中小企業の賃上げにつながる価格形成を~視察先で実現した下請構造の変化

同友会景況調査報告(DOR)の2024年1~3月期調査によれば、業況判断DI(「好転」―「悪化」割合)は0→△1、足元の景況を示す業況水準DI(「良い」―「悪い」割合)は2→△5、売上高DI(「増加」―「減少」割合)は6→△1、経常利益DI(「増加」―「減少」割合)は△3→△5と、主要指標はすべてがマイナス圏に落ち、悪化の傾向を示しました。同時期の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)によると、大企業製造業と中小企業製造業・非製造業が下落に転じたのと整合します。

 ここで、DORのタイトルを「中小企業はマイナス圏に/賃上げにつながる価格形成を」としました。前半部分は中小企業の景況のマイナス圏に対し、一時的に悪化したという現状認識を述べたもの。後半部分は自動車など重層的下請構造のところでも、賃上げにつながる価格形成を元請けに要請する内容です。後半部分はどこまで取り組まれるか不明ですが、行政の一部は真剣に取り組もうとしています。

 公正取引委員会は2024年3月7日、日産自動車に対して下請け企業との取引で不当な減額を行っていたとして再発防止を求める勧告を出しました。日産は完成車部品の製造委託先36社に、発注時に決めた金額から減額。減額は2021年1月~23年4月に約30億円にのぼり、下請法違反にあたります。この話を聞いた時、「さもありなん」というように受け止めました。しかも、日産だと言う。いかに多くの中小企業がほとんど名前も出ずに涙をのんだことか。その一角にメスが入った形です。

 日本の自動車業界は完成車メーカーを頂点に「ケイレツ」と呼ぶ親密な部品会社が支える構造となっています。例えば、トヨタの取引先は6次までで2万4000社、日産は1万社ほどにのぼると言われます。今回の勧告を機に、公正取引委員会や中小企業庁などはかなり本気になっていると言われます。政府が掲げる「成長と分配の好循環の実現」は中小企業の賃上げがカギを握ると言われ、継続的な賃上げを妨げかねない企業間の不適切な取り引きにメスを入れる必要があったからと言われています。

 一方、行政の姿勢が転換するなか、親企業の変化の兆しも。トヨタは2024年4月~9月から部品の仕入価格に労務費の上昇分を反映させると表明。1次取引先に加え、2次以降の労務費も議論の対象にします。ホンダは24年3月期に毎年部品会社に求めていた値下げ要請をしない方針とのこと。自動車や電機関連などで賃上げにつながる価格形成が取り組まれる模様です(日本経済新聞、2024年3月8日)。下請け問題に携わった身からすれば、隔世の感を禁じ得ません。

 DOR判定会議では、ある部品メーカーを視察した際、この部品メーカーが過去最高益を出したが、その理由にはこの会社の親企業の変化にあるようだとの報告がありました。願わくば、この1回に終わらず、多くの下請け企業の継続的な賃上げにつなげてほしいものです。

(U)

「中小企業家しんぶん」 2024年 5月 15日号より