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中小企業の社会的役割を問う~2022年の今日に求められる中小企業~ 慶応義塾大学経済学部教授(中同協企業環境研究センター座長) 植田 浩史氏

中小企業憲章・条例推進月間、中小企業魅力発信月間キックオフ【基調講演】

 6月3日に開催された「中小企業憲章・条例推進月間、中小企業魅力発信月間キックオフ行事」では、植田浩史・慶応義塾大学経済学部教授(中同協企業環境研究センター座長)が基調講演を行いました。報告要旨を紹介します。

「中小企業憲章」の問題提起の重要性

 中小企業白書で示されているように企業数の99・7%、従業者数の約7割と、日本経済の圧倒的多数を占めているのが中小企業です。多くの人の生活や働く場や産業集積を支え、大きな役割を果たしています。

 中小企業の特長の1つとして「異質多元性」が挙げられます。中小企業といっても規模や業種、経営者、企業組織など実に多様です。これは同時に見方や問題意識によって捉え方が異なることを示しています。こうした中で中小企業憲章における中小企業の捉え方は非常に重要です。中小企業の役割、存在意義や日本の経済・社会への貢献を高く謳(うた)うとともに、中小企業は困難に向かって挑戦し努力し続ける存在であり、そうした努力が日本経済・地域経済を活気づけ、地域の生活・社会・文化を発展させていくこと。さらに、その社会的役割を重視し、中小企業を支えるために政府や地域による支援が必要だと指摘しています。こうした見方で中小企業を捉えていくことが大事です。

中小企業の責務は何か

 中小企業の役割・存在意義として語られていることは、同時に中小企業が果たすべき責任であるということです。中小企業憲章前文は、「中小企業は、経済をけん引し、社会の主役とならなければならない。常に時代の先駆けとして積極果敢に挑戦を続け、多くの難局にあってもこれを乗り越えていかなければならない」と置き換えられます。

 ある自治体で中小企業振興基本条例について話をする機会があった際に、参加していた中小企業経営者の方が「条例で指摘されている中小企業の役割を、すべて医者を主語にして考え、具体的に何をするのか考えている」と語っていたことが強く印象に残っています。

中小企業をめぐる経営環境

 今日の中小企業をめぐる経営環境は、厳しさを増しています。これは3つの層の経営環境の問題が一気に押し寄せていることによる厳しさであると考えています。(図)

 まず底層にあるのが「日本社会の成熟・縮小」、具体的には少子高齢社会・人口減少の問題です。そして、その上にある層は、バブル経済崩壊後の「失われた30年」と呼ばれる低成長時代です。その上に「コロナ危機」と「ウクライナ危機」が重なりました。「失われた30年」から脱却できていない日本をコロナ危機とウクライナ危機が襲い、中小企業にさまざまな影響を与えています。

 大きな問題は物価上昇で、中でも深刻なのは企業物価指数(企業間で売買する物品の価格水準を数値化した物価関連の経済指数)の上昇です。日本はほかの先進諸国と比べて消費者物価指数の上昇は遅かったものの、急激に上昇しています。こうした中で価格決定権を持ち、販売価格を上げられるのかが企業生命の存続に直結する問題となっていくでしょう。同友会では、かねてより価格決定権を持てる企業づくりを提唱してきました。その真価が問われています。

頑張る中小企業~宮城県南三陸町

 宮城県南三陸町は、東日本大震災で人的・物的被害が大きかった地域です。この地域の中心産業は水産加工業で、震災直後から地域の中小企業を中心に復興に取り組み、地域を支えてきました。

 後藤海産の後藤清広さん(宮城同友会会員)は、メーカーに勤務し生産管理などに携わったのちに家業を継ぎ、漁業に経営をという問題意識で取り組んできました。南三陸町戸倉地区はカキの養殖が有名な地域ですが、震災前は過密養殖であったため身入りが悪く、出荷するまでに3年かかっていました。過密養殖に危機感を持っていた後藤さんは2011年に組合の部会長に就任、就任直後に大震災に遭い、養殖場がすべて流されるという事態になりました。

 組合全体で復興について議論を重ね、反対もありましたが、養殖施設の間隔をあけ、台数を3分の1にするという後藤さんの案を採用することになりました。その結果、出荷までに3年かかっていたものが1年で出荷可能になり、1経営体当たりの生産量は約2倍に、生産金額も増加し、経費は減少、労働時間は5分の2の削減になりました。収入も安定し労働時間も減ったことから、若い人のカキ養殖の参入が進み、若者比率が高まるという効果も生まれました。

 復興への取り組みを通じて、震災前には見られなかったネットワークの構築、新事業の立ち上げ、それをきっかけに移住し新規事業に着手する人の存在など、自社だけでなくネットワークで地域を発展させていくサイクルがさまざまな形で行われ、復興に結びついています。こうした新しい産業を支えるために、南三陸町では中小企業振興基本条例ができ、それを起点に発展を遂げてきたという点も見逃せません。

中小企業の存在意義と可能性

 中小企業の存在意義が中小企業憲章に書かれているとお伝えしましたが、次の5点を重視したいと思います。(1)地域資源を活用して地域の雇用や経済を生かし、付加価値を付けて発展させていくために中小企業は「地域に存在する」、(2)経営者としての自覚を持ち、地域で生活し、地域資源を生かして事業化、ビジネス化していく「中小企業家」の存在、(3)自覚を持った中小企業家が事業化、ビジネス化を進めることで、従来のものを大切にしながら地域の新しい「創造」に貢献し、新しいネットワーク、事業を生み出す、(4)((1)~(3)のような)中小企業の事業そのものが「地域の生活、雇用を支える」。実際に地域の生活の重要な部分を支える企業がたくさん存在しています。そして(5)中小企業は「時代変化、産業構造の変化を支える新たな担い手」として、重要な意味を持っている。

 こうした中小企業の可能性を生かすのは、中小企業経営における人間性、社会性、科学性が根底にあることが前提であり、同友会でも繰り返し大切なこととして共有されています。中小企業憲章や条例を生かすというのは、中小企業の役割・存在意義を中小企業の責任として自覚的に受け止め、自社の課題として、自社の事業やビジネスに落とし込み実践する中小企業を地域に増やしていくことであると同時に、そうした魅力的な中小企業が生まれ、発展する環境を築き、地域で支えていく仕組みを作っていくことだということを皆さんと確認し報告を終わりたいと思います。

「中小企業家しんぶん」 2022年 7月 25日号より

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