【あっ!こんな会社あったんだ】新事業の創出 下請け脱却で開発型メーカーへ (株)MFE HIMUKA 代表取締役社長 島原 俊英氏(宮崎)

 企画「あっこんな会社あったんだ」では、企業経営に関わるさまざまな専門課題に取り組む企業事例を紹介しています。今回は「新事業の創出」をテーマに、島原俊英氏((株)MFE HIMUKA代表取締役社長、宮崎同友会会員)の実践を紹介します。

 食品機械・設備の設計・製造、設置などを手掛ける(株)MFE HIMUKA。2019年の創業50周年を機に「日向中島鉄工所」から現在の社名に変更しました。

 創業は1969年、日本が高度経済成長期の最中に「鉄工業はサービス業」、「お客様第1主義」を掲げて島原氏の父が小さなプレハブの事務所ひとつから6名でスタートさせました。誠実な仕事ぶりで信用を獲得し、3年目には従業員30名の会社に成長、高い技術力と徹底した品質管理で業界内でも知られる会社となっていきました。

 島原氏は大学卒業後、プラントを輸出する会社に就職し、13年後の1999年に、父親の経営する同社に入社し、その年に同友会に入会しました。社長に就任したのは2001年。経営指針の成文化と浸透、採用や共育にも力を入れています。

コロナ禍の影響

 新型コロナウイルス感染拡大によって、食品業界を主力とする同社にも大きな影響がありました。業界の設備投資マインドが冷え込んだこと、元請け企業の受注が減ったことが大きな要因です。それに加え、ステンレスや鉄といった資材の高騰も響きました。コロナ前の2019年と比較すると売上は4割前後減少しています。

脱下請け・製品開発型メーカーへ

 島原氏は、売上の大半が元請けからの受注に左右される経営状況から脱却するには、構造転換が必要だと思っていました。コロナ前からプロダクトアウト(企業が作りたいものや持てる技術に従って商品開発を行い、提供・販売する考え)ではなく、マーケットイン(顧客が求めているものを調査し、それに基づいた製品を企業が開発・提供していこうという考え)になるべきだと考えており、新分野への挑戦を本格化させました。その第1弾として、農作物の鮮度を保持して長期貯蔵できるプレハブ型の低温調湿庫を開発しました。商品名は「fresco」、イタリア語で「新鮮な」を意味します。野菜工場の経営から生鮮野菜の鮮度保持の重要性に気づき、宮崎県工業技術センターの特許技術をベースに商品開発を続け、5年かけて完成させました。特徴は、庫内を低温度帯(3~15度)、湿度80~98%に調整保持し、カビや傷みの原因となる結露の発生をなくし、食品の劣化を防ぐことにあります。収穫量や需給バランスで市場価格が決まる農産物を庫内で寝かせて出荷時期をずらすことで、生産者の収入向上につなげようというもの。事業再構築補助金も利用し、インターネット上で商品に興味を示した見込み客に対して営業する「デジタル・マーケティング」を用いた販路開拓など、開発型メーカーとしての新たな事業構築に力を入れています。

海外視察で見えたわが社のこれから

 2017年にアメリカのシアトルを視察し、若い人たちが無農薬野菜を生産し、直接販売する仕組みを作ることで地域経済を循環させている様子を目の当たりにしました。また、岩手同友会が実施している欧州視察にも2017年と2018年に参加。再生可能エネルギーを中心に、次世代のために何を残すことができるか、分析から産業のあり方、人材育成の仕組みを考えていることも知りました。そこから、新たに事業ドメインを「食・環境・エネルギー」と捉え直し、さまざまな挑戦を続けています。ものづくりを通して宮崎の課題解決することを基本コンセプトに、地域内の経済循環を目的とする新電力会社の創設などSDGsにも力を入れているほか、県内の企業や金融機関、自治体とワークショップを開催し新事業の創出に取り組んでいます。生き残るにはイノベーションが不可欠。これまで培ってきたモノづくりの力を生かすために、産学官金言の多様な人材と、地域のニーズや課題について協議をし、その解決に向けて力を合わせる「オープンイノベーション」の場をつくりました。日向市中小企業振興基本条例を推進し、自社だけでなく地域の活性化に貢献する中小企業のあり方を模索しています。

会社概要

創業:1969年
事業内容:産業用機械の製造、野菜工場の運営、新電力会社への参画
従業員数:57名
所在地:宮崎県日向市日知屋17148-9
URL:https://www.hn-t.co.jp/

「中小企業家しんぶん」 2022年 6月 15日号より