【同友会景況調査(DOR)概要(2021年10~12月期)】一進一退の景況下、仕入価格高騰は価格転嫁がカギに

〈調査要項〉

調査時点 2021年12月1~15日
調査対象 2,220社 回答企業 882社(回答率39.73%)(建設153社、製造業263社、流通・商業262社、サービス業193社、その他11社)
平均従業員数 (1)37.6人(役員含む・正規従業員)(2)30.2人(臨時・パート・アルバイト)
※業況判断DI(デフュージョン・インデックス)は、好転企業が悪化企業を上回っている割合(%)をさす。DIが100に近いほど、好転企業の割合が高いことを意味し、DIが-100に近いほど、悪化企業の割合が高いことを意味している。
 好転・悪化が同数の場合は、DIは0となる。ほかの指標のDIも同じ考えで作成されている。各水準DI以外、本文中特に断りがないものは前年同期比。

景気の本格回復は困難な状況か

2021年12月8日に内閣府が発表した2021年7~9月期の国内総生産(GDP)は年率換算で3.6%減となりました。同時期、プラス成長が続いているアメリカやユーロ圏との差が鮮明になっています。

日銀の12月短観(全国企業短期経済観測調査)では、大企業製造業の業況判断指数(DI)はプラス18と前回調査から横ばい、中小企業製造業は△1、非製造業は△4と前期から若干の改善が見られましたが、依然としてマイナス圏にあります(図1)。

今期のDORは多くの指標で好転

業況判断DI(「好転」-「悪化」割合)は△4→8、足元の業況を示す業況水準DI(「良い」-「悪い」割合)は△12→4と好転しました。ただし、2020年4~6月期を底とした回復期の指標であることに注意する必要があります。

業況判断DIを業種別で見ると、建設業は△8→0、製造業は7→15、流通・商業は△13→0、サービス業は△3→13と全業種でマイナス圏から脱しました(図2)。また、多くの地域経済圏、企業規模でも好転傾向が見られましたが、次期(2022年1~3月期)は今期同様の水準、もしくは悪化の見通しとなっています。

売上・客単価と仕入単価の差が拡大

売上高DI、経常利益DI(両指標ともに「増加」-「悪化」割合)は2→10、△3→△1と増加、採算水準DI(「黒字」-「赤字」割合)は20→29と2期前の水準に戻りました。

2021年以降、急上昇を続けている仕入単価DI(「上昇」-「下降」割合)は、35→45→62と前期を超える上昇幅となり、一方、売上・客単価DI(「上昇」-「下降」割合)は9→11→19と仕入単価との差が拡大しています。差の拡大は5期連続で、収益の足かせとなっています。さらに需給ギャップの高まりや円安進行なども重なり、仕入単価上昇は今後も続くとの見方も強く、いっそうのコスト管理、価格転嫁が課題となっていくでしょう(図3)。

資金調達環境に変化の兆し?

資金繰りDI(「余裕」-「窮屈」割合)は前期並の水準を堅持していますが、製造業、100人以上規模の企業で余裕感が失われました。資金調達環境については、短期資金の借入環境でわずかに容易さが失われました。

売上高確保が難しい環境下で始まる、もしくは始まろうとしている借入返済に苦慮する企業も増えつつあります。自社の経営基盤の見直しと金融機関との関係構築は、より重要な課題となるでしょう(図4)。

設備投資に積極的な動きも人材不足感は再び強まる

設備投資の実施割合は4ポイント増の36%に上昇し、前期に見込んでいた計画割合を上回りました。特に製造業の上昇が大きく、次期も強気な予測をしています。この流れを反映して、設備の不足感もコロナ禍前の水準近くまで強まりました。

雇用面では、正規従業員数DI、臨時・パート・アルバイト数DI(両指標ともに「増加」-「減少」割合)は3→7、0→2と増加、所定外労働時間DIもコロナ禍で急落した2020年4~6月期以降増加傾向にあります。人手の過不足感DI(「過剰」-「不足」割合)は全業種で不足超過が続き、今期は不足感を強めました。

自社の現状をみつめ、将来を見据えた対応を

原材料価格高騰などの影響により、経営上の問題点として「仕入単価の上昇」の指摘割合が上昇しています(13→27→33→49%)。特に建設業と製造業でその傾向が強く、いずれも50%を超える指摘割合となっています。この動きと連動して「仕入先からの値上げの要請」も上昇しています(図5)。

また、経営上の力点は「付加価値の増大」(49→52%)が増加し、指摘割合が最も高かった「新規受注(顧客)の確保」(57→53%)とほぼ並びました。また、市場が動きはじめた影響もあるのか、「人材確保」(34→41%)の割合も高まっています。

記述回答では、一進一退の景況感の中で次の一手を思い悩む企業や、将来の変化を予測しながら、経営基盤の強化を図り、新規参入や市場の拡大を模索する企業など、さまざまな声が寄せられています。

世界的に物価上昇要因が目白押しとなっており、さらに厳しい経営環境になることも想定される中で、どのような環境にも対応できる柔軟性を身に付けていくことが求められています。

会員企業の取り組み~記述回答から

〇仕入単価の上昇に対し、より付加価値の高い商品の提供による売上高の増加で利益率を下げないようにする(青森、サービス業)
〇(1)コロナ後を見据えた経営戦略の再構築、(2)新規販路の開拓による売上増進、(3)社員教育の強化・全社一丸体制の構築(神奈川、流通・商業)
〇経営指針書の見直し、月次の決算や受注状況のデータなどを全社員に開示し、会社の状況や今後の見通しを共有している(新潟、建設業)
〇新規事業を展開、他社との連携も進めた。労働環境の整備として介護休暇、看護休暇を設けた(富山、流通・商業)
〇材料の高騰と欠品が著しい。これまで経験したことがない次元である。材料費率の大きな製品の値上げ交渉に注力した。リスク分散のため、他業界の動向の情報収集を強化する(愛知、製造業)
〇生産の改善で稼働率向上と良品歩留り率向上に努力した。つまり受注量が横ばいでも付加価値率向上を可能にした(大阪、製造業)
〇効率的な働き方を考え、有給休暇の取得を促した。さまざまな点で働きやすい環境づくりに努め、採用をめざしたい(大分、建設業)

「中小企業家しんぶん」 2022年 2月 5日号より