訪問した山あいの小さな人口数千人のエネルギー自立村の多くが、同時に持続可能な地域づくりの実現へ向けて食と農の大転換(ヴェンデ)に取り組んでいました。連載最終回を迎える今回はエネルギーヴェンデとともに、欧州で展開されるアグラヴェンデ(食と農の大転換)についてご紹介します。

 欧州のアグラヴェンデは、これまでの慣行農業や食のシステムによって生じる環境負荷を解決したいという思いで生まれたものです。従来の生産方法による農業の環境負荷は、農薬による地下水の汚染や生物多様性の激減、先進国の産業的な畜産のための飼料栽培を行うための熱帯雨林伐採などがあります。実はこうした問題は気候変動とも直結しています。

 2019年8月に発表された、IPCC特別報告書「気候変動と土地(Climate Change and Land)」では、農業生産やその加工・配送を含む食料システムとしての排出量についても言及しており、その量は世界の温室効果ガス排出量の21~37%を占めると言われています。つまり農業と食の分野を抜いて気候変動や持続可能な地域づくりについて語ることはできません。

 そして持続可能な地域づくりの側面では、付加価値を高めることでの農業生産者の経済の安定を支えることも課題となっています。

地域に付加価値を残すエネルギーと食の地域循環

 この2年、毎年続けてきた欧州視察はお休みしていますが、そのぶん新たに海外とのオンラインでの学び合いが日常になりました。先日行ったスイス在住のジャーナリスト、滝川薫氏をお招きしての学習会では、欧州のビオホテルの革新的な取り組みについて、詳しく教えていただきました。

 ビオ(Bio)とはドイツ語ではオーガニック・有機認証を受けた農家、加工業者、生産品のことを言います。日本ではまだ0.2%といわれる農業分野における有機認証ですが、欧州ではすでに大きなうねりが起きています。

 有機農業は、土壌を豊かにすることによってCO2を土壌に蓄積することも可能です。また動植物にも優しく生物多様性を向上させ、気候の保全にも寄与し、省エネルギー型・省資源型の農業とも言われています。農家にもその労力に対し適正な対価が支払われているので、資源と人、そして経済的にも地域循環の大きな役割があります。

 私たちが4年前に訪れたドイツ・アイヒシュテッテン村のオーガニック食材の地域流通会社リーグリン社では、すでに巨大な倉庫のすべてが自動化され、バーコードのついたウエアラブル端末で管理されていました。倉庫のすべての屋根に太陽光パネルが設置され電力を自家消費、そして50~60km圏内のスーパーや飲食業に配送先を絞り、付加価値の高い経営に取り組んでいました。ビオを原点に据えた1つの食料文化圏が実現していました。

 振り返るとエネルギーと食の地域循環を目的とした壮大な取り組みがすでに始まっていたことに今、気づかされます。当時は中間のコストや輸送費用など限界費用がほぼゼロになる社会が、こんなにも早く到来するとは、考えもつきませんでした。その先見性に驚かされます。

厳しい資源マネジメントにより生まれる高い信頼

 1999年にオーストリア、チロル州のホテルが100%ビオの食、飲み物を実現したことからスタートした「ビオホテル」への取り組みは、すでに20年を超えました。NPO法人ビオホテル協会の認証を受けた欧州のビオホテルは、ドイツ語圏を中心に欧州6カ国に85のメンバーホテル、ベッド数が約4200あります。家族経営が中心の個性ある中小企業経営者の共同体です。

 このビオホテル協会では、持続可能な食・農・観光の推進で競争力を強化していきたいとの思いで厳しい基準を設け、取り組んできました。

 フード基準としては、ビオ食材を利用はもちろん、ジビエは地元猟師から購入、天然魚は持続可能な漁業の認証を受けているものを購入などの基準があります。またノンフード基準は、企業をエコロジカルに持続可能に発展させるという原則の基準を掲げ、1泊1人あたりのCO2排出量を明確に数値化するなどさまざまな厳しい基準があります。

 ドイツの一般的なホテルではCO2の排出量は、20~50kg(熱電気のみ)ですが、ビオホテルでは1人1泊朝食付きで9.64kgが平均です。業務全般のバリューチェーンを対象としたCO2を尺度とした資源マネジメントに特化し、非常に高い信頼を確立し、ビオホテルのブランド化を実現しています。まさに付加価値としての域内循環が具現化されています。(滝川薫著「欧州のビオホテル」ブックエンド)

中小企業の経営理念が地域循環の発信源に

 私たちが8年間で訪れた地域、企業は80カ所を超えます。そのほとんどにこうした独自の確立された理念がありました。そしてエネルギーも食材も、地域で生まれた資源を決してそのまま地域外に出さないという覚悟がどの地域にも企業にもありました。

ドイツ・ランデック村にある100%再生エネルギーで生産する中小企業オッティリエンクウェッレ社(Randegger Ottilien-Quelle GmbH)は、地元の水資源を使い、味付けや色合いまで自然資材のみを使用した環境系清涼飲料メーカーです。ペットボトル全盛の中、再利用可能な瓶だけで商品を提供してきました。途中大きく落ち込んだ売上でしたが、現在は過去最高の販売量です。工場と社屋は太陽光で自家消費、敷地内にある大型チップボイラーからは工場と周辺地域の住宅への熱供給が行われています。そして物流を担うトラックも自社で手がけ、その販売範囲は会社の半径50km以内と決めています。これは瓶の回収が可能な距離から決めているものです。「どんなに苦しい時期もこれで越えてきた」と自慢げに話すフライシュマン社長の手には瓶のラベルにも印刷されている経営理念がありました。

 スイス・エメンタール地方の山あいのメルヒナウ村では、たった1人の老練な農業経営者ドゥッペンターラー氏が、地域のために莫大(ばくだい)な借金をして地域の間伐材チップのボイラーと太陽光を使った地域熱供給網を村中に張り巡らし、隣接したチーズ工場もその熱と電気を利用して経営していました。

 この村では1人暮らしのお年寄りも増えていますが、それぞれの戸建ての住宅に供給される熱供給網はIoTで管理されており、朝水道の蛇口をひねると、一元化された画面に示される仕組みになっていました。もちろん個人情報の利用を限定した上で、命を見守る大動脈ともなっています。

 「決して大切に育てた牛乳を生乳のまま外に出さない」。付加価値を付けて食料を域外に販売し、その利益を地域のエネルギー自立に生かす。その意思を貫く言葉が、今でも耳に残っています。

持続可能な未来づくりを自分ごととして

 岩手のエネルギーシフト(ヴェンデ)研究会の8年間の取り組みは、こうした社会変革の原動力となる企業家の革新的な挑戦を学び、その行動に励まされ、実践を試みてきた時間だったともいえます。

 人口減少、少子高齢が今後ますます進む地域の中で、中小企業家が地域の中核となり、地域全体で持続可能な地域を実現するために知恵を出し合って考え尽くす。これが働く社員の豊かな未来を保証し、地域に住む人々の豊かな生活を実現し、次世代へのバトンを引き継ぐための原点になるのだと、私たちは欧州を繰り返し訪問する中で、身体に記憶し続けてきました。

 私たちのエネルギーシフト(ヴェンデ)研究会立ち上げの理念には、岩手のエネルギーと食の自立を2050年に実現することを掲げています。今後はエネルギーのヴェンデ(大転換)とともに、農と食のヴェンデが同時に求められるのではないでしょうか。

 毎回の視察でドイツ・ソーラーコンプレックス社のミュラー社長とお会いするたびに言われていたことがあります。「どうして日本人はやらないのですか。すでに世界には知恵も知識も技術も技能も十分にある。阻んでいるのは考え方ではないか」

 十分にやるべきことは学んだ。次世代につなぐビジョンも掲げた。そして私たちに必要なことは、一人ひとりが持続可能な未来づくりを自分ごととして考え、できることから取り組むこと。今こそ考え方を根本から大転換し、行動に移す。そして愚直にそれを積み重ね続けることなのだと思います。

岩手同友会事務局長 菊田 哲

「中小企業家しんぶん」 2021年 12月 5日号より

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