2024年1~3月期の同友会景況調査(DOR)オプション調査結果より
事業継続計画(BCP)策定率25%、企業規模に比例 小規模企業の危機対策の推進を
日本大学工学部 教授 和田耕治(中同協企業環境研究センター副座長)

頻発する危機

昨今、中小企業は多くの危機に直面しています。2011年3月の東日本大震災に始まり2016年4月の熊本地震、2019年10月の東日本台風や2020年7月の熊本豪雨、2024年1月の能登半島地震と毎年のように自然災害が発生しています。さらに、2020年第14半期から約3年間にわたるコロナ禍、2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻など、自然災害以外の危機が社会経済や中小企業経営に大きな打撃を与えています。このように厳しい状況下で、中小企業は自らがもつ危機管理能力と活力により、試練を乗り越えています。

2024年1~3月期のDORでは、経営における危機管理の1つとして事業継続計画策定に関するオプション調査を実施しました。有効回答数は837件で、詳細は以下のとおりです。

最も意識されるリスク「地震」

事業継続上で意識しているリスクについては、複数回答で多い順に「地震」(57%)、「通信(インターネット・電話)の途絶」(35%)、「取引先企業の倒産・事業中断」(35%)、「サーバー・データセンター等の情報システムの停止」(32%)、「台風被害」(30%)、「インフラ( 電力・水道等)の途絶」(26%)となっています。今年1月に能登半島地震が発生したこともあり、「地震」と回答した割合が突出していると考えられます。反対に「テロ・紛争・戦争」(10%)の割合が低く、世界的に見ても日本の治安がよいことを象徴している結果となっています(図1)。

業種や地域で特徴的なリスクは

業種別で特徴的な傾向が見られました。3割以上の企業でリスクとして意識している項目に着目すると、建設業で「経営幹部の突然の喪失」が32%となっています。昨今の人材不足の中、労働力の流動化が増していることも理由として考えられます。サービス業では「新型コロナウイルス等の感染」と「個人情報、顧客情報の流出」が同率で35%でした。

また、地域経済圏別では、九州・沖縄の「台風被害」が48%で突出していました。台風の通り道で幾たびも大きな被害を受けている地域であることから、台風対策は重要な危機管理の1つとして位置づけられているようです。

BCP策定済、策定予定企業割合は74%

事業継続計画(BCP)の策定状況は、「策定済み」(25%)、「策定中」(13%)、「策定予定(検討中を含む)」(36%)を合わせると74%になり、約4分の3の企業がBCP策定に関わっていることが分かりました(図2)。

また、「策定済み」と「策定中」の合計値は企業規模が大きくなるほど割合が高く、「100人以上」では48%とほぼ半数に達していますが、「5人未満」は9%と1割に達していませんでした。

他方、「予定はない」(22%) と「事業継続計画(BCP)とは何かを知らなかった」(3%)と回答した企業割合は4分の1(25%)、中でも建設業と流通・商業は約3割と、他業種と比較して策定割合が低いことが分かりました。取引先を含めた危機管理という点でもBCPの一層の理解と普及の推進が引き続き重要課題となっています。

「従業員の安全確保と安全確認」を最優先

BCPにどのような内容を記載しているかについては、複数回答で多い順に「従業員の安全確保と安全確認」(88%)、「緊急時の連絡手段、情報システム、拠点」(74%)、「事業所の安全確保」、「緊急時の組織体制と指揮命令系統」(いずれも54%)、「水や食料、燃料等の備蓄」、「業務データ等のバックアップ」(いずれも50%)、「緊急時の優先業務」(44%)となっています。

これら上位項目に関しては業種による傾向の違いはありませんでしたが、製造業で「製品やサービスの供給体制」(30%)、「代替拠点、代替調達先」(28%)が全体を上回る回答となっています。災害時の資材や部品の調達が、製造業の事業継続上、特に重要であると位置づけられていることを象徴したものと言えます。また、「地域との協調、連携」(26%)は、建設業とサービス業でいずれも30%を超える割合となっており、より地域密着を意識した経営を行っていることがうかがえます(図3)。

「BCPの点検・見直し」実施は74%

BCPの運用などの事業継続に関する点検・見直しは74%の企業で実施されています。内訳は「定期的に実施」、「不定期に実施」が同率で37%でした。また、定期的に実施している企業のうち「1年に1回」が26%と最多となっています。

業種別では、製造業とサービス業で点検・見直しをしている傾向が高く、企業規模が大きくなるほど点検・見直しの実施割合も高くなる傾向が見られました。なお、「全く実施していない」は23%となっています。

「事業継続訓練」実施は62%

BCPの運用などの事業継続に関する訓練は62%の企業で実施されています。内訳は「定期的に実施」が39%、「不定期に実施」が23%でした。なお、定期的に実施している企業のうち「1年に1回」が27%と最多で、点検・見直しと同様の傾向となっています。業種では、製造業の実施割合が高い傾向にあります。

しかし、「全く実施していない」企業も35%ありました。業種別では流通・商業(48%)が突出して多くなっています。また、企業規模が小さくなるほど、実施していない傾向は強くなり、「100人以上」の9%に対して「5人未満」は63%と著しい差が見られます。

小規模企業ほどBCP策定割合も低いことが本調査で明らかになっています。小規模企業に対する事業継続の意識向上、具体的な取り組みとしてのBCP策定、防災訓練、避難訓練などの諸訓練実施の推進は、地域経済の存続と維持においても大きな意味を持っており、今後の重要課題として注力していく必要があります。

「中小企業家しんぶん」 2024年 5月 25日号より