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【黒瀬直宏が迫る 戦後中小企業史】第13回 長期停滞期(1991年~)の中小企業問題(3) NPO法人アジア中小企業協力機構 理事長 黒瀬 直宏

 「戦後中小企業史」をテーマにした黒瀬直宏氏(嘉悦大学元教授)の連載。第13回は、長期停滞期(1991年~)の中小企業問題(3)です。

コロナ大不況の襲来

 前回は「生産の東アジア化」が中小企業問題をかつてなく悪化させ、中小企業はピーク時1986年533万社から2016年358万社へ、30年で3分の1が消滅したと述べました。「生産の東アジア化」により海外生産比率は94~06年と09~14年に上昇し、中小企業問題も2段階にわたって進行しましたが、海外生産比率は14~19年は横ばいに転じました。このため、14年ごろから中小製造業の出荷額の低下に歯止めがかかり、「生産の東アジア化」による中小企業問題の進行は一段落したと見られます。しかし、それもつかの間、「米中貿易戦争」の開始、消費税増税(19年10月)で企業の業況はまた悪化、さらに20年初めにコロナ禍が襲来し、3月から感染が急拡大しました。コロナ禍は日本の内外需を同時に大幅縮小させ、中国での感染対策による工場の稼働停止など部品供給網も破壊したため、平時における経済危機としてはリーマンショックを上回り、戦前の「昭和恐慌」(1930~32年)に迫る大不況となりました。

より大きな打撃が中小企業に

 すでに19年から中小企業の業況は大企業より悪化していましたが、東京商工リサーチ「第20回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」によると、大企業、中小企業とも前年同月より売上を減らしている企業割合は、ピークの20年5月には8割を突破しましたが、中小企業の減収企業割合はどの月でも大企業を上回り、より大きく市場縮小の打撃を受けています。飲食業、サービス業の中小企業の打撃はよく知られていますが、製造業でも、2020年4・5月における中小の自動車部品企業の減産率は自動車メーカーの減産率より大きく、自動車メーカーが9月以降、増産に転じてもなお減産が続きました。

 また、自動車メーカーは業績悪化を少しでも防ぐため、コスト切り下げを一段と強化し、人件費削減だけでなく「購買原低」も強化しました。例えば、トヨタ自動車は2020年7月、一部の部品メーカーに対し価格引下を要請しました。通常、価格の見直しは4月、10月の2回で、途中の値下要請は異例のことです。「自動車大手のコスト意識はさらに厳しくなり、以前は3社程度だった競合相手が、今では10社を超えることも」というように、中小企業同士を競わせて下請単価を下げる動きも報じられました(『朝日新聞』2020年12月15日付)。

休廃業の急増

 コロナ大不況の勃発により、「生産の東アジア化」により2段階にわたって進行してきた90年代以降の中小企業問題は第3段階に突入したといえます。それは、中小企業の休廃業の増加として現れました。中小企業の倒産は政府の金融対策により防がれ、2020年の倒産件数は19年よりかえって減少しました。しかし、コロナ禍による売上急減をきっかけに経営の見通しや後継者確保の難しい中小企業の中から、負債が膨らむ前に事業を停止する「あきらめ廃業」や政府の支援策などで頑張ってきたがコロナ禍の長期化で力尽きた「息切れ廃業」が増加しました。2019年には前年より減少していた休廃業・解散件数は2020年1~10月には前年同期比21・5%増に跳ね上がりました。20年通期では前年比14・6%増とやや落ち着いたものの、件数(4万9698件)も増加率も過去最高となりました(東京商工リサーチ「2020年休廃業・解散企業動向調査」等)。

 現在、コロナの感染はようやく落ち着きつつあり、中小企業の減収企業割合もピーク時2020年5月の88・0%から徐々に低下を続けてきました。とは言え、2022年1月においてもなお48・2%あります(同「第20回新型コロナウイルスに関するアンケート調査」)。その上に、中小企業の倒産を防いできた実質無利子無担保融資の返済負担がのしかかっています。新たな問題として原材料価格の高騰も加わりました。90年代に始まった中小企業の戦後最悪の危機はなお進行しています。

 しかし、以上のような逆境下にあっても革新に挑んでいる中小企業もあります。中小企業の企業家活動は抑制されることはあっても廃絶はされません。このことを、次回以降述べます。

「中小企業家しんぶん」 2022年 6月 15日号より

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